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ロングディスタンス

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カメラ男子先輩とオタクランナー後輩の長い初恋の話。(完結)
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2021年8月の記事一覧

ロングディスタンス⑨

 少し飲まない期間が続いただけで、酒にはずいぶん弱くなったと思う。  一人暮らしをしていた頃は、ひとりで居ても誰かと居ても晩は昨夜開けたような強い酒を何本も呷っていたのに。 「……気持ち悪い」  夕真は独り呻きながら体を起こし、枕元の携帯に手を伸ばした。焦点が合わないのは眼鏡をかけていないせいだ。  覚えている。喜久井は部屋を出ていく前、ご丁寧に夕真の顔から眼鏡を外してノートパソコンのキーボードの上へ置いた。その時囁かれた「おやすみなさい」の低い響きが、浅い眠りから覚

予選会 -We must go- ①

 十月二十日。日曜日。空には厚く、重たい雲が垂れ込めている。  ここ数年、箱根駅伝の予選会では雨が降ることが多い。少なくとも夕真が青嵐大のスポーツ紙──通称〝青スポ〟の記者として参加した過去三回の予選会はいずれも雨。もしくは、曇りのち雨だった。 「今年も降りそうだなあ……」  ノブタは信号待ちでブレーキを踏んだ直後、三浦ハウスから出発した駅伝部員と夕真で鮨詰めになった車の運転席から外に頭を出して唸る。 「まあ現に、九時から十一時にかけての降水確率は六十パーセントだしね