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とんだ災難

「はじめての短歌」の後は「短歌入門」という通信講座を受講した。「入門」では課題は全て三首詠むこと。提出したそれぞれの短歌に五段階評価が付く。いきなり違和感を覚えるが、とりあえずこれも5回の課題全てを提出した。

第一回目の課題で詠んだのはこの三首。

旬を過ぎ桃の甘さの物悲し月白く光り虫の音響く

ねをあげて通りをふさぐ倒木は都市計画の防災樹林

日々歩む路傍の石のなかにさえ砲の台跡ここも戦場

時期は昨年9月。東京は台風15号の被害を受けた。倒木で通勤に利用している京王線が動かず、最寄駅ではなく、多少利用者の多い隣の駅まで歩く。しかし、そこにも当然、長蛇の列ができており、とりあえず23区内に位置するさらに隣の駅を目指して歩き始めた。すると、目の前でタクシーから降りる人がいた。そのタクシーで勤務先まで行った。道路は渋滞し、殊に乗ってすぐの甲州街道が酷かった。渋滞のネックは倒木。街路樹が根本から抜けて倒れて根っ子が空を指していた。かなりの大木だ。この街路樹は東京オリンピックのときに植えられたものだそうだ。何年物の木が植えられたのか知らないが、あれから55年。根本をアスファルトだのコンクリートタイルだので固めれ、毎日嫌というほど排気ガスを吸い、きっかけがあれば倒れちゃいたいなぁ、と思っていたに違いない。その倒れようと言ったら、唖然とするほど堂々としたものだった。

さて、歌の話である。近頃は農産物の季節性が薄くなっている。落語に「千両みかん」というのがあるが、今は、量こそ少ないが、夏でもみかんは流通しているし、冬でもメロンは食べられる。本来は初夏の果物である苺に至っては出荷量が最も多いのが12月だ。それでも、それぞれの旬というものはある。品種によるばらつきがあるとはいえ、桃は7月から8月あたりが旬だろう。9月の桃も甘く美味しいには違いないが、旬を過ぎたと思わせる味だ。気温はまだまだ高いのだが、月は秋らしく、夜の虫の音はすっかり秋だ。

添削後はこうなった。

旬過ぎし桃の甘さのものがなし月白く照り虫の音響く

二首目は先に述べた通勤途上の情景を歌にした。課題として提出した冒頭の歌の他にもいろいろ考えるには考えた。

根を上げて通りを塞ぐ倒木は野分けに平伏す人の浅知恵

台風にねをあげ倒る街路樹は都市計画の防災樹木

今、これを書いていて気が付いたのだが、下の句の最後は「防災樹木」であったのを写し間違えて「防災樹林」としてしまった。街路樹なので「林」ではないだろう。それで、添削後はこうなった。

根を上げて通りをふさぐ倒木は都市計画による防災樹

近所に飛行場がある。もとは陸軍の飛行場で、軍事施設なので基地防衛の高射砲陣地が飛行場を囲むように設けられていたそうだ。家の近くの住宅街のY字路の縁石の一部が、かつて高射砲の土台の一部だったらしい。今、だらしないほど平和な日常風景が広がっているが、ここもかつて戦場であったことは事実である。自分の両親、祖父母、その他親戚は空襲のなかを逃げ惑ったことがあり、目の前で大勢の人が亡くなり、近所に住んでいた人の中には兵隊に取られて二度と帰ってくることがなかった人もある。私の名付け親である伯父は近衛兵で、その弟の伯父は海軍にいた。平和も戦争も何かの弾みだと思う。突然、妙な感染症が蔓延するように、今いる場所が戦場になることだってあるのかもしれない。

それで歌の添削だが、三首目は殆ど直しがなかった。

日々歩む路傍の石のなかにさえ砲台の跡ここも戦場

今回、添削していただいたのは加藤隆枝先生。

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