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美味探訪「船橋あまから屋」

2013年にブログに書いた記事です。僕はこういうメチャクチャな書き方が似合っているのかもしれません。ちなみに「船橋あまから屋」は、数年前に閉店して、今は影も形もありません。残念なことです。

以前から気になっていた船橋の洋食屋「あまから屋」。何度かその前を通るのだけれど、入りにくい雰囲気なのである。なんだかかんだか閉鎖的なのである。っつうか”大人の店”っつう感じ。何か食べてみたかったけれど、やめるのである。だって…怖いんだもん。洋食屋って書いてあるんだから「オフコースAセット 19800円」なんて料理ばっかりだと思うじゃんw 貧乏人は牛丼食うのだって常にエブリディビクビクしてるんだぜ。

ほんで、今日はかみさんが職連校の卒業式(当時はかみさんが職業訓練校に通っていました)なので、その後に待ち合わせるべということになってアタシも船橋までトトトトンと出かけちゃったのである。んで、船橋に着いてかみさんに電話(PHSナイスTEL)したら「あ、わりい、わりい…職連校の仲間と食事してから職安に寄っから、なんか食ってて…」と、いつになくガラの悪い言葉遣い…携帯が時代遅れなガラケーだからだろうか? まいいやっプンプンプン…ってんで、その勢いで「あまから屋」に入店しちゃったのである。

ドアを押し開けると…ゲゲ!そそ…そこは!

あまから屋に入店するなり驚いちゃった。びっくりだよ、ふんとにもう…。可愛いネエチャンに声かけて野太い声出された時以上にびっくらこいちゃった。だってアタイ心が原発の防潮堤以上に脆弱だからさ。

店内は紫煙がぷうーーーーーーーんと充満しちゃっててさ、おっさんおばちゃん連中がタバコふかしながらガッハッハハって大笑いしている。酔っぱらいだよこいつらら…。煙出すなよ、火つけるなよ…ジミヘンかおまいらは!って怒れるわけないので、座ろうとしたらこれが満席に近いんだよ。

んで、労務者風のおっさんの前がひとつだけ空いていたので、手を前方に振りながら「すんまへん」って関西人でもないのに、そんな風な言葉使っちゃって「よっこらしょい」と座るわけだよ。

座ってしばらくしても誰も注文とりに来ないしメニューは壁に貼ってある汚い経年変化した黄色い紙になぐり書きしたもんしかないし…焦っちゃったよ。輪番停電以上に暗い性格してるからさ。黄色い紙の文字を見ていくと「塩辛」「ひじき」「切干」に「らっきょう100円」「納豆100円」「ノリ佃煮100円」なーーて文字が並んでる中に、申し訳なさそうに「カツ煮」「半定食」なんて文字がやっとこさ見えるってわけよ。半定食って何だろ?って思ってよく見ると、横にライス、味噌汁って単品文字が並んでるから、多分、半分ライスに味噌汁にうつけ者じゃなかった漬物がセットされてるんだと思い描いちゃったわけですよ。

しょうがないから目に入った「カツ煮」と「半ご飯に味噌汁にうつけ者なお漬物の半定食」を組み合わせて注文しようと意を決したにも関わらず誰も注文取りに来ねぇんだよ。

しょうがねえから前のおっさんに「あのう…すみません…この店はどうやって注文すればよろしいんでしょうか?」なんて丁寧に聞いちゃったりなんかしちゃったりするわけだよ。

すると前のおっさん、コック帽かぶった店主らしいヨレヨレのおじいちゃんを指して「アレアレ」って言うのよ。ああ、おじいちゃんに注文すればいいんだなって理解して「すみませーーーーん!」「はいぃ?」「カツ煮の半定食をお願いします」「カレイの煮付けはありませんよ」「ん…聞こえないんだな。耳が九州の三池炭鉱あたりまで遠いんだな」って思って大声出して「違いますよ。カツ煮の半定食ですよっ!」って言うと「ああ、はいはい。おおおーーーい!カツ煮の半定食ぅ!」「ああーーーーい!」って奥で女性の声がする。しかも高齢者の女性の声だじょ…。

結局、昼から飲める普通の飲み屋だったんです。ほんじゃ洋食屋っちゅう看板に偽りありじゃねえかヽ(`Д´)ノコラ なんて抗議できません。だって、豆腐に頭をぶつけたら死んじゃうし、任期半ばで勝手に総理大臣辞めちゃうほどに身も心もアソコも弱いんですもん。

そうこうしているうちにカツ煮半定食がおばちゃんによって運ばれてきます。「あ、あなたが先ほど奥でご返事されていた女性でしたか?」と声に出さずにイメージの中で聞いてみる。「古い船を動かせるのは古い水夫じゃないだろう?」なんてイメージの詩を口ずさむことなく心の中で聞いてみる。

テーブルの上に表れ出でたるはカツ煮というよりも「ハムカツ煮」的な薄さの代物。「なんじゃこりゃぁ!」精神薄弱たる(肉が薄いというのを芸術的に表現しているだけじゃき)偽装形成肉のようだが、それも、あまりにも不味そうである。ペペペノペッペである。

で、一口食してみる。口中に放り込んでみる。モグモグモグンチョモグリンチョ「不味くはないけど美味くもない、ほんにあなたは屁のようじゃ」

カツ煮を頬張って、そこにご飯を放り込んでクチャクチャ噛んでみる。「うーん、うまく融合しないなぁ。こりゃ、酒のつまみなんだな。肴なんだな。判断を誤って酒の肴を発注しちゃったんだ」仕方がないから諦めて、口中にカツ煮を入れる、ご飯を投入、カツ煮を放り込んではご飯を放り込む。んで噛んじゃう。クチャクチャクッチャリクッチャンコ。カツ煮を食べる、ご飯を食べる、ご飯を食べずにカツ煮を食べない、カツ煮を食べずにご飯を食べるというように安楽亭焼肉食事法を活用してみるがうまくいかない。

ってカツ煮半定食と格闘していると店内には様々な人たちの雑談話が聞こえてくる。

「あまから屋」のお客さんたちは常連さんのようだ。昼食を食べに来ているのは僕だけで、皆、昼間からお酒を飲んでバカな話をしている。面白かったのはお年を召したお嬢様の3人連れ。

太った意地の悪そうなお嬢様が「あのさ、あなたはお嬢さん。あたしは庶民。もう我慢できない。もう辞める。あなたに金を返したら辞めるから…もう腹が立つ」と、それまで静かに話していたのにいきなり怒り出した。

すると痩せた美人っぽいお嬢様が「あたしは何も言ってないじゃない。あなたが勝手に思い込んでるだけ。あなたが悪事を働くときにはいっつも同じことを言うんだもの…」とお返しになる。

ってここまで来ると、売り言葉に買い言葉ってことになりますね。「何?あたしが悪事を働くって何よ? 悪事だってさ、腹が立つ…」って太ったお嬢様の怒りに拍車がかかります。

気になるもうひとりのお嬢様は、2人のお嬢様の間に入って仲裁するかと思いきや「そうよねお嬢様よね」「悪事を働いてるわよね」「腹が立つわよね」とどっちつかずの意見を繰り返しているので埒が開きません。

そのうちひとりのオジイ様が会計にお立ちになり、コック帽のお爺さん店主に怒りをぶつけ始めます。

「あのさ、俺はビール1本しか飲んでないんだよ。なんで2本って打つんだよ?」

「だって、明細に書いてあるんだもの」

「書いてあるって言っても1本は1本なんだよ」

「一緒にいたお客さんが飲んでたじゃないのかね?」

「俺はひとりで来てるんだよ。”さっきの男”は知らない人だよ。俺は1本しか飲んでないんだよ」

「うーん…そうなの?」

「そうだよ。打ち直しなよ。見張ってっからここで」

「おかしいなぁ~」

2人のやりとりを聞いていたおかみさんが近くまでやって来て様子を見ている。自分が付けた伝票だからだね。

店の表で1人のおっさんが笑ってる。記憶にないけど、”さっきの男”ってのはこいつか? もしかしたら会計進めてるオジイ様とグルでコック帽店主を詐欺っているのか? それにしてはビール1本とはあまりにもケチな詐欺だね。

一方で、さっきのお嬢様たちも小さな紛争を続けている。

「もうね、1万円を返してさ、あなたみたいなお嬢様とはもうつきあわない。もう、あったまきた」

「そうそう、頭にくるわよね」

「お金の問題じゃないんだよなぁ」

「そうそう、お金なんかどうでもいい」

なんかカルトな雑談だね。雑談はいつまでも続いている。

はぁ~。あっという間にカツ煮もご飯もなくなったのでホッとため息をついてみる。あ!と気がつく。味噌汁を飲んでいない…飲んでいないだけでなく、汁の具は何者かも吾輩は確認しておらん。これはいかん。吾輩は拙者は僕は俺は私は遺憾に思うのだよ。で、味噌汁の中に箸を突っ込んで具は何ものなのかを確認すると、アサリの殻の中に小さな身が入っておる。そういえば総入れ歯、船橋は潮干狩りの名所であった。

アサリの身を箸でつまんで口の中に入れながらズズズと船橋港の潮の香りがする汁を啜って、硬くなった塩辛い胡瓜?の香の物をガリガリと齧りながら、マフラーを首に巻き、コートを着込んでからGパンのポケットから千円札1枚を出して席を立つ。「ごちそうさま」と言いながらコック帽の主人に「いくらすか?」と聞く。

「750円だよ」

「はい」と千円札をレジ台に置く。

「この店、いつからやってるんですか?」

「朝7時からやってるよ」

「違います。創業のことですよん」

「創業? もう20年になるよ」

え、意外に短い。もっと古いオールディズかと思ってたよ。

「ふーん…ありがとうございます」

コック帽店主が、お釣りを出そうとゴソゴソやってると。さっきのお嬢様たちの声が聞こえる。

「あんたはお嬢さんだから、あたしの気持ちがわかんないんだよ」

「そうそう、わかんない」

「あたしはお嬢さんじゃないわよ。いい加減にして」

「そうそう、いい加減にしないと」

まだまだお嬢様たちの、小さな紛争は続いているが、何となく丸くおさまりそうな雰囲気だ。

「はいお釣り」

「あ、ごちそうさまでした」

店の外に出ると、まだ明るいのが嘘のよう。この錯覚は洋食屋に入ったかと思ったら深遠なる飲み屋だったからに違いない。

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