「不思議な喫茶店の出会い」ショートショート
ある晴れた土曜日の午後、彩花(あやか)は久しぶりの休日に、近所を散歩していた。ふと目に留まったのは、古びた喫茶店。「喫茶店」という看板は見当たらず、ただ木のドアに「Open」の札がかかっているだけだった。
「こんなところにお店があったかな?」と思いながら、彩花は興味本位でドアを開けた。店内にはレトロな家具が並び、どこか懐かしい雰囲気が漂っている。カウンターには年配のマスターが一人、ゆっくりと珈琲を淹れていた。
「いらっしゃいませ、初めてのお客様ですね。今日は何をお召し上がりになりますか?」
彩花はメニューを手に取り、どこか特別な響きを感じた。「おすすめは何ですか?」と尋ねると、マスターは微笑んで答えた。
「この店では、お客様が求めているものをお出ししますよ。」
その言葉に少し驚きつつも、彩花は静かに「じゃあ、癒されるものをお願いします」と頼んだ。すると、目の前に差し出されたのは、心地よい香りの立ち上るミルクティー。そして、温かい光が差し込むような柔らかな味だった。
「どうですか?」とマスターが尋ねる。
彩花は一口飲んで、思わず微笑んだ。「なんだか、昔を思い出しました。小さい頃、おばあちゃんがよく淹れてくれた味です。」
「それは良かった」とマスターは、静かに頷いた。
その後、彩花は仕事の疲れや、日々の忙しさを忘れ、しばらくの間この静かな喫茶店で過ごした。帰り際、ふと振り返ると、店の前にはもう「Open」の札はなかった。
「また、来れるかな?」
そう呟きながら家路に着いた彩花。しかし、次にその場所を訪れたときには、そこに喫茶店は見当たらなかった。
「あれは、夢だったのかも…」とつぶやく彩花。それでも、そのミルクティーの温かさと、優しい時間は確かに彼女の心に残っていた。