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「都市内過疎」とは?〜「都市のスポンジ化」との違い〜

 「過疎」というと、一般に山奥の寂れたエリアをイメージしがちですが、少子高齢化による社会課題は、実は地方に限ったことではありません。都市内エリアでも各地で過疎化が発生しており、それに伴って様々な課題が表出してきています。


1.「都市内過疎」とは

 都市は、「住」「食」「物資」など生活に必要な機能が分化・専業化し、「車」でつながっています。そのため、都市では車がなければ各機能にたどり着くことができません。免許返上などで「移動」という要素が欠落すると、基本的な生活が難しくなります。そのような状態のことを「都市内過疎」といい、地方における過疎よりも、実は影響が大きいのではとも言われています。

2.「都市のスポンジ化」との違い

 一方で、「都市のスポンジ化」という言葉をご存知でしょうか。自治体職員の方なら、ほとんどの方が耳にしたことがあるかもしれません。

 都市の内部において人口が減っていく中で、空き家や空き地などの使われない空間がランダムに発生し、街がスポンジのようにスカスカになってしまう状態のことで、国土交通省が「都市のスポンジ化」と定義しています。

 都市の密度が低下することで、サービス産業の生産性の低下、行政サービスの非効率化、まちの魅力の低下、コミュニティの存続危機など、様々な悪影響を及ぼすことが懸念されています。

 これは、日本特有の現象だと言われており、2000年代後半から専門家の間で指摘されるようになりました。高度経済成長期に、都市部にたくさんの若者が流入し、結婚してマイホームを持つために郊外へと住宅地が広がりましたが、少子化によってその家が相続されなくなると、空き家や空き地が広がっていきます。

 「都市のスポンジ化」が、空き家やインフラといったハードに注目した考え方であるのに対して、「都市内過疎」はハードの問題だけではなく、その結果生じる人々の暮らしの問題(ソフト)までも包含した考え方です。また、「都市のスポンジ化」は、「都市内過疎」エリアが点在するエリア全体を示しています。

3.都市内過疎の具体例

 例えば、群馬県高崎市には、40年前に30代が一斉に入居した「城山団地」があります。この団地は高崎駅から車で10分、最寄りの根小屋駅からだと車で4分、徒歩で25分のところに位置する団地です。皆さんの周りにも、同じような団地があるかもしれません。駅からそれほど遠いわけでもないですが、ただ、車がないと生活は困難です。

 この団地では住民が同時期に前期・後期高齢者へと突入、今では小学校の新入生が年に3人となってしまいました。地域にあるスーパーも80代の店主が経営しており、「もうやめたい」と言いながらも、地域からの「やめないで」という声にかろうじて続けている状態です。バスは1日に1台のみで、ATMも撤退し、子どもたちの多くは教育を求めて地域を離れるようになりました。

 その近くにある岩鼻地域も同様で、八百屋さんや地域のスーパー、飲食店がなくなってしまいました。もし「車」がなくなれば、買い物に行くのに30分歩かなくてはならず、高齢者にとって、住む家はあっても、食べることができなくなるという状況が待ち受けています。

 高崎市全体で見ると人口も多く、若者も多いため、地方の山奥の過疎とは状況が異なりますが、まるで離れ小島のように過疎化が進行しています。

4.都市内過疎への対策

 物流の2024年問題も目前に迫り、今のように物資がスムーズに届くことが難しくなると言われています。さらに、団塊世代が免許返納時期を迎え、「食」や「物資」と「住」が切り離されて陸の孤島となってしまうなど、さらなる課題の加速が考えられます。本格的な高齢化社会への突入によって自治体の税収は減っていきますし、インフラ維持も大きな負担となっていくでしょう。

 地方における過疎と、都市内過疎では、解決策のアプローチが異なってきます。人口が少なく、若い人がいない地方における過疎と違い、都市内過疎は、人口が多く、若い人もいるなど、人口規模と構成要素が異なるからです。今、都市内過疎に対して、若い世代が解決に向けて動き始める事例も生まれています。

 昨年から、政府の方と都市内過疎について意見交換する機会が何度かありました。私自身、2015年からこのテーマに関するエリアマネジメント活動を個人として行ってきたこともあり、次回以降、都市内過疎に関する具体的事例について、いくつかの記事でご紹介していければと思います。


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