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本格ミステリー歌劇 46番目の密室 感想

※様々なネタバレあり※

これまで有栖川有栖作品に触れたことがなく、遂にこの機会が来たのかとわくわくした。
製作陣がまた期待値の上がる方々ばかりで、それにも『本格ミステリー歌劇』への本気を感じて楽しみだった。

スタッフは、脚本が石井幸一さん。
わたしはACCAで初めて作品を拝見したけれど、その時もバディ物で心情の表現の仕方が好きだなと思ったことを思い出す。拝見できていないが孤島の鬼やネルケのミステリーシリーズなども手掛けているので、間違いない人選だなと感じたし、ミステリーシリーズが再開するんだなとも思った。

歌詞は三ツ矢雄二先生。
言わずもがな。豊かな表現とトリッキーだったりストレートで印象に残る歌詞がいつも楽しませてくれる。

そして音楽が桑原まこさん!
これは正直びっくりした。GREYでまこさんを初めて知って、なんて音楽センスだろうと改めてミュージカルの音楽の重要さに気づきを与えてくれて、更に難しそうだけど最高の曲を作る方だなあと思っていたら、まさかのこのお仕事!ここで最高に期待値が上がってしまった。

演出は志賀亮史さん。
演劇のニュース記事などでお名前をお見かけすることはあったけれど、作品を拝見する機会がなく、石井さんがお誘いしたとのことをパンフレットで知って納得だった。

何より、劇場がKAAT神奈川芸術劇場。
大好きな劇場であり、メンツ的にも正しい劇場選択だなあとしみじみ。(都内から通うのは本当に大変で、次の一週間疲労で仕事にならなかったけど…………)
今回の通いで、前方席は沈んでいるので、どうしても音が反響して聞きづらいんだなあと感じた。遠くの方が圧倒的に音が綺麗。3階でもとても近い。
そして舞台が広いところがとにかく好きだ。奥行きがあり、高さもある。
今回も最後までそれを活かした舞台美術、セットが組まれていて最高だった。

そんなこんなで拝見した初日。
最後まで原作を拝読してから臨むべきか迷い、結局読まずに迎えた。
結果として、読まずに初日を観たのは正解だったなあと今でも思う。
初日の衝撃は、読んでからではまた違うものだったろう。
一番最初に思ったのは、『あれ?矢田さん、また(多くの荻田さんとの作品にあるように)全然板の上から居なくならない……』で、大変驚いたし、久々の出ずっぱりの役に嬉しくなった。
ストーリーテラーのため、セリフ量も多く、全場面でずっと居る。矢田さんを追っていると他の人が観れないけど、初日はストーリーを追うぞと思いながら観た。
一番最初の歌唱曲になる真壁役、津田さんの『天上の推理小説』(かな?音源配布の日に入れなかったためタイトル不明)が先制パンチとして物凄く、この舞台は歌が素晴らしいミュージカルですよ、と客に一瞬で理解させるような歌い上げだった。
その理解は正しく、文学、推理物を元にしているため、文章量が長く難しい歌詞を三ツ谷先生はこれでもかと詰め込んでいて、それにまこさんが音で区切って難しいけど耳障りが良くこっちも歌いたくなるような曲をつけていて……
まこさんがインスタライブで今回の曲の作り方について語っていたので良かったらみなさま見てみてほしい。

今回上手い人しか居なくて、上手い人はきちんとまこさんが譜面で指定した通りに歌ってくれるから、自分の間違いに気づけるし修正できるという話が凄く良かった。

とにかく本当にずっと矢田さんが居るのと、舞台があまりにも音楽が素晴らしくスピード感があり、ワープロで打った地の分が上部に表示される演出なども全て最高で、心から楽しんでしまったので、矢田さんファンのわたしは、『よし、推理をするぞ』と観ていたにも関わらず、(え!?まだ出てる!まだ!?いる!?え!?たのしい!)と思っている間に、「終わりや……」と言われて、(終わりだ!?!!)になったため、推理どころではなく、その後の石町の告白から『真壁の密室』の曲の素晴らしさ、輝馬さんの表現の素晴らしさに鳥肌を立てて湧き立ってしまい、最後の火村とアリスの背中に哀愁と一枚絵の舞台上に素晴らしさに感動して幕が降りた。
本当に全てが衝撃で素晴らしく、スタオベしたかったのだが客が放心して拍手をしている間に2回でカテコが終わってしまい、客電も点き、アナウンスも流れてしまったため、行儀の良いわたしたちは出ていったが、客たちみんな「え!?こんなに終了アナウンス早い!?スタオベしたかった!!」と口々に言っていた。慣例としてカテコ3回目くらいでスタオベするイメージがあるのでわたしもそう思った。(大楽はみんな『この舞台は終了アナウンスが早い』という認識があったからか即スタオベになり安心したのだった)

先述の通りKAATは都内から行くにはどうしても遠いので(渋谷からならまだ近いけれど)わたしはチケットを最低限行ける数しか持っていなかったけれど、リピーターチケットが出ていたため、入りたい席を選び、何枚か買った。チケ運が悪く、センブロを1枚も持っていなかったため、席を選べるリピチケはありがたかった。


有栖川先生と、火村役の井澤さんとアリス役の矢田さんのトークショーもとても良かった。
有栖川先生は井澤さんを見て、「火村だ〜」と言っていて、矢田さんをみて「こんなにイケメンに演じてもらって…」と言っていてなんだか温かい気持ちになった。
有栖川先生はまだ観劇する前にトークショーへ参加していて、「どんなことに気を付けていらっしゃいますか」と聞いていて、井澤さんが「地声より低く演じている」と言っていたのが印象的で、井澤さんからの質問の「なぜ石町は自白したのか」という質問もなるほど、と思った。
先生からの答えは「火村とチェスのようなやり取りをしたい犯罪者もいて、石町はそちら側だった」みたいなことを言っていたし、「反抗する犯人には火村は反抗するんだ〜と楽しくなってるときもある」みたいなことも言っていてやっぱり他の作品も読みたいなと思った。(矢田さんはお父さんと有栖川先生が同郷という話をしたり、気をつけることでは「ストーリーテラーみたいな役割もあるから真っ白なままで受け止められるようにしている」みたいなことを言っていた)
その後、ソワレ後にキャストと有栖川先生とで撮った写真が井澤さんのX(旧Twitter)に上がっていたけれど、有栖川先生と矢田アリスが全く同じポーズで映っていたので面白いなあと見ていた。

休演日と仕事などで行けない日があるため、その日を使って原作を読み、火村のシーンがばっさり無くなっているんだなあと知った。
でも確かに、火村の講義や喋るシーンを盛り込みすぎると2時間15分ではとても収まりきらないし(この上演時間も演者と客の集中力に配慮していると感じて、本当に素晴らしい)、火村が喋る内容はどうしても理論的で難しく長いので、目で追うのは自分のペースで読めるからいいけれど、舞台上で延々と喋るとなるとどうしても客に飽きが出てしまうかなと思ったりした。ミステリーだから、特に原作を知らない客にも集中力を切らさず観せるということは一番重要な気がする。
切られてはいるけど、火村の印象が薄いということはなくて、これは井澤さんの存在感と堂々とした火村の佇まい、論理的な発言の説得力があるからかなと感じた。
あとこれは多分意図的だけど、火村の解説や思考の説明にセリフのみが多く、曲がほとんどない。
歌は、鵜飼からの尋問の際と、アリスとの謎数えのみで、あとはセリフ。
星火荘での犯罪についての討論で歌ってもいいのかもなと思ったけれど、火村に極力歌わせないのは火村が理論の人間だからかなと思う。冷静に全体を見ている雰囲気が、これでわかりやすく浮き出ていた気がする。
原作だともっといろんなトリックがあったり、ミスリードへの誘致もあったけれど、(あとは時代的なセリフとか)そういうところも結構バサバサと切っていて、石井さんの要約の力を感じて唸った。

あとは、一番わたしの中に響いた『煙突の文字』が、原作と歌劇では異なっていて、それに本当に驚いたし、なんて、すごい、改変を……と一度小説を置いてしまった。
アマデウスやモーツァルトとサリエリの関係は、今でこそ当たり前のように(特に舞台を観るひとにとっては)浸透しているけど、この話の舞台である1990年代前半ってどうだったんだろうなと思ったりする。
バナナフィッシュで『アマデウス症候群』の話が出ていたのもちょうど同じ年代なので、この辺りには浸透していたのか。
この舞台オリジナルの改変(曲が使えなかったとかのいろんな問題もあってのことかもしれないけど)があるからこそ、真壁と石町の、『嫉妬』の根幹が浮き出て見えた気がする。
石町が彩子に泥酔しながら独白するシーンもあることで、その後の煙突の文字に繋がっているのもわかりやすくて良かった。
石町が真壁へ憧れと嫉妬と恐怖を感じていた理由をモーツァルトとサリエリに喩えていたことで、グッと石町と真壁の関係性がわかりやすく、観客が感じ取りやすくなっていた気がした。
※追記 アマデウスをやっと観て、サリエリも神を暖炉で燃やしていて……本当に作品の読み取り方と表現と選択が素晴らしくて……痺れました。

火村は無神論者で人間が神の様に振舞うのを嫌悪すると言っていたけど、神は名乗るから神になるのではなく、崇めるからその人にとっての神になるのだと思う。
石町や船沢にとっては真壁が神だったし、風子にとってもそうだったけど捨てられてるので男たちより幾分幻想的ではなかった気もする。
船沢は風子の本を読んでいたのに、愚者の死のトリックに気づかなかったわけだからトリックよりも真壁聖一の書いたものが彼の中で神の存在となった気がする。
改めて順を追って見ていて、『真壁に脅されただけ』なら石町がパーティで彩子をあんなに拒否することはなかったしその後のサンタクロースの件も色々いう必要なかったなと思うけど、(もう真壁を殺すということは決めてたわけで、万が一真壁がバラしたとしても通常の石町なら「冗談ですよ」で済ませられたのではないかと。証拠があれば別として)、石町は真壁を殺すことを決めていても、真壁の中では真壁を慕う自分でありたかったのかな〜と思った…怖いし憎みながら愛してるし神に愛された自分でありたいという二律背反…
そもそも、殺すことを決めて星火荘へ来ていたのに、真壁の密室卒業宣言に一番食ってかかっているのは石町で、狂うほどに嫉妬しながらも真壁の作品、密室を心から愛していて、そこもやはり二律背反だよなあと感じた。
でも彩子とのことがバレて流れが狂ってしまったし、殺さなくても良かったかもなと傍目では思うが、彩子との関係云々ではなく、何より真壁を消さないと自分が劣等感と嫉妬で狂いそうだったんだろうなと……まあ殺すと思った時点でもう狂っているけれど……

しかし、真壁も少なからず石町に彩子とのことだけではない嫉妬があったんじゃないかなとも思ったりした。
若くて才能の伸び代もある作家、地上のミステリーを書きつくしていない作家に対し、作家として貪欲な真壁が何も思ってなかったことはないと思う……
真壁と石町の関係に対して物凄くタブー感があったのは、やっぱり90年代初頭の雰囲気だな〜と感じた。

あとは、5月7日のカレーライスの曲で、初日、あまりにも雰囲気が柔らかく、歌詞も「彼にスポットライトが当たって」とか「指先に彼の息が掛かる」とか「襟足から覗く首」などで(恋かも)と思ったけれど、原作を読んだらそのシーンはあるけど、私が恋を感じた歌詞は原作にはなく、全て三ツ矢先生によるものだったので、流石情感の表現者三ツ矢先生……脱帽です!になりました。(杉井「何に『脱帽』なんですか?」)まこさんの、優しくて心地よいときの心音みたいに盛り上がりのある曲もそうだし、矢田アリスもここで火村に好感を持っている、柔らかくて温かな瞳と表情をしていて、より良く、椅子をくるくる回してるのも中高生カップルのような親密さを感じて温かい気持ちになった。


何回か入る中で、どうしても上から観たくてA席に入った。
A席からだと石町が告白した後、「私は、罰せられなければなりません」と膝を着くシーンで光が十字になるのがわかって、照明部の照明演出も本当に本当に素晴らしくて唸ってしまった。最後の白樺の照明、映像のO-beronチームの雪も本当に合っていて良かった。

「密室、殺人、証拠」の曲に合わせた各部屋の照明演出も凄くカッコよくて最高で、「密室、殺人、証拠」のジャジーでタップみたいな動きと振り見覚えあるかもと思ったけどステージングに當間里美さんが入っていて、なるほどね〜!と膝を打った。90年代初頭の話だけど、全体的にステージングのスタイリッシュさがあるのは里美さんが居たからかもしれない。
アウトロで上の部屋にいる船沢、彩子、風子、杉井の4人が対照的に止めがあるのが、あまりにもこれも一枚絵過ぎて最高に良かった。3階から全体で観るとよくわかる。
屋上に上がることで一気にここから「解決の糸口」と歌にあるようにトリックが解けていくので、動きがあるとわかる曲調、それにこの曲の間奏もとってもジャジーで曲によってより色がついてて毎回心が踊った。

その後の屋根の上でアリスが落ちかけたあとに、アリスが火村のことも落としかけるところでは公演回数を増すごとに遊びが増えていて、落としかけたアリスが火村に「気をつけろ!」と言って「マジで言ってんのか?」と返すところは矢田さんボケたかったんだろうな〜と微笑ましいし、その後の「密室、密室、」と火村が言うところでも木曜くらいからアリスの初手が金八になっていて、まるステを思い出したし、火村の周りをウロウロしながら「みっしつみっしつ」と言っているのが小型犬の様で可愛らしかった。

回数を重ねて観ることで気づいたけど、まこさんは複数の曲で同じフレーズを使っているのが、この作品のテーマの『密室』を表しているようで唸った。いつも集中してみてしまうから分析を忘れるので、もう少しアーカイブで確かめたいけど、キーは真壁なのかも。真壁のことを話すところで同じフレーズが出てきている気がする。


感想を綴ればキリがないので、役者たち個人の感想。

真壁役津田さん
圧倒的な歌唱力で、初手から本当に痺れる。
良作品を約束する鐘のような歌声と佇まい。
初日の後はパーティのシーンで風子が石町と彩子のことを暴露したシーンをずっと見ていたけど、本当に強い視線で石町を見ている…
焼かれた後も出てくるのが津田さんの意見からだというのも素敵だなあと思った。あの焼かれた2人が出てくることで、作品として柔らかくなっていると思う。

佐智子役吉沢さん
お金を貸しての歌が耳が幸せなのに本当に内容が酷くて……笑 でもあれもアリスと真帆の妄想のことなので…
パーティのときの風子との会話が可愛くていつも微笑ましかった。

真帆役飛香さん
最初の「焦茶色のブルゾンを着た男」の話をするとき凄く怪しくて初日はそこでまず怪しんだらしてしまった。歌の伸びがとても綺麗。
杉井さんみたいな人もパパにならないほうがいいなと思いながら杉井と真帆のやりとりを観ていたけど、90年代だからどうだろうか。

光司役仁愛くん
火村とアリスが犯人カードを見せ合ったときの真っ白さ……照明が本当に美しく当ててくれていることもあるけど、歌詞も誠実さと誠実だからこそのまっすぐな怒りと悲しみ、それが仁愛くんに合っていて本当に良かった。(ここでアリスが悲しみと悔やみの混ざった表情で光司を見ているのに、火村がタバコを吸ってんのがまた……)
最初に出てくる浅間山ホテル火災の消防士、最後まで仁愛くんか哲心くんかみてたけど目が仁愛くんだよね……写真見てアリスが「似てる」というのを迷うのに説得力が生まれる。
※追記:礼央くん説も見て、確かに窓の外ですぐ光司くん出てくるからそうかも!になりました

あといつも様々なことに夢中になってしまうため、光司が最初に窓の外からパーティを見ていたという伏線に、配信で気がついた……。

風子役岡村さん
わかっていたけど歌が上手い!「夜の贈り物」の時のぬいぐるみの声びっくりした〜
明るくて好奇心旺盛な女流作家然としていて、凄く素敵だった。
大崎とのやりとりも毎回楽しみすぎた。

杉井役チャンヘさん
歌が上手い!!わかっていたけど……
そして体格が90年代の漫画に出てくるハンサムの体型すぎ!!!!!スーツだから余計にそう思う!顔が小さくて肩幅が広くて背が高くて体格が良くて足が長い!90年代のCLAMPの漫画で見るハンサム!
性格もすごーく80年代後半から90年代初頭の男ナイズで、真帆に毎回片付けを頼むのとか『女性の仕事は接待とお茶汲み・23歳までには結婚して家庭に入る』をとっても表していてクライミングとスキューバをやっていて高級取りな時代感を一番感じるキャラ表現で良かった。(石町にスキー焼けがなかったので杉井が一番90年代を感じる〜)
あと杉井だけが唯一真壁の椅子に座るのが、他のメンバーと違って真壁のことを崇拝してない感が出ていてとっても良かった。
杉井の元妻と真壁のことが真実だったかはわからないけど、真実だとしたら杉井は作家先生としての価値は感じてても真壁のことはあの中で唯一軽蔑してたんじゃないのかなと思ったりする。

船沢役岡本さん
歌が上手い!!!!!!知っていましたが……
船沢は一番原作とはキャラの容貌が違っていて驚いた(原作は禿げて太ったおじさん)けど、岡本さんが自分のこと「オッサン」と言っているのも不思議な感じで新しい扉を開いた気がした。
「愚者の死」の杉井との掛け合い曲は最高に最高すぎて毎回体温が上がった。まこさんの掛け合い曲はGREYでも聴いてるけど、本当に難しそうだし歌う人は上手い!良くあの言葉数を合わせてる…と感心と感動してしまう。
その後の船沢の「わかりました……」の真壁に狂った様子もとっても良かった。

彩子役咲花さん
石町を包む母性が感じられて、素敵だなあと思ったし、最後の石町を「待つわ」と歌うのは90年代初頭の女は待つ美学だなあとは思うけど、令和の世では「待つな!!!!!!!!!」になってしまう……石町はたとえ出所してももう一生真壁の亡霊に囚われて生きていくし、彼の中には真壁が一生住み続けて生きていくに違いないから、それを見守る役目は絶対に彩子に負って欲しくないし、彩子にはもっといい男がいる!
それはそれとして、最後の、雪が全てを包むという曲も、炎の向こうに消える石町も、アリスが今までの物語全て消していく情景も、火村がライターの灯りを点けてアリスを待っているのも、あんまりにも美しくていつも泣いてしまった。走馬灯を見たことはないけど、あるならばこんな光景なのかもしれないとぼんやり思ったりした。

鵜飼役礼生くん
礼生くんがアクロバットしていない舞台を初めて観たし、火村と同じ理由だろうけど歌わないのも贅沢だな〜と感じた。
礼生くんの冷たいお芝居も初めて観た気がするけど、凄く合っていると思う。きっとわたしが観ていないだけでやっているんだろうけどこういう礼生くんのお芝居がもっと観たいな〜と思った。

大崎役しゅんりーさん
想像通り!笑
しゅんりーさんの刑事といったらこれこれ!みたいな、なんか定石感があって安心感があります。笑
煙突の文字を読むところ毎回日替わりでよかったな〜土曜ソワレ(かな?)の「なんだと思いますか?」「う〜んこれは……なぞなぞ、ですかね?」「オイここにもアホがおるぞ」のやり取りが本当に最高すぎて笑ったし、良い座組なんだろうなとも感じさせられた。

井尻くん
X(旧Twitter)で顔を見て、こんなに可愛い子に!?!!!?!こんなメイクを!!?!!!?!とびっくりした……

哲心くん
まほステではミチルで知っているけど、絶対得るものがたくさんあっただろうな〜と改めて思ったりした…若者で仲良しになってて嬉しくなった。

石町役輝馬さん
石町に狂ってしまい、今回はチケットを増やしました。
白樺の林に現れてからずっと丁寧な物腰と真壁に狂っている時の差が最高すぎたし、最高に気持ち悪くて石町の狂い具合が観ている側にもとても伝わってきて……
真壁の46番目の密室のトリックのメモを燃やした、と言った時のスクリーンのメモに手を伸ばして笑う姿はいつも見てしまったし、2人も殺した男がその後アリスを殴ったことを「すまない」と謝るチグハグ感も、小説にも書かれているけど改めて気持ち悪いなと感じてそれがとても良かった。
『真壁の密室』は今作中一番大好きな曲だけど、音源よりもやっぱり板の上の方が狂った感じが出ていて歌も演技も好きだなあと思ったし、輝馬さんのファンは絶対通っちゃうよなと思った。
多分石町には真壁を殺すタイミングなんていくらでもあったと思うけど(アリバイはともかく)顔を見ずに殺す方法は、一緒に居ないタイミングじゃないと得られないと思ったから、このパーティの夜になったのかなと考えたりした。
石町は先述の通り、真壁に憧れて嫉妬して自分の神のように思っていたところがあるからこそ、早く楽になりたい、真壁への気持ちから解放されたいと思いつつ顔を見るとやっぱり神殺しはできなかったんだろうと思う。
壺を投げ込んで、燃やせば、それが自分がしたことだと思わず真壁は死ぬかもしれないし、自分も真壁の死を見ないことで、真壁がまだ生きているかもしれない、神殺しをしていないかもしれないという幻想に浸れる。
石町はそう思いながら罪を告白して、自分の中にある真壁と真壁の人生最高にして天上へ向かうトリックを自分だけのものと抱きながら生きるんだろう。

火村役井澤さん
まず発表された時、背丈と雰囲気がぴったり!と思った。
ただ、火村の様な役柄の井澤さんを見たことが無かったのでどうなるかなと思っていたら、本当にぴったりで……小難しいことを喋るのとか、台詞の間、仕草も、原作を読んだあとだと特に火村英生だ…と思った。
人を殺したいと思ったことがある、の告白のシーンの昏いけどギラギラした目が凄く印象的で、その後早口になるとこも含めてとっても好きだった。
パーティの曲の時、風子先生に寄り添われて嫌そうな顔してたのが『これが女嫌いの火村か!』と膝を叩いてしまった。
あと白樺林のシーンのアリスとの会話は毎回テンポも関係性の近さも凄く良くて、アリスの「俺の想像は愚劣か?」の傷ついた様な、火村の期待に応えられなかった、みたいな顔も良かったし、別にそんなんじゃない、とため息する火村の距離感も最高で、神妙なシーンなのに、心が踊った。

アリス役矢田さん
ほんっと〜〜〜に今作もお疲れ様過ぎるけど、絶対に充実感に満ちていたんだろうなと日を追うごとに元気になっている姿を見て感じていた。(矢田さんは長時間板の上に居る作品はアドレナリンが出るのか公演数を重ねるごとに元気になると思う)
『舞台 魔法使いの約束』も観ているし大好きな作品だけど、矢田さんが出ずっぱりになるものを最近観ていなかったのでフラストレーションが溜まっていたけど、今作で思いっきり解消された。
アリスは、小説を読んだ感じ、感傷的になる部分(光司くんのこととか)と冷めた目をもつ部分(尊敬してるけど真壁の今までが詳らかになって二級品と思う部分)が結構温度差である人物だなあと思ったけど、矢田さんがその感情表現の取り出し方がとても上手くて(それは今まで積み重ねてきた役たちの匂いも感じる)アリスという人の不思議なバランスを上手くコントロールしていた様に思う。
余談だけど、石町、火村、アリスで階段を上がるとき石町と火村は一段抜かしで上がってるのについてくアリスだけちょこちょこ一段ずつ上がってるのが可愛かった。
そして歌……まこさんが「人間が歌えない歌作った」とポスト(旧ツイート)してたときもワクワクしたけど、『星火』がそうだった(その内のひとつだった)と聞いて嬉しくなった。この曲は長いしブレスの位置がないし音程取るのも難しい〜〜〜と聞いた時思ったし、まこさんは「曲作る時は歌えるかなって歌いながら作るけど、この曲は歌えなくて、私は歌えないけど矢田くんなら大丈夫っしょ〜って作った」といっていて、ドSですね!と思った。(最高!)

そして、この作品を見ていて思ったのが、作家アリスと学生アリスが混合している? とふと気づいた。

白樺のシーン、原作にはない、石町が「有栖川、次の作品火村先生を探偵にして書いたらどうだ」と聞いてアリスが「この物語は私の物語とちゃう」(これは上の字幕にも出てこない)と言うのが、じゃあ、どの『私』なんだ?と疑問に思えて、ふと作品を振り返った時、ずっとワープロでこの物語を綴っているアリスはもしかして、ここに居る『作家アリス』ではなく、『学生アリス』なのか? と思い(というのもまだ各作品を読んでいないためWikiを読んだだけの知識だけど)凄い演出!凄い脚本!!と驚いてしまった。
最初と最後のワープロだけ、机と椅子と共に出てくるのも、それを裏付けている気がした。
まあでもわたしも有栖川作品のファンからの観劇ではないし、これが正解かは判然としないところにあるけれど……石井さんと志賀さんにいつか話して頂きたい。
追記→矢田さんが配信でOPのアリスが殴られるところまで書きながら物語を振り返ってると言っていた。前半凄い時計見るなと思っていたけど、殴られるまでの時間を確認してたらしい。しかし……それを考えると「これは俺の物語とちゃう!」がわからなくなるので……
うーんやっぱ作家アリスが今回のことを書こうとしてそれを諦めたっていうストレートな受け止め方で良いのかな……
でもどんな想像でも出来るのが舞台はいいな。

大楽で、矢田さんが井澤さんに手を伸ばして肩を叩き合っていた、やりきった! という表情がたまらなく素敵だった。驚いている井澤さんもまだ火村の様だったし、喜んでいる矢田さんもまだアリスだったし、最高のバディの誕生の瞬間を目撃したんだなあと改めて感無量になった。
本当に、この作品がシリーズとしてまだこれからも続いていくことを願ってやまない。
そして、出来れば次作は梅芸などで関西凱旋してくれたらなあと、早くも次作のことを夢想する。

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