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写真部でフィルムの現像とプリントをしているのは、今は夕真だけだ。後輩たちにも一応ひと通りの手順は教えたけれど、この学校で暗室を使うのはどうやら夕真で最後になりそうである。 喜久井が持ってきた印画紙は大四切──B4と大体同じくらいのサイズの大きなものだった。夕真が普段使うのは大きくてもたかだかA4くらいのもので、それ以上のサイズの印画紙は大会や文化祭の展示で使うくらいなので少し緊張する。 「……よし。できた」 印画紙を部室の乾燥棚に並べ、ほっと息をついた。暗室作業は
教室を出ていく夕真の背中無遠慮な視線が叩く。織部は今日も便所メシ。とかなんとか囁かれているのは知っていて、けれど直接言われたわけではないので否定のしようはないのである。 実際に昼休みを過ごすのは、トイレではなく写真部の部室だ。時折ほかの部員が忘れ物を取りに来たりする以外には誰が顔を出す訳でもなく、学校なんかどこにいたって憂鬱なものではあるが、夕真にとって部室はまあまあ「居られる」場所だ。 窓を開けて換気をし、ポッドキャストで深夜ラジオを聴きながら弁当を食べる。パーソ
その日、織部夕真は機嫌が良かった。 それは雲一つない秋晴れのおかげであり、フライパンの上で割った卵が双子だったおかげでもあった。 機嫌の良かった夕真は鼻歌なんか口ずさみ、リュックサックにとっておきのレンズとフィルムを詰め、スニーカーを爪先にひっかけた。 玄関を出て濡れ縁へ回ると、夕真に写真を教えてくれた祖父は、庭の白い山茶花に二眼レフカメラのファインダーを向けていた。 「じいちゃん。俺ニシムラさん行ってくるけど。何かお使いある?」 夕真が声をかけると、祖父