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ロングディスタンス

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カメラ男子先輩とオタクランナー後輩の長い初恋の話。(完結)
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2021年4月の記事一覧

愛日と落日⑦

 青嵐大の鄙びたトラックではちょうど、土田主将曰く「エンジョイ勢」であるところの先輩たちが有名ランナーのアップしているYoutube動画をコーチ代わりに和気藹々と練習に励んでいた。  率直な疑問として、重陽は「どうして実績のある人に指導を仰がないんですか」と聞いてみたら、思ってもみなかった様々な答えが返ってきて面食らった。  自分でプランを立ててPDCAを回したいから。頼んで断られたら心折れるから。プレッシャー負いたくないから。人の指図は受けたくないから。武者修行してみた

愛日と落日⑥

 校舎で受付を済ませたあと、ひとまずひとりで入試相談会へ参加してから再び夕真と合流した。 「どうだった? 相談会。お前って文理どっちなんだっけ」  約一時間ぶりに再び顔を合わせた彼からは、微かに煙草の匂いがした。 「理系っす。こう見えて受験英語ニガテで」 「へえ。意外」  目を瞠いて発した彼の吐息が少し煙たい。そばで人が吸っていて──ということではなさそうだ。  驚いたし動揺したけれど、幻滅はしない。むしろ興奮する。だから早口になる。 「ヒアリングとスピーキング

愛日と落日⑤

 インターハイはいつも八月の初旬、お盆の前に開催されることが多い。けれど今年は夏休みの終わり、八月の最終週に北海道で行われることになっている。  練習期間もひと月近く長い上に八月下旬の北海道は気候もいいので、界隈は「さぞかし好記録が連発するに違いない」と湧いているようだ。  重陽にとって幸いだったのは、同じ競技で一緒に全国大会へ行く双子が普通に練習を「お盆休み」したことだった。地方大会の優勝・準優勝コンビを差し置いて部活を休むのは少し──いや、かなり体裁が悪い。  とは