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必要なのはパワポでなくお金の教育かもしれない

私は1年半前に「パワポを変えれば日本が変わる」という記事を書き「デザイン思考を持った会社員や教育者が増える事で、日本の経済や社会が良くなっていく」という持論を語り、パワポデザインとプレゼン構成の書籍を出版しました。

Twitter上ではパワポ図解やスライドデザインに関する投稿が増え、よくやり玉にあげられていた、官公庁の曼荼羅パワポや昭和っぽいWebサイトデザインについての問題提起も当たり前に見かけるようになりました。

経済産業省の「デザイン経営宣言」のほか、デジタル庁がデザインシステムや美しいスライドを公開し始めたことも、デザインの重要性が社会に認知されるきっかけになっています。

しかし最近日本でセミナーや講義をする中で、デザイン思考だけでは日本人の生活はよくならないんじゃないか、という当たり前の事に気づいてきました。今日はそのことについてゆっくり考察してみたいと思います。

日本人の生活水準が向上しない理由

日本の生活水準が向上しないとされる理由は複数考えられますが、主要な要因として以下の三つが挙げられます。

長期経済停滞:
日本経済は1990年代初頭のバブル崩壊以降、長期にわたり低迷しています。この「失われた30年」と呼ばれる期間に経済成長率が低下し続け、企業の業績不振、賃金の停滞、そして失業率の上昇が起こりました。これにより家計の所得や消費者の購買力が上がらないといった状況になっています。

人口構造の変化と少子高齢化:
日本は世界でも有数の超高齢社会であり、少子化が進行しています。一昔前は「長寿国」と誇らしく語っていましたが、事態はだんだんと深刻になっており、労働力人口の減少が生産性の低下や社会保障制度への負担増大をもたらしています。つまり年金や医療などの社会保障費の増大により、税負担の増加や政府の財政赤字の拡大を招いているのです。これにより国民の手取り収入が減り、生活水準があがらないといった事態を招いています。

労働市場の構造問題:
日本の賃金は過去30年間横ばいで、OECD加盟国の34ヵ国中24位と低い水準になっています。これは非正規雇用の増加により低賃金の労働者が増えたこと、終身雇用制度の影響で若年層の昇給の機会が限られ、賃金上昇が抑制されていることなどが理由です。

その他にも、大企業が内部留保を積み上げる傾向にあり労働者の手取り賃金の向上につながらないこと、日本の労働生産性が向上しないため賃金を上げることができないこと、日本の労使関係は協調的であるため、大規模なストライキ等が起きづらいこと、デフレ下で値上げがしづらい状況にあることなども挙げられます。

生活水準を上げるためにやるべきこと

これらの問題に対応し、日本人の生活水準の向上を図るには①政治家の努力だけでなく②個人の努力、の両方が必要になります。

具体的には経済再生戦略の見直し、生産性の向上、労働市場改革など、我々の生活をよくするための幅広い政策的アプローチをしてくれる政治家を選ぶことが必要になるでしょう。そして、我々も国や組織に頼るだけでなく個人レベルでマネーリテラシーを向上させ、経済的な自立と富の蓄積に貢献していかなければなりません。

政治に関心をもつ

政治が生活水準を向上させるためにできることは沢山あります。たとえば、①経済成長戦略の推進、②社会保障制度の改革、③教育とスキルアップの推進、④生産性の向上などが考えられます。

経済成長戦略の推進:
政府は革新的な技術開発、新興市場への進出支援、外資の誘致などを通じて経済成長を刺激することができます。また、規制緩和を行い、ビジネスのしやすい環境を整えることで、企業の国内外での競争力を高めることが重要です。

社会保障制度の改革:
人口構造の変化に対応し、持続可能な社会保障制度への改革が求められます。これには、年金制度の見直し、健康保険制度の効率化、介護サービスの質の向上などが含まれます。

教育とスキルアップの推進:
ライフロングラーニングの機会を提供し、人々が時代に即したスキルを習得できるようにすることで、生産性の向上とより高い賃金を得ることができます。

生産性の向上:
技術革新を進めるための投資や、労働生産性を向上させるための企業へのインセンティブ提供が必要です。デジタル化、自動化、AIの導入促進などが考えられます。

こういった視点をもち、選挙期間中の演説だけでなく、日本が将来にわたって成長し続けられるような施策を実際に実行してくれる政治家を探して、応援することが大事です。

マネーリテラシーの向上

高度成長期やバブル期では、いい大学を出て大企業に就職すれば将来の安定が約束されました。しかし現代のような不確実性の高い経済環境においては、マネーリテラシーを向上させる教育が極めて重要になります。

円安が進んでいく中で、日本円を銀行に貯金しているだけでは個人の資産価値は世界的に見てどんどん失われていきます。これまでは、日本の中でよい仕事を見つけることができましたが、最近は賃金の高い外国で稼ぎたいという若者も増えています。

このような状況では、個人の資産形成、リスク管理、退職後の生活設計などについて自分で経済的な判断をするための、適切な知識とスキルが必要不可欠になります。「本当の自由を手に入れる お金の大学」という両@リベ大学長さんの書籍がベストセラーになりましたが、このようなマネーリテラシーを向上させるための教育プログラムにより、経済的な自立と成長する必要性をみんな感じ始めています。

日本人のマネーリテラシーが低い理由

日本人のマネーリテラシーが低いとされる理由には、いくつかの要因がありますが、主に学校の教育カリキュラムでマネーリテラシーについて学ばないこと、文化的背景としてお金について話すことがタブー視されてきたことが考えられます。

①教育カリキュラム:
日本の学校教育では、長らくマネーリテラシーやファイナンシャルリテラシーに焦点を当てた教育が組み込まれていませんでした。これは生徒がお金について学ぶ機会が少ないことを意味しており、成人してからもお金に関する知識が不足しがちです。また、金融商品の多様化と複雑化が進んでいるにもかかわらず、それらを理解し活用するための知識が一般に広まっていないという問題があります。

②文化的背景:
家庭で「お金は汚いもの」「お金について話すもんじゃない」と教えられてきた人は多く、日本文化においてお金について公に話すことはタブーとされている側面があります。このため、家庭や社会でお金についてのオープンな議論や教育が行われにくい状況があります。また、長らく日本は終身雇用と年功序列の給与体系が主流でした。そのため、自らの資産を管理・増やすことよりも、安定した収入に依存する傾向が強まり、マネーリテラシーの必要性が軽視されがちでした。

私の実家は商売をしていたので、お金の話についてオープンなほうではありましたが、ちゃんとお金について学んだのは大学卒業後に会計士を目指してからでした。また、大手監査法人ではインサイダー取引防止のため、基本的に投資が禁止されており、会計士でも投資の知識があったり、実際に投資をしている人は少ない印象がありました。

中小企業経営者になってから実際に投資をするようになりましたが、日本で投資について話をすることには賛否両論あり、色々な感情を呼び起こすということを肌で感じています。

マネーリテラシーを向上させるために学ぶべきこと

「お金の大学」ではお金にまつわる話を「①貯める②稼ぐ③増やす④守る⑤使う」の5つの力にまとめて説明しています。この5つの力のうち「②稼ぐ」「⑤使う」については、とても重要なので普段から考えている人も多いと思います。しかし「①貯める」「③増やす」「④守る」については追加の知識が必要になることが多いといえます。

貯める

お金を貯めるには収入から支出を引いた残りを計算してみる必要があります。これを「予算管理」と言います。つまり収入と支出を把握し、バランスの取れた予算を作成することが重要です。また、金銭の管理と支出の優先順位づけをすることで、お金がたまりやすくなります。

特に「通信費、光熱費、保険、家賃、車両費、税金」などの支出がいくらかかっているかを把握し、優先順位を考えてみることで、かなりの効果が得られます。特に保険や税金については分かりづらく複雑な仕組みになっていることが多いので、必要な保険や税金の基礎知識について学ぶ必要があります。

稼ぐ

会社などに勤務して得られる収入は安定性が高いため、まずは給与所得を得ながら経験を積むとよいでしょう。また、副業などの個人事業で得られる収入は成長性が高いため、事業所得についても増やしていけると稼ぐ力が高まります。

給与所得と事業所得をバランスよく高めることで、安定性×成長性×節税効果という最強の布陣を作りましょう。

増やす

生活防衛資金を確保できたら、上手に投資することが重要です。日本人が投資を始めやすいように考えられた「つみたてNISA」で「米国S&P500」に連動した投資信託を定期購入するのが王道と言われます。

リスクとリターンの関係や様々な投資商品(株式、債券、投資信託、不動産など)の違いについても理解しましょう。

私はマクロ経済学が好きで、基本的な経済原則と市場経済の仕組み、中央銀行の役割や金融政策が経済に及ぼす影響などについても学んでいたことが、のちに投資計画を立てる際に役に立ちました。お金の流れについて興味を持つことで、さらに俯瞰的な視点を持てるようになります。

守る

経済的自由を達成するには「守る力」が欠かせません。貯めた資産を減らさないために詐欺・被災・浪費・インフレなどへの対策も検討します。金融詐欺や消費者詐欺から自分を守る方法についても知っておきましょう。

使う

幸せな自由人になるためには寄付やプレゼント、旅行などの豊かな浪費、自己投資、時間を買うなど、上手にお金を使う必要があります。また、老後資金の確保もしておく必要があります。

このようなトピックを網羅的に学べば、個人的な財務を適切に管理し、将来を考えてお金に関する意志決定が自分でできるようになります。個人の努力も必要ですが、このようなマネーリテラシーに関する教育がもっと増えてほしいと考えています。

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