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読む絵本 『つばさ』④


チョウと別れて、ひとりで大海原に向けて飛び立ったとりさんは、疲れなど忘れて、喜びいっぱいつばさを羽ばたかせ、空を飛び続けました。

海は太陽の光を受けてキラキラと輝き、風はとりさんの頬を優しくなでて、潮の香りはとりさんをすばらしいどこかへ誘ってくれているみたいに感じました。

「ハーイ、とりさん。どちらまで?」

そんな声が下から聞こえてきて見てみると、イルカたちがとりさんのスピードに合わせてついて来ています。

「はじめまして!ぼくもどこまでいくかわからないんだ。
 一緒に遊んでくれてありがとう!」

イルカは、跳ねたり潜ったり自由自在に海の中を散歩しているみたいでした。

「とりさん、またね!
 もうすぐ島にたどり着くよ。いい旅を!」

そう言ってとりさんに挨拶すると、またどこかへ楽しそうに消えていきました。


海を越えると、枯れ木や、砂ばかりの丘が連なる風景に変わり、そこにサルの群れを見つけました。

みな抱き合って悲しそうな顔をしています。
子ザルはしくしく泣いています。

「どうしたんだろう。なんでこんな何もない所に、
 サルさんたちはいるんだろう。」

不思議に思い、サルさんたちに話しかけてみることにしました。

「どうしたんですか?
 どうしてそんなに悲しんでいるのですか?」

身を寄せ合っていた中の、大人のサルさんが言いました。

「一生懸命に育てた、くだものや野菜や木を、
 みんなこの向こうに住んでいる、トラさんたちが
 持っていってしまったのです。
 この湖にあった水も、みんな荒らされて
 今では飲む事もできません。子供たちも大人も
 みんなお腹が空いて動くことすらできないんです。」

と言って、またうつむいて身を寄せ合って、じっとしてしまいました。

そんなサルさんたちをみて、とりさんは、お腹を空かせて倒れていたチョウのことを思い出し、胸がくるしくてしめつけられたような気分になりました。

「どうしたんだろう・・・
 どうしてぼくはこんなに苦しいんだろう。」

とりさんは、どうしていいかわからず、何も言わずにこわくなってそこから逃げ出してしまいました。


そうして、またしばらく飛び続けると、木々が生い茂る森の上にたどり着きました。

さっきよりもずっと低く飛びながら、森の中を見てみると、暖かそうな家々ときれいな湖と、沢山の実がなった木々が見えてきました。
その木々の実は、一部は食べられ、また一部は食べきれずに腐ったりしています。

ここにはどうやらトラさんたちが暮らしているようです。
すぅっと降り立ち、トラさんに話しかけてみました。

「トラさん、こんにちは。
 この木には美味しそうな実が沢山なっていますね。
 けど、腐ったりあまったりしているようですね。
 この向こうで、サルさんたちがお腹を空かせて
 泣いていました。少し分けてくれませんか?」

背を向けたまま、しっぽをユサユサ揺らしながら聞いていたトラさん。

「ふんっ。そんなこと知ったことか。
 なぜ分けてやる必要があるんだ?
 これらはサルたちの所から散々苦労して
 奪い取って来たものだ。」

さらに

「オレ様たちは今、すべてを手に入れてとても幸せだ。
 それをまたサルたちに分けてやるなんて、バカげてる。
 お前もそうは思わないかい?」

と言って振り返ったトラさんの顔を見て、とりさんは驚きました。

鋭いキバをむき出して毛を逆立て、目はつり上がりギラギラと光っていました。

「う、うわぁぁ〜っ!」

一度石につまづきながら、なんとか空へ飛び立ちました。
心臓がドキドキとすごい速さです。

「すごく怖かった・・・。
 でも、あの顔、
 どこかで見たことがあるぞ・・・」

そう考えながら、とりさんはハッとしました。

「あれは、水がめの中で見た 
 ぼくの顔とそっくりじゃないか!」


*****

海を渡って出会った、ふたつのコロニー。

戸惑うばかりのとりさんは、この先どうするのでしょうか。


つづく♡


あとがき*

とりさんの旅を書いていて、友達のことを思って胸がくるしくなったり、知らない誰かに声をかける事にドキドキしたり。
旅って、普段感じれない自分を発見しやすいよなーって、考えてました。

私が、初めてひとり旅をしたのは、三重県伊勢市でした。

電車の乗り方もろくに分からないような状態で、切符の買い方、道筋、人に聞く事も恥ずかしいと思っていて、なのに旅のプランは大まか適当っていう、繊細なのか大胆なのかよく分からない、そしてよくひとりで行こうと思ったな?という旅でした。

でも、想像した通りにならない現実は私をたくましくして、怖いし恥ずかしいと思っていた変なプライドは、あっという間に自分の中から消えました。

何より、自分から話しかけてみると、世の中はとても優しいし、できないムリと決めつける気持ちを、減らしていく喜びも知りました。

はじめての時の、あのいろんな感情をひとりで抱えて、汗だくで歩いたお伊勢さんの道は、一生忘れないと思います。

今も、ひとりで行動するのは好きです。
また同じ旅の行程を、今の自分でしてみたいな、なんてたまに思います。
こうゆう気持ちを、どんどん自分で叶えていきたいな。

お友達や姉との旅行も、大好きです。
また違った自分発見できますよね。


次回、感受性豊かでまさに成長過程のとりさんは、サルさんトラさん、そして自分自身とどう向き合っていくのか。
お楽しみに(*´꒳`*)

今日もここまでご覧いただきまして、ありがとうございました♡


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