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変態はとことんこだわったらいい。分業の中の輪島工芸思考Part1

『工芸思考』で輪島に行ってきました。輪島キリモトの桐本さんのアテンドで輪島塗を知る旅です。

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↑この秋に移転した輪島キリモトさんの新工房

このそもそものきっかけは、コロナ禍の『工芸思考』。
4月5月は毎週土曜日に、Zoomで工芸にまつわるお題を立てて複数の職人さんとお題に関連する方たちとトークする様子を、工芸思考のFacebookページからライブ配信をしていて、

5月のある土曜日の夜、桐本さんがZoomに入室していらしたのでした。

桐本さんがZoomに入室したときの鮮烈な印象は忘れられない。
中川木工芸の中川さんが、桐本さん入室の意外性をとても喜んでいて、輪島塗のコップに入れたお酒片手に、とても軽快なトークを繰り広げるおじさまが来て空気が変わった。柔軟で軽快で、ムードメーカー(笑)。
手にしていた輪島塗のコップの感触を、「キスのような口当たり」だと連呼していたのを思い出すと笑ってしまう。

後から中川さんから話を伺い桐本さんを調べると、只者じゃない様子が浮かびあがってくる。輪島塗の分業制の中で木地業だった稼業を、漆器の一貫生産にして、ご自身のデザインやアイディアを物に反映できるようにし販売先開拓も手掛けるようになった『先駆者』でした。

移転した輪島キリモトの新工房を見に来てください、という言葉に誘われ、『工芸思考』で(中川木工芸の中川さん、開化堂の八木さん、朝日焼の松林さん、金網つじの辻さん、デザイナーの宮崎さんと一緒に)2020年11月19-20日に輪島へ訪問しました。
桐本さん自らのアテンドで、輪島キリモトの新工房の案内と他の職人さんのの工房や、輪島塗にまつわる場所を案内していただき、夜は輪島クリエイティブデザイン塾の方々とのディスカッションあり、の贅沢な時間。

その一端をご紹介させてください。

あらゆるアンティークを修復する蒔絵師の中島さんご兄弟

一泊二日の輪島での滞在で印象深いことは数あれど、特に強烈な印象が残るのは、桐本さんにアテンドしていただいた二つの工房。向かうときから「とにかく変態です」と聴いていたのだけど、本当に、変態だった。

まず、独学で習得した技術であらゆる骨董品も直していく蒔絵師の
中島和彦さん、中島泉さんのご兄弟のところにお邪魔しました。

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桐本さんに促されるまま大きい家にお邪魔して二階に上がっていくと、十二畳を超えるくらい大きな部屋があって、入ったとたん、煙草で煙臭い。(笑)
和彦さんは机に座り何やら細かい作業をしていて、泉さんは押入れの横で床に座り、塗りのお盆を磨いている。
本当にいろんなものが、ところ狭しと転がっていて、撮影の許可を伺うと写真に写り込んではマズい品、修復を依頼されたお宝が彼方此方にあるから、なかなか難しい。(↑の写真も念のためにぼかしを入れています。)

そうは言いながら、オリジナルの作品もあって、漆の材料でつくったまるっこい魚の置き物とか、金継ぎで直した器を愛おしそうに渡して見せてくださる。

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魚の置き物はこれから絵付けをするからまだ未完成なんだけど、もう既に丸っこいかわいらしさがあってつい撫でてしまう。金継ぎされた器は、これだけ滑らかに直すのはものすごい技術なのだと、すべすべの表面を触るよう促してくださる。
印籠の絵付けも、継ぎ目がわからないように施すのがものすごい技術なのだと、手にした私たちも中島さんも、うっとり。

この他に、春画が施された盃や、江戸時代の香箱、精巧な絵が施されたキンピカの入れ物、象牙の中にとてもミクロな街を彫り込んだもの、など
次々とものすごく価値が高そうなものが、ごろごろとそのあたりの床とか引き出しとかから出てくる、出てくる。

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↑こちらは、上の蓋がすぅーっと降りてくる入れ物。

燻煙乾燥の椀木地職人で、塗りも施す寒長茂さん

もう一軒の案内していただいた工房は、椀木地やさんの寒長茂さんのところです。

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寒長さんは、粗削りした椀木地を一ヶ月燻煙室で燻煙乾燥させた後に、三ヶ月間、自然乾燥させます。

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燻煙乾燥室はものすごい燻製の臭いがして、当日の夜、京都に帰ってからも髪の毛から燻煙が香るくらい。煙が出るので、ご近所さんの理解がないとできない。
けどね、この燻煙乾燥、時間や手間がかかりますが、寒長さんが削った木くずを使っているので、薬剤を使うよりもずっとエコで環境にやさしい。

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燻煙乾燥で防虫し木を極限まで乾燥させると、あとから空気中の水分を吸ってちょうどいい11-13%の水分含有量になります。この燻煙乾燥は、年に三回行うそうです。

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寒長さんは椀木地を削る以外に、刷毛をご自身で持ち漆を塗り始め、ご自身で塗りを施した器は、『想』というブランドで作っています。
「木の目の心、って書くじゃろ」って言われて、ほ、ほんまや、となる私。

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塗りも手掛けるようになったのは、自分が良いと思う形でお客様にプロダクトを届けたいと思ったから。木目を生かした塗りは、寒長さんのこだわりです。

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↑使う工具はほぼ自作だそう。

他にも寒長さんのこだわりは沢山あって、

まずご自身が五代目だから、5という数字が好き。京都の百貨店勤めを辞めて稼業を継いだのも昭和55年の5月。そして、19という数字はダメ。19にまつわる日は人間関係で問題が起きたりするそうで、当初19日に工房訪問をお願いしていたのですが、上記の理由で20日になりました。お、おもしろい。

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迎えてくださったときに流れていたBGMは、特別なお客様が来るときにかけるという、ハワイアンソング。
「生活に追われて仕事してるわけじゃのうて、ハワイで、趣味でやっとる。ということじゃ。」とおっしゃる。ふ、ふかい。('◇')
こちらの記事でも寒長さんが、ハワイアンソングを流していた様子がわかります。輪島でのDining outでの記事です。↓

https://www.onestory-media.jp/post/?id=3292

あとは、
山口智子さんが何回か来訪して、寒長さんはハグしていることや(ドラマ『ロングバケーション』ファンの私はめちゃ羨ましい)

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↑段ボールに書き残してあった山口智子さんのサイン。
檀れいさんとも親交があるという得意げなお話を聴くと、親近感が湧く。

寒長さんの名刺にも明記されていたインスタグラムはこちらです。もしよかったらフォローをば。The soul of grain って。('◇')
https://www.instagram.com/the_soul_of_grain/

って、工芸から話がそれちゃいました。

変態が変態を極めると
分業の域からはみ出してしまう。

そんな粋な輪島を垣間見た、印象深い工房訪問でした。

次は、桐本さんの輪島キリモトの案内や、輪島クリエイティブデザイン塾の方々とのディスカッション、輪島塗会館・資料館訪問、からの輪島塗の連携プレイの所感について、に続きます。

お時間いただきありがとうございます。