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入院1

昨年の今頃のことです。スマホのカレンダーに、その記録があります。12月5日に38度の熱が出ました。寒気がして具合が悪かったのですが、翌日には熱が下がったので、病院には行かなかったのです。しかし、その後、気持ちの悪い異変が起きました。10日から12日まで3日間続けて鼻血が出たのです。熱は平常でした。僕は基礎体温が低く35.5度くらいです。

それから2日あけて15日に東京で打ち合わせに参加して帰宅したら、また鼻血が出ました。それから17日まで鼻血が続いたのです。18日に鼻血は止まりましたが、今度は起き上がれなくなるくらい具合が悪くなって、熱を測ったら38.5度でした。

「こりゃいかん」と、翌日には病院に行こうと決めて寝たら、寒くて、苦しくて眠れないのです。毛布と布団をグルグル巻きにして横になってもブルブルと震えるぐらいに寒くて…。19日の朝7時頃に救急車を呼んで、かかりつけの総合病院まで運んでもらいました。

救急外来の中で点滴をつけられて、いろいろと検査をしたのです。血液検査(体内炎症度を測るCRP値やインフルエンザ抗体などを調べるようです)に、柄の長い綿棒を両方の鼻の奥にグリグリとねじ込まれて検体検査、肺のレントゲンなど…あとは、よく覚えていませんが、それらを参照しながら診察してもらうと「インフルエンザA型をこじらせて肺炎を起こしているね。個室で隔離入院になるよ」と言われたのです。

それから、生まれて初めて約1週間の入院生活が始まったのでした。

点滴の針(昔は金属製で痛かったのですが、最近はプラスチック製で柔軟です)を刺されて点滴スタンドを引きずりながら歩きます。ひとりの看護師が僕の肩を支えて「それじゃ、お部屋に案内しますから。マスクをちゃんとしてくださいね」と言って、職員用のエレベーターに乗り込みます。一般用のエレベーターでは感染を広めてしまうかもしれないからです。当たり前のことですが、マスクをきちんとしていないと看護師さんに怒られます。高熱でフラつく身体でエレベーターに乗ると、エレベーターの揺れで目眩がしました。案内をしてくれる看護師に肩を支えられながら「大丈夫ですか?」と聞かれましたが、「はい」と返事をするのがやっとでした。入院病棟は、同じ病院で3ヶ月に1度、外来で定期検診をしているのとは違った印象でした。特に違うのが看護師さんです。外来の看護師さんとは全然違うのです。

病棟は広くて、僕の隔離部屋は奥の方にありました。部屋の中に入ると、窓の外がよく見えました。病院の周囲には見栄えのするモノはありませんが、外の景色が見えることで息苦しさがないのです。

点滴スタンドを邪魔にならないように脇に立たせてベッドに横たわると目眩がしました。天井がグルグルと回ります。この数年前に肺炎になったことがあって、そのとき自分の目を鏡で見たら本当に眼窩の中で目が回ってるんですよ。ベッドに横たわった瞬間から身体が動かせなくなりました。

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別な看護師さんが入ってきて、大きな点滴袋をもうひとつぶら下げ、そこから別な薬液が体内に入るようにします。これをビギーバック法というそうです。

部屋まで送ってくれた看護師さんが「それでは失礼します」と言って部屋から出て行きました。交代した看護師さんが、ベッドの頭上から管を引いて酸素吸入のための「鼻腔カニューラ」を鼻先に取り付け、指先にはパルスオキシメーターと呼ばれる装置をクリップで挟みます。見れば、僕の身体は管とコードだらけになっていました。

ひとおおり作業を終えた看護師さんは「トイレに行きたくなったら呼び出しボタンを押して呼んで下さいね」と言って出て行きました。

おっと、忘れていました。傍らにはかみさんもついていましたが、本来であれば、感染を拡大するかもしれないので、付き添いは禁止なのです。それから「ウイルスが感染しないほどに減少するまで」部屋の外には絶対に出られないのです。付き添っているかみさんが、「部屋のドアには“隔離病室”って紙が貼られてるよ」と言って笑いました。


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