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消雲堂 歴史覚書

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あまり知られていない歴史のエピソードを記録しています。
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#亀姫

土方と亀姫 拾壱

土方と亀姫 拾壱

深夜…板垣退助と伊地知正治が率いる東征軍が母成峠を制圧した後、翌日の猪苗代攻撃のために母成峠の防塁から沼尻にかけて兵を休めて駐屯しているところに、森林をかき分けて偵察に来た新撰組の島田魁は、磐梯山と吾妻山の2方向から大きな炎がもの凄い速さで筋状に進んで来るのを目撃した。よく見ると炎は、三丈(約9m)ほどもある燃える車輪だった。正体は妖怪「火車」だった。
「業火だ…」島田が呟いたように、火車の炎は、

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土方と亀姫 玖

土方と亀姫 玖

「坂本だけではない。西郷も悪魔に魂を売ったゆえ、月照と海中に身を投げた際に助かったのじゃ」
「西郷も…悪魔に魂を売った奴は他にもおるのですか」
「おる。それが誰かはわからぬが、この先、そなたがこの戦いで生き残ってみれば、それが誰かはわかるであろう」
「人は死ぬのが怖い。怖いゆえに魂を売って悪魔の僕になろうとも生き残りたいものじゃ」
「魂がなくなるということは死ぬということではないのですか」
「表向

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土方と亀姫 捌

土方と亀姫 捌

「あやつが長崎の海軍伝習所に入門した際(安政2年)に悪魔に魂を売ったと姉から聞いた」
「まことでございますか」
「まことじゃ。あやつは安政以降に起きた事変の大半に関わっておる。桜田門の外で彦根の井伊が水戸や薩摩の者に斬られた(安政7年)のもあやつが裏で糸を引いていたのじゃ。そのときあやつは知らぬ顔をして咸臨丸でメリケンに渡っておる。他にもいろいろあやつによって起きた事変は数えきれぬほどじゃ」
「海

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土方と亀姫 柒

土方と亀姫 柒

朱の盆もまた亀姫と同じく、猪苗代氏から藩祖の保科正之を経て、今の藩主である松平容保まで代々仕えてきた妖怪なのだった。

保科正之とは二代将軍徳川秀忠の庶子(御落胤)である。正之の母・静は、秀忠の乳母に仕えたが、その際に秀忠に見そめられて関係を結び、慶長16年(1611)に正之を産んだ。将軍職を継げる庶子ゆえに命を狙われる可能性が高いため、秘匿されて江戸城北の丸に邸を与えられていた武田信玄の娘・見性

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土方と亀姫 弐

土方と亀姫 弐

「何者だっ!」斉藤が愛刀の鬼神丸国重を抜いて土方の前に出た。

鬼神丸国重は、摂州(現・大阪府池田市)の刀匠、池田鬼神丸不動国重が天和2年(1682)に作刀した業物で、刀長は2尺3寸1分(約67センチ)。

土方も和泉守兼定の鯉口を切って身構えた。和泉守兼定は、関(現・岐阜県関市)の刀匠兼定のことで、4代目以降は会津藩の祖、保科正之が会津に連れ帰り、お抱え鍛冶とした。土方の刀は11代目の会津兼定が

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土方と亀姫 壱

土方と亀姫 壱

東征軍に制圧された母成峠を脱出した斉藤一は猪苗代城に辿り着いた。城には先に土方歳三が着いていた。土方は母成峠に向う途中で東征軍の一部に攻撃され、そのまま猪苗代城まで逃げてきたのだった。斉藤は土方の表情をうかがいながら「これからどうされますか?」と聞いた。返事はなかった。土方は敗走の悔しさからか目が虚ろで呆けた表情をしていた。

「奴らは思いもしなかったところから来やがった」土方は斉藤の顔を見ずに呟

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土方と亀姫 参

土方と亀姫 参

「ふふふ、情けないのう。そなたらは京での戦いに負け、江戸に逃げ帰ったと思うや、甲州でも負けた。近藤を見殺しにし、その後も負け続け、この会津でも負け戦か。ほんに情けないのう」
土方は落ち着いていた。もしかすると猪苗代城の高橋権大夫の姫君かもしれないからだ。高橋は会津藩士で猪苗代城代をつとめていた。
「これは手厳しい。確かに負け戦続きで誠に情けのうござる。して、失礼とは思いまするが、高橋権大夫様の娘御

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土方と亀姫 陸

土方と亀姫 陸

*プロットもなしに感覚だけでテキトーに書いているので辻褄が合わないこともあると思われます。真面目に読むのはおやめ下さい(笑)。

「朱の盆…」

「んだっぺ」

「変な名前の化け物だな」斉藤が笑った。

すると、朱の盆が斉藤を睨んだように見えた。朱の盆の目は大山椒魚の目のように小さいからわからない。ただ彼の紅い身体は怒りに満ちて、さらに朱の色を増した。

「食ってやる」朱の盆は畳を這うように亀姫の

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