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『水 18人の水 答えは水の中』 第三セクター四万十ドラマ


本書を知ったのは梅原真の『ニッポンの風景をつくりなおせ』を読んでのこと。本書の出版元である第三セクター四万十ドラマは現在は株式会社四万十ドラマになっている。第三セクター時代から現在に至るまで社長は畦地履正さん。畦地さんとは一度だけ電話でお話をさせていだたいたことがある。今となっては記憶が定かでないのだが、何年か前の今時分に四万十ドラマに何かを注文した。そしたら「お盆の時期で物流が滞っている」ので発送が遅れるとのメールが届いた。私は「お盆は毎年決まった時期なのだから、お盆で云々という言い訳はおかしい」というようなことを書いて返したのである。今から思えば余計な事を書いてしまったと恥ずかしい。すると、畦地社長直々に謝罪の電話がかかってきたのだ。些細なクレームに社長が電話で対応するとは、単に人手が乏しいというだけのことだったのかもしれないが、こりゃ大した組織だと感心してしまった。なぜ感心したかというと、自分たちが商うものへの愛情とか情熱のようなものが伝わってきたからだ。

その畦地さんの四万十ドラマが三セクだった頃の企画商品の一つがこの本だ。梅原の『ニッポンの風景…』によると本書誕生の経緯はこのようなものらしい。

「万物の根源は水である」。四万十川が日本最後の清流というのなら、まず「水」について語る場を作ろうじゃないか。「四万十ドラマ」というあやしげなイメージを払拭するために、モノを売る前にまず「ココロザシ」をみせようじゃないか!と。
「水」という本作りを提案した。
あらゆる分野の著名人に「水」についてのメッセージをいただく。そして、原稿依頼や編集、デザイン、印刷などのイッサイガッサイを四万十川が行う。
四万十川は東京から取材され、東京から発信されるいちコンテンツになっている。そうじゃなくて、四万十川住民が自らプロデュースするというまったく逆をやりたいと……
原稿を依頼する人物リストアップを存分に楽しんだ。すると、ビビってしまうようなスゴイ45人となった。しりごみして憂鬱になった。原稿料はきちっと払いたい/金はない/甘えてはいけない!/原稿料が見当もつかない!
そこで考えたのが、原稿料は「あゆ」。あなたの「考え」と「四万十川の天然あゆ」を、物々交換させてください。と考えた。わたしは住んでいた四万十川の家の下の瀬で、網を投げ、鮎を漁っていた。自分で漁れば「タダ」なのである。
受け取る側にはその価値は未知の世界なわけで、いい想いつきだった。
(梅原真『ニッポンの風景をつくりなおせ』羽鳥書店 126-131頁)

そして四万十ドラマとしての公式依頼書、梅原手書きの手紙、返信ハガキをセットにして45人に送ったのだそうだ。その結果、18人の原稿で本書が完成したのである。素晴らしいと思った。人の了見というものがよくわかる試みだと思う。ここに原稿を寄せた18人を、私は信頼できる人だと感じた。

赤瀬川原平
浅井慎平
天野祐吉
荒俣宏
糸井重里
内山節
岡林信康
黒田征太郎
櫻井よしこ
高橋治
田島征三
筑紫哲也
ナンシー・フィンレイ
橋本大二郎
浜野安宏
平野レミ
フランソワーズ・モレシャン
山本容子
(敬称略・五十音順)

それでこの本は版もでかいが字もでかい。なぜ文字が大きいかというと、以下の理由があるのだそうだ。
1. 執筆を依頼した45人全員が原稿を書くという前提で版を組んでしまった
2. しかも一人8ページを予定していた

冗談かもしれないが、いい噺、いや、いい話だと思う。そんな素敵な本なのにAmazonで検索しても出てこない。この「読んだ」マガジンに上げているのは、会報とかWebのコンテンツは別にして、書籍は当たり前にどこでも入手できるものばかりだ。困ったなと思って、四万十ドラマのサイトを見たら、ちゃんと販売していた。

あと、ついでに。「ウメちゃんを信じなさい!」(by 大橋歩)だと。



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