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土方と亀姫 拾壱

深夜…板垣退助と伊地知正治が率いる東征軍が母成峠を制圧した後、翌日の猪苗代攻撃のために母成峠の防塁から沼尻にかけて兵を休めて駐屯しているところに、森林をかき分けて偵察に来た新撰組の島田魁は、磐梯山と吾妻山の2方向から大きな炎がもの凄い速さで筋状に進んで来るのを目撃した。よく見ると炎は、三丈(約9m)ほどもある燃える車輪だった。正体は妖怪「火車」だった。
「業火だ…」島田が呟いたように、火車の炎は、まさに地獄の炎だった。2匹の火車は、あっという間に東征軍の駐屯地に走り込んで行き、薩摩と土佐の兵たちを燃やした。駐屯地は地獄の炎で燃え上がり、もの凄い悲鳴と阿鼻叫喚の叫びが聞こえた。板垣も伊地知も地獄の苦しみの果てに燃え尽きてしまったことだろう。
「これは大変だ。土方様に報せなくては…」
島田は猪苗代に向って走った。
同じ頃、会津若松への越後口には苦労の末に長岡城を落として会津に進軍してきた長州の山縣有朋が率いる東征軍が、おびただしい数の「おばりよん」と「手の目」に襲撃されていた。
おばりよんは子どものように小さいが「おばりよん(おぶってくれ)」と言って負ぶさってくる妖怪で、負ぶさったと思うや、あっという間に石のように重くなるのだ。東征軍の兵たちは、おばりよんに背中に乗られて背骨と腰骨をへし折られて死んだ。大柄で痩身な手の目は恐ろしい妖怪だ。次々と兵たちに襲いかかり肉を食い、全身の骨を抜いていった。山縣有朋も手の目の犠牲者となってしまった。
さらに日光口には「百目鬼(どうめき)」と「雷獣」が現れた。佐賀藩兵と宇都宮藩兵は百目鬼に生き血を吸われ、戦場を逃げ出した兵も雷獣が放つ雷にうたれて死んでいった。
亀姫が会津に呼び寄せた妖怪たちはアームストロング砲やスペンサー銃などの新式兵器で幕府軍を追いつめた東征軍を、たった数時間で全滅させてしまった。会津藩は、亀姫と妖怪たちによって救われたのだった。
しかし、亀姫の戦いはこれだけでは終わらなかった。

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