旧ソ連考 『危機言語 言語の消滅でわれわれは何を失うのか』
1989年5月の終わりから6月の始めにかけて西ベルリンを訪れた。「ベルリンの壁」が見たかった。東西の通行窓口の一つであるチェックポイント・チャーリーと呼ばれる検問所の近くに「壁の博物館(Mauer Museum)」があった。今もあるらしい。そこには東から西への逃亡の記録が展示されていた。記録というのは、逃亡の方法についての解説、逃亡に用いられた道具類の実物あるいはレプリカ、逃亡に失敗して命を落とした人の名簿、などであった。その名簿の最後に記されていたのは、ハンガリーからオース