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10月2日の再度の記者会見に期すること。謝罪会見・釈明会見のプロとして思うこと

謝罪会見、釈明会見を仕事とする立場から、10月2日に開かれるジャニーズ事務所の再度の会見について今私が考えることを伝えたいと思います。今回のことは誰に相談されたわけでもなく、ただの余計なお世話に他なりません。でも、本件は外国からの厳しい指摘を受けて数十年来の犯行が白日に晒さざるを得なくなったという経緯から、日本人の一人として他人事と知らん顔はできないとも考えています。今の日本は、経済力も人権意識も世界からの信頼を失墜しているピンチのときだからこそ、これを機にこの事件の解決と、子どもの人権意識や性加害問題意識改善へと向かうチャンスにできるのではないかと思っています。

記者会見は1回で終わらなかったら「失敗」です。たった1回の記者会見をしっかりはりきることで、自宅の前にマスコミが待っていたり、することが無くなる。これが成功した記者会見です。
記者会見が「成功する」というのは、失敗した人や企業が、その先再生する機会を手に入れるということです。悪かったことをすべて認め、全てを明らかにし、全てを捨ててこそ、手に入れられる未来の片鱗でもあるのです。私は、全ての過ちを認めるということで、このわずかな希望が持てるよう、記者会見を設定します。

謝罪会見は「1度で完璧に終わらせる」のが最重要

外からの指摘が無ければ、自らの反省ができない。これは、日本の政治や外交においても共通点となる日本社会の悪しき慣習でもあります。そして、外圧に弱い日本がこの一連の事件を受けて、社会としてどう受け止めるのかは、私たち個人の意識に委ねられています。民意としてどう発することができるのかについても。

この度のジャニー氏の長年にわたる犯行は、その名を冠した企業はもちろん、日本社会としても知らぬ存ぜぬでは立ちいかなくなりました。当事者だけでなく関係企業も重い腰を上げ、仕方なくも事実を認め反省の姿を見せようとしたのが現実ではないでしょうか。そして、この後は「国民はそのうち忘れてくれる」と高をくくり、国民の興味が他に移るのをるのをじっと待っていればよい、と思っていたかと。「知らなかった」「覚えていない」は政治家の口癖だと思っていましたが、嵐が過ぎるのを静かに待ってやり過ごす方法を熟知しているということの現れでしょう。これは政治家の十八番というだけでないようで、日本の権力者のやり方なのでしょうか。しかし、これで良いはずがありません。なぜなら、事が明らかになった発端が海外からの指摘なのですから。この視点をごまかし無視する方法は日本はこれまで成功例がないのです。

1回目の会見が大失敗だった根拠


BBCの報道があってから、当事者たる企業の代表としてジュリー社長がVTRでひとり語りをしたこと、これは大失敗でした。確かにこれまで姿を公開していなかった人がメディア映像を出すということ自体、反省の念を表すには一定の評価といえるでしょう。でも責任者である以上、一方通行の「話せることだけを話す」スタイルで、元経営者の一連の犯罪行為について、過不足なく説明できたと言えるはずがありません。せっかく顔を晒したのに、良い評価が得られないのはこのためでした。

2回目の記者会見の大失敗。嘘をつくこと。隠すこと。


記者会見が謝罪・釈明会見である場合、徹底しなければならないことがあります。
それは、

①    隠し事と嘘をゼロにし、全てを明らかにすること。ここだけは何とか誤魔化して上手く切りぬけられたらラッキー、のような部分をゼロにすることです。

全て話す。全て晒してどんな罰も受ける。この覚悟が見えた時にはじめて、被害者や視聴者、ファンの心に赦しの光が微かに見えてくるのです。逆に「この期に及んでまだ言い逃れるのか」などという心証を少しでも与えたら完全にアウト。ましてや、「嘘」や「言い訳」「人のせい」はこの会見後の復活をかえって阻害します。


②   企業の論理を捨てること。社会性の欠如が事件の端緒でもあったのですから、その企業の責任者として責任追及と再発防止のためにできることを全て晒して意見を受け止める姿勢を見せることが必要でした。

今回の「ジュリー社長は代表取締役に留まる」「その方が被害者救済に資する」という弁は、何とか今の立場を維持して、嵐がおさまりさえしたらまた元のようにやっていける、という考えが透けて見える下手な弁明でした。その後の週刊誌報道では、この件は莫大な会社財産を承継しているジュリー氏の相続税対策ではとの内容が報じられています。事業承継にかかる相続税の特例を受けるためには、代表取締役を続ける必要があると判断したのでしょう。しかしここでしなければならないことは、真実を明らかにし、責任逃れでも、権限の維持を目的とするものではないことを明確に表現することでした。今後の被害者への救済のためにも会社財産の保全が必要であることを、同席していた弁護士からの説明としてでも、悪意ではないことを含め、明らかにすべきでした。4名の参加者に、役割の分担もできていないように見受けられました。

今回の問題は史上稀に見る「鬼畜の所業」、数十年に渡る権力者による弱者への犯罪行為です。「子どもの虐待という人権問題」というユニバーサルな常識的視点に立てば、犯罪行為の認定やその後の補償がなされることは当然のこと。むしろ、一歩踏み込んで、今後に同様の犯罪が起きないよう、問題の根本解決を目指す組織を立ち上げ、そこに資金を投入するなど、法律や制度を整えるように政治や行政を促すなど、世界に反省と改善を示すのが筋でしょう。


    次に、企業名は即時変更、または企業としての存続は捨て、資金を財団法人など被害者救済に全て当てるという決意を見せるべきでした。
記者会見で「社名は変更しない。」これには驚きました。犯罪者の名前を冠した企業でい続けるということです。「ヒトラー株式会社」というのと何ら変わらない、イメージすらマイナスでしかないのに、「会社の名前を変えるとは今は考えていない」と言ったのには驚きました。子どもの人権を侵害し続けた前経営者の威光を残すという受け止められ方をすることへの無理解と、死して未だにこの組織にもつ影響力の大きさに驚きしかありません。この期におよんで、まだ、「J」の文字を残そうという噂さえ聞こえてきます。このようにこの企業の判断が、世間の認識と大きく乖離しているのは、隔離された内向きの環境に長年君臨することで構築されてきた認識の結果でしょうか。政治の世界でも権力の座に居続けることは水を腐らせると言われますが、どこの世界でも同じことなのでしょう。

ドイツは第一次大戦後の困窮とともにヒトラー率いるナチス党が登場しました。ヒトラーは、民主的な選挙で選ばれた政党の政治家であり、民衆の圧倒的支持を集めて。彼の率いたナチスがユダヤ人に対して行った所業については語るまでもありません。
しかし、「ヒトラーは偶然に権力を取ったのではない。彼を選んだドイツ国民にも責任がある」という考え方の下、戦争の反省から既に80年近くにわたり、教育の中でドイツ人自らが犯した罪を学び続けています。ナチスへの礼賛や敬礼などを明確に犯罪とすることでも明らかです。

この前のNOTEにも書きましたが、私自身J氏の犯罪についてはファンの間の噂程度ではありましたがうっすらとは知っていました。だからこそそのJ事務所にファンクラブの会費を払い続けていたこと自体が「ヒトラーという権力者を正当な選挙で選んだドイツ人」と同じ立場だったのではないかと考えてしまいます。とすると、私には、この問題を追い続け意見を発し続けなければならない責任があると思うのです。何を大げさに、と考える方もいらっしゃるでしょうけれど、これが今の私の正直な感想です。

かつて私が政策秘書だった頃、ニューヨークの国連本部に、女性差別撤廃条約批准後の国内法整備について報告をする会議に随行したことがありました。批准後5年を経ていましたが、日本は国内法に全く手を付けていないどころか、ちょうどその直前に大学生による輪姦事件があり、当時の与党政治家が「集団レイプする人は、まだ元気があるからいい」と発言したことが、その会議の場で指摘されました。そのことに対する日本の内閣府代表の回答は「日本ではマスコミ裁判で裁かれていますから」というものでした。会場はもの凄いブーイングで、恥ずかしいを超えて悲しかったことを覚えています。

日本の性犯罪軽視と児童虐待への視点が、どのくらい低いか。世界からどのように奇異に見えているのかを、私たち日本人は、明確に自覚すべき時にきています。

この度明らかになった前代未聞の未成年者に対する性加害を起こし続けてきたジャニー喜多川氏に対し、アイドル育成の手腕を理由に見過ごしてきたこと、視聴率や商品の売り上げの向上を理由に、所属タレントを使い続けてきたメディアや広告スポンサーは、この事件を機会としてグローバル企業としての在り方を捉えなおすチャンスでもあると言えるでしょう。人権意識、あらゆるセクシャルハラスメントなどを含め、コンプライアンスの確立された企業といえるのかを省み、世界基準の視点を取り入れる。今回のことも、取引先としてのJ事務所と契約を「一時停止」などとトカゲのしっぽ斬りをすることで終わらせるのではなく、何が問題だったのか、安易に人気に乗っかる風潮への反省をするチャンスにするときなのでしょう

この事件発覚を機に、似た環境に陥っている人々の救済と、同じことが二度と起きないように制度と法律の整備がなされることが必要です。日本が世界からの信頼を取り戻し、日本のエンターテイメントを世界に発信する土台を作り直すためにも、ピンチの今が最大のチャンスの時だと思うのです。

この意味で、10月2日の企業としてのJ事務所の記者会見が、新しい一歩となることを願ってやみません。


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