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政局の幕開け?自民党トップを占う横浜市長選

永田町がカオスとなる日

混乱となるとワクワクするのは性分なのだと思います。商売人の家で育ったので、安定した暮らしは経験したことがありません。お手伝いさんが何人もいる家で暮らしていたかと思うと、父の「引っ越すぞ」のひと言で2階建てのボロアパートへ転居したり、突然大きな外車が届いたり。父の商売の浮き沈みに加え、昭和のドサクサな時代背景が、私自身を変化を楽しむ性格に育てていったのでしょう。

永田町で仕事をするようになって、当初、政治のことは全く分かりませんでしたが、政局となると新人の頃から、なぜかもの凄くワクワクしました。解散になるのかならないのか、水面下の足の引っ張り合いがこの後どちらを沈めることになるのか、考えるだけで眠れなくなるほど。

2008年の郵政解散も、小泉純一郎首相を知る国会議員は皆、

「ひとつの法案の是非で解散なんてできるはずがない」

と口を揃えて言っていました。でも私は解散になると密かに思っていたのです。それは派閥に属さない、傘下を持たない、でも影響力は最高に意識する。そんな小泉首相がこの先、前に進むにはひとつの派手な結果があった方が良いから。その派手な初は前代未聞な方が良いから。私の話を「新人が分かったようなこと言って」と鼻で笑っていた党の重鎮が、解散となった日に衆議院の議員食堂で私を見て苦笑いした顔が忘れられません。

別に当たったからといって自慢することでもないのですが、2008年のあの郵政解散に匹敵するような面白さが、もしかしたらこの秋にやって来るのかもしれないと思っています。

興味深く見ているのは、菅首相のお膝元の横浜市長選挙です。

自民党が勢力をあげて押し上げようとしている候補者が勝てばいいのですが、もし負けたならこのほころびを自民党はどう繕うのでしょう。自民党からは、現職の国家公安委員長を辞職し、衆議院議員の職も捨てての立候補となる小此木八郎氏です。菅政権の内部で大臣の職についている重鎮であり、しかも選挙区は菅首相と同じ横浜。勝つのが当然の選挙です。この選挙では現職の市長を含め全部で8人が立候補しています。でも、各新聞社の票読みでは、この小此木氏が何と二番手です。優勢なのは野党が推す山中竹春氏・元横浜市立大学教授というから、自民党はたまったもんではありません。横浜市議36名のうち30名が自民党関連議員。そこに加えて県議全員、さらに公明党議員も支援に回る「自公推薦」の国政選挙のような盤石の態勢で挑んでいるにもかかわらず、立憲民主党推薦の山中竹春と現職の林文子市長を引き離せないのが現実です。

この選挙の争点はIRです。カジノを創るのか、候補地を辞退するのか。今回の市長選挙は、カジノ推進なのか反対するのかが主な争点です。一度上げた手を下ろそうというのが反対派ですが、8人の候補者のうちなんと反対派は6名。小此木氏も山中氏も反対です。となると「横浜にカジノを創るのは反対!」と考える有権者は、この6人のうちから誰かを選ぶことになります。争点が争点になりきっていない。

この選挙、自民党が推す候補が勝てば「さすが、菅総理のお膝元!(勝って当然)」なのですが、もし小此木氏が負けたら、それは逆に「菅総理はお膝元の選挙で勝てなかった」という結果になります。
さぁ、こうなったとき、得をするのは誰でしょう。私がいつも政局で考える視点はこれです。

菅総理が手痛い目に遭って得をするのは、9月末で任期が切れる自民党のトップを選ぶ選挙、自民党総裁選に出ることを狙っている野心家です。そこに誰よりも早く手を挙げているのは、高市早苗元総務大臣です。

文藝春秋の9月号で「総裁選に出馬します!」と銘打って出された記事を読んで、これはもしかしたらと思ったのは私だけではないでしょう。

昨年から、選挙区の奈良で何度となく「立候補する」と話していたことは聞いていたのですが、総裁選に出るには20人の現職国会議員の推薦人が必要です。しかし高市氏は派閥を持っていません。なので、私は本当に立候補できると思ってはいませんでした。この記事の中で高市氏が訴えているのが「ニュー・アベノミクス」という部分を読んで、もしかしたらと思ったのは推薦人の出所です。この言葉を使うからにはバックボーンがあるはず。次の総裁に再びと呼び声が上がっていた安倍前総理のアベノミクスを承継すると明言する背景はどこにあるのか。高市氏は安倍前総理の院政を受けての総裁となるというのでしょうか。バックグランドに最大派閥の細田派・清和会がつくとしたら、野田聖子氏や小池百合子都知事と初の女性総理の座につくことを阻止する勢力が、代わりに推す存在として選んだということでしょう。誰に何と言われてもじわじわと準備を進めてきた高市氏がチャンスをつかんだのでしょうか。文藝春秋のこの記事を読み終わり、ぼんやりとページをめくって私はもう一度ギョッとしました。え?北村さん?!

高市氏の記事の22ページ後ろに写真入りの北村滋氏の寄稿がありました。北村氏と言えば安倍晋三前首相の最強の懐刀。安倍第一次政権からぴったりと安倍氏に寄り添っている重鎮です。安倍総理が第一次政権の時、その座を降りた際、蜘蛛の子を散らすように人が去った後も、わずかに安倍氏に寄り添ったことから絶大な信頼を勝ち得た官僚のうちのひとり。この北村氏がもし高市氏のバックに入ったとなると話は現実味を帯びてきます。

このように、一つの市長選挙が、国政の次の総理候補となる自民党の総裁選の行方に関わってくるのです。

菅総理の対立候補からは、表向きには言えませんが、横浜市長選は自民党の推しが負けた方が都合は良いことになるでしょう。菅総理に衆議院選挙を戦う力はない。だったら人気を回復できる総裁で戦うべきだ。安倍政権下で、選挙活動らしいものもせずに勝ち上がり続けてきた自民党3期生以下は、苦しい選挙で勝ち上がる戦い方を知りません。選挙互助会と化している自民党の支持率頼りで、サラっとすり抜けたいというのが実情。だったら、人気がとれる総裁候補を推したいと願うのは当然のことでしょう。ましてや安倍前総理の院政となるなら、なおさらのことです。

小泉総理大臣がやってのけた郵政解散と、今回の菅総理を比べてみるとしたらその違いは、解散権を持つ菅首相に生気がないことです。記者会見であろうと、国会であろうと、書かれたことを読み上げるだけの答弁。それに加えてあろうことか読み間違いが増え、広島の原爆記念式典での読み飛ばしが問題となり、その後の長崎の式典には遅刻をし、共産党から「大丈夫か」と心配される有り様は、総理の器ではないのではと、側近からも疑念が漏れ聞こえているとか。うつろな目で答えにならない答弁を繰り返す菅首相を見ていると、コロナ禍が加わった災害列島日本を背負っていけるのか、不安になります。

折しもたった今、追加情報として、「石破氏、菅氏の総裁選支持」の一報が飛び込んできました。

石破氏が総裁選に出ずに菅氏を応援するメリットはどこにあるのでしょう。敵の敵は味方。ならば潰すべき敵は誰なのか。
横浜市長選挙で、自民党の推す小此木候補が勝つことが、そのまま自民党の支持率回復となるわけではないでしょう。しかし、もし落とすことになれば、菅首相にとって不利に働くことは間違いありません。党内政局の始まりとなるか、1か月後に迫る総裁選挙の行方が急展開することもあるでしょう。そして、秋の衆議院選挙はどの顔で戦うことになるのでしょうか。考え始めると今夜も眠れなくなりそうです。

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