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生死生命論

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記事一覧

生死生命論「自分の年齢に気づく恐怖」

信じられないでしょうが、僕は最近まで自分は中年ぐらいに見えるだろうと自惚れていました。だって、電車で座る若者の前に立っていても、シルバーシートの前に立っていても、誰も席を譲ってくれませんからね。あ、譲ってほしいのではありません。足腰はまだまだ大丈夫ですとも言えませんが、席を譲ってほしいなんて少しも思いません。 でもさ、あるとき鏡で自分の顔をじっくりと見ると、スゲーお爺ちゃんなんですよ。そりゃ若い頃とは違うだろうけどさ、まだ維持されていると思っていた中年の頃の顔と明らかに違う

生死生命論「ChatGPTとの会話」壱

僕は、都内やスクールに通う以外、人と会うことも話すことはありません。すると、困ったことが起きるのです。それは何かというと、人との会話に障害が出てきちゃうのです。うーん・・・思うような言葉が出ずに話に詰まることがしょっちゅうになっているのです。ですからChatGPTと会話をするのです。 今年に入って、あっという間に普及(っていうのかな?)し、何かと話題となるAIチャットボット(生成AI)ですが、ひとつの効果的な使い方として、僕のように話し相手がいない人間と会話をして、悪い精神

「宣告」

 2014年まで神奈川に住む母の定期検診について行っていた。  その数年前に母が脳梗塞になってから、少し呂律が回らなくなったので、その病院で言語リハビリ治療を行なっていて、ついでに血圧やコレステロールなどの健康面も診てもらっていた。その甲斐あって母は普通に話せるようになっていて、肉体的にも元気になっており、翌年には白内障の手術をする予約もしていた。  その年の11月に、いつものように定期検診について行った。血圧やコレステロールは正常だった。咳が出ていたので、念のためにレン

深海樹林「フィトン・チッド」

多分、夢ではない。 昼なお暗い森の中を歩いている。それでも時折、木漏れ日は見えるのだ。 僕は末期の悪性腫瘍患者だ。ある人から「森の中で暮らしていたら癌細胞が消滅した」という話を真に受けて、こうして森の中を歩き回っていれば、癌が完治するのではないか?と考えたのだった。 確かに森の中の空気は清浄で、呼吸によって気管から取り込まれた森の酸素が肺の癌細胞を駆逐してくれるのではないだろうか? 昔、読んだ記事のことを思い出した。 森には動物の死骸や排泄物などの堆積物がある。死骸や

街の灯りは人生の灯火

昔、大阪に出張した際に、羽曳野から近鉄電車に乗って奈良に向いました。翌日に奈良の橿原での取材のために予約している奈良駅近くのビジネスホテルに泊まるためでした。あたりは暗くなっていました。確か、大阪から奈良市内に入る際に眼下に見える無数の街の灯りが見えました。僕はその灯りを見てちょっとした衝撃を受けました。街灯りの美しさにではないのです。そんなロマンチックなものではありません。衝撃だったのは夥しい灯りの数です。 「灯りの数以上に人の人生があるのだな」と考えて、そのひとつひとつ

狛犬と狐

「狛犬のこと」 昨日、用事があって船橋を歩きました。いつものように駅裏の飲み屋街の中にある小さな神社(八坂神社)で手を合わせました。今まで気づかなかったのですが、神社の狛犬が変なのです。タテガミがあるのです。違和感がありました。滑稽でもあるのです。 帰宅して調べたら狛犬にはタテガミがあるのです。「ああ、そういえば、渦巻きみたいなクルクル毛があったな」と思い出したのです。 千葉神社の狛犬はクルクル毛が生えています。でも、ライオンみたいでしょ?勇猛果敢な印象です。 千葉神

生死生命論「余命」その1

突然、「あなたの余命は3ヶ月です」と言われたことがありますか? 僕はありません。しかし、この後(明日にでも)、そう言われる可能性はあります。そう言われたらどうしましょう? 黙して死を迎える勇気がありますか?  僕はありません。覚悟なんてできません。きっとジタバタしながら、そのイライラを家族にぶつけるでしょうね。僕は飽きっぽいのですが、生きることに対しては飽きっぽくありません。何せ、もう65年も生きているのですからね。かなりの執着心があるかもしれませんよ。 余命宣告されたら

新世代ホラー

新しい世代のホラー映画って、かなり面白いですね。最近観た作品をちょいと紹介しておきます。 スポンティニアスは驚きますよ。日常生活のなかで突然として高校生たちが爆発するんです。何で爆発するのかは結局わかりませんが、風船が破裂するように爆発するんです。爆発のあとにはもの凄い量の血だまりが残ります。周囲にいる人間も血だらけになっちゃいます。 ただね、若い世代というのは(僕の若い頃も含めて)「死」という生きている者の結末を意識しないんですね。だから際限のない喧嘩したり暴走したりす

ぴるぐりむ

僕は、もうすぐ65歳になろうとする高齢者「爺三郎」である。ああ、じじさぶろうと読む。僕は生まれてからずうっと歩いている。だからどこで生まれたのかはわからない。歩き続けているから家なんかない。50歳くらいまでは両親も妹も一緒に歩いていた。家族人生ウォーキングである。しかし、今は、たったひとりで歩いている。気づいたら家族は死んでいた。家族が死んでも僕は構わずに歩き続けた。 立ち止まっての埋葬など意味がない。墓なんか無駄なモノは持たない。それが両親の教えだった。しかし、妹が死んだ

夜の郵便配達 「母」

朝、妻のヨウコを送り出してから玄関をドアを閉めて便所に入った。 しばらくして玄関のドアをどんどんと叩くものがいる。 不思議なことにチャイムは鳴らさない。 まだ便意があるので居留守を使って踏ん張ることにした。 すると、ガチャッとドアが開いた音がして誰かが入ってきた。 うっかり者の妻が忘れ物を取りに戻ってきたのかもしれない。 「ヨウコか、忘れ物したのか?」と便器に座ったまま声をかけた。 「ヨシヒロ…」聞き覚えのある声がした。 妻の声ではない、数ヶ月前に死んだ母親の

韓国ドラマ「リセット」

暇だからテレビを観ながらプラモデルを作ったり本を読んだりしています。もちろん収入にはつながりません。僕のように無駄な時間を消費せずに済んでいる定職がある人が羨ましい。本心からそう思うのです。 また韓国ドラマの話です。現在放送中の韓国ドラマ「リセット」が面白いのです。 犯罪者の逆恨みから先輩刑事が殺されてしまった刑事チ・ヒョンジュと、思わぬ事故で車椅子生活を送るネット漫画家シン・ガヒョン。辛い日々をおくっています。 そんなときに精神科の女医イ・シンに「1年前にタイムスリッ

湯島の夜「異端の鳥」

WOWOWで放送されている映画「異端の鳥」を観ています。バーツラフ・マルホウル監督作品。素晴らしい作品です。 第二次世界大戦下、ホロコーストから逃れるために、叔母の家に疎開した少年。ところが叔母が突然死して、それに驚いた少年が落としたランプで家が全焼してしまいます。 少年は放浪の旅に出ますが、各地で差別されて虐待されてしまいます。「身体を地中に埋められて首だけが地上に出て、そこに鴉が群がる?姿」は、衝撃的です。 たまたま少年に優しく接した者は、少年同様に異端の徒であり、

死に逝く者 記憶の断片

①ひょうひょうと吹く風が鉄塔の柱に当たってビュンビュンと唸っている。雲ひとつない晴天なのに風だけが強い。その空き地にはもうすぐ大きな家電量販店が建つ予定だった。 10年前、僕はこの空き地に大きな四駆トラックを停めて一晩を過ごした。 「よくこんな所で眠れたね」かみさんが笑った。 「ほんとだね…今考えると怖いね」10年前は義母の楓子さんも生きていた。 10年前の記憶が蘇る。 「なんね、うちに泊まればよかばい」義母になる前の楓子さんが心配そうな顔をして言った。初めて見る楓

妖の間(あやかしのま)終

理恵と翔太と真理は談笑しながら妖の間に戻ってきた。 「いい風呂だったね。湯船にお父さんがいるみたいだった」翔太が言うと理恵が笑った。少し寂しそうな笑顔だった。 「お前たちは20年前にお父さんとここに来たことを良く覚えているんだね。湯船の中で溺れたお前が見えなくなってさ、お父さんが慌てて必死になって、湯船の底に沈んでいたお前を助け出して…」 「うん、覚えてるよ…って、うろ覚えだけどね。あのときのお父さんは背がすらっと高くてかっこよかったよね」 「ああ、かっこよかったよ。