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【book log】ザリガニの鳴くところ

『ザリガニの鳴くところ』
70歳の作家、ディーリア・オーエンズ氏の小説家デビュー作。

物語は1950年代。
事情がある人しか住み着かないアリカ南部の未開の湿地で孤独に生きる少女の人生の物語。動物行動学の研究者である作者は、大自然との対話の中で丁寧に見出してきた彼女の専門性と哲学から、いまこの世界に伝えたいことを、語らせているようにも読める。

弁護士が陪審員に呼びかける最後のスピーチは、そのうちの一つだったとおもう。

『もう知らないふりはやめましょう。
我々は彼女のことを湿地の少女とよんでいました。彼女には、狼の血が入っているとか、暗闇で目が光るなんて言う人もいました。
しかし、実際は、彼女は親に見捨てられてしまった小さな子どもだったのです。たった一人で、飢えや寒さと戦いながら、沼地で生き抜いてきた少女だった。それなのに、我々は彼女に救いの手を差し伸べなかった。
彼女は自分たちとは違うと決めつけ、レッテルを貼って、阻害してきたのです。
けれど、みなさん。
我々は彼女が異質だから締め出したのでしょうか。それとも我々が締め出すから彼女が異質になったのでしょうか。
もし我々が彼女を受け入れていたら、いまこのときも、彼女は我々の仲間であったはずです。我々が食べさせ、衣服を着せ、愛し、教会や家に招いていたら、我々が彼女に偏見を抱くことはなかったはずです。彼女が今日この場所に座り、罪に問われていることもなかったのではないかと思うのです。』

近隣コミュニティの人たちは、主人公を「ホワイト・トラッシュ」と呼んだ。訳者解説によると、ホワイト・トラッシュとは、貧乏白人という意味らしい。当時の白人の間の階層の中の最下層をそう呼ぶそうで、経済的貧困だけではなく、自堕落・不衛生・暴力的、そして人格的にも劣る存在とみなされた言葉だそう。

私達日本人は人をそんな風に呼ばない。
だけど「あの人は私とは違う」という自分の眼鏡は持ってる。
それがない人なんて、誰もいないとおもう。

少なくとも今の日本は、法律でも、母国を追われた外国の人の人権を守らなくていいものとしている。「難民を受け入れない法律の国を間違えて選んだんだから、しょうがないんじゃない?」と友人は言った。
なんとなく、言葉を返せなかった。

オーエンズさんは子どもの頃から小説家になる夢をもってきたそう。
70歳処女作の原書は700万部を突破し、昨年のアメリカで一番売れた本だった。こうして世界中で翻訳されて、私も出会えた。
きっと多くの人がそうであるように、私もこの作品を一生の宝物にするんだとおもう。


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