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書評「社会はなぜ左と右にわかれるのか −対立を超えるための道徳心理学−」

著者であるジョナサン・ハイトは米国の社会心理学者で、ポジティブ心理学・道徳心理学を研究しており、2001年にポジティブ心理学テンプルトン賞を受賞している。

本書は人々が政治や宗教をめぐって対立する構図を、進化論、哲学、社会学、人類学などに基づく道徳心理学という観点から多角的に検証している。

道徳心理学の第一原理「まず直観、それから戦略的な思考」は、私たちの判断が直観に大きく左右されることを教えてくれる。これは心理学における二重過程理論にも通じ、著者はこの原理を〈象〉とその〈乗り手〉に例えて明快に説明している。

第二原理「道徳は危害と公正だけではない」は、道徳基盤の多様性、さらに言えば価値観の多様性を説いている。本書では保守とリベラルを比較して道徳基盤を説明しているが、私たち医療・福祉に携わる者がどのような道徳基盤に依存しているかを理解すれば、ときにクライアントとの間に生じる摩擦や対立が解明できるかもしれない。

第三原理「道徳は人々を結びつけると同時に盲目にする」は、人間は利己心を捨てて集団に一体化できる能力があるが、それはあくまでも自集団の存続を有利にするために機能することを示している。これは宗教や政党だけではなく、会社組織や派閥にも同じことがいえる。

自分と異なる道徳基盤をもつ人々とどのように理解し合えばよいか、という点についてはあまり言及されていないのは残念であったが、本書を通して私たちひとりひとりが考えるべき課題なのかもしれない。

近年、医療現場において信念対立解明アプローチが広がっているが、本書で述べられている道徳心理学の原理も信念対立の解明に大いに役立つと思われる。

ジョナサン・ハイト 著(2014年)

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