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時空を超えたクリスマス(後編)

前編はこちら  

 翌日、ヨセフとジャックと伸三の3人は近くに住んでいるマリアの家を目指した。「おいジャック、朝から気になってたけど、何にニヤケてんねん。気持ち悪いわ」
「ハッハッハ!伸三さん。これはすごいことですよ。まもなく本物のクリスマスが見られますよ」ジャックがうれしそうに笑うと、伸三の怒りが頂点に。

「はあ? 何言うとんねん。三美子も明彦もおらんようになって、ついにお前、頭おかしなったんか? あのな、俺はなお前のそういうのがな!」
「あ、あそこですマリアの家は」伸三を遮るようにヨセフは、ふたりにマリアの家の方向を指差した。

 マリアの家についてマリアを呼ぶと、少女と後ひとりが、家の中から出てくる。「あ!」伸三とジャックは同時に声を上げた。マリアと一緒に、明彦が出てきたからだ。
「伸三さん、ジャック! 良かった。あれ? 三美子は」
「それはこっちの言うセリフじゃ。お前!三美子ほっといて何してんねん」
「ええ? でも僕の他には誰もいなかったので」
「ふたりとも落ち着いて! 今はそういうことではなく、あのカップルの大事なときです。 僕らのことは後で!」
 やや大声のジャックに、明彦、伸三だけでなく、マリアとヨセフも振り向いた。
 だが、後者のふたりはすぐに見つめあうと、マリアはその場でしゃがみこんで泣きはじめる。「ヨセフ聞いて、本当に私は何もしてないの。でも」

 ここでヨセフもしゃがみこみ、マリアと目線を合わせた。
「マリア子供ができたとか」
「そうなの、ずっとひとりで悩んでいたら、昨日こちらの明彦さんという方と会ったの。『楽になるから、思い切って全部話したら』といってくれたのよ。それで今まで私と一緒についてきてくれて」明彦は小刻みにうなづいてヨセフに挨拶する。
「マリアそれは俺もだ。こちらのジャックさんと、伸三さんと昨日会ったんだ。ふたりも作り笑顔でマリアに挨拶した。

 それだけじゃなく、ジャックさんは俺の夢のことまで知ってたんだ。『その子を受け入れなさい』といわれたことまで」
「え、ヨセフその子って、このお腹の」マリアの声に頷くヨセフ。
「信じられないことだけど、神様は本当にいるんだ。絶対!」
「あの、途中で申し訳ないのですが」突然ジャックがふたりの会話に介入する。「マリアさんあのう、子供の名前をイエスとか言ってませんでした?」
「ええ! じ、ジャックさんなぜそれを?? そうです。イエスと名付けなさいといわれました」
「やっぱり。大丈夫です。その子供はやはり神の子です。心配いりません。安心して生みましょう」

 ひとり嬉しそうなジャックにヨセフ、マリアは戸惑いを隠せない。
そのさらに外側で、首をかしげる明彦と伸三。「ジャック何かおかしくないか? 」「伸三さん確かに。でもこんな、よくわからないところにいれば、誰でも頭が変になるかも」
「ふん、俺はならんで」「僕も正常です」
「ジャックさんありがとうございます。そういえばマリアのお腹が少し大きく見えるよう。もし誰かに言われたら、『俺たちは婚約者なので』とか言って、ごまかします」

 ふたりは和解した。その後明彦は、伸三、ジャック同様、ヨセフの家で世話になることに。そして夜になると三人は家の外に出た。「ジャック、これはいったい」
「そうやお前おかしいぞ、昨日から」するとジャックは、勝ち誇ったように笑いだす。
「ハハッハ!そうですよね。私はクリスチャンで聖書を読んでいるから知ったのです。理由はわかりませんが、私たち三人は2000年前のイスラエルにいるようです」
「イスラエル!! 」

 明彦に続いて伸三も顔の表情が変わる。「それ紛争地帯やないか、テロとか大丈夫か? 」
「まあ、ふたりとも、ここは2000年前です。そしてあのふたりは、イエスキリストの親なのです」「親、確かに娘さんはマリア、え?聖母マリアという人?? 」明彦は驚きのあまり声が裏返った。
「何やねん、わけわからんわ。2000年前とか、いくらこの前までクリスマスの話してたからって、どう考えてもおかしいやろ。俺はな、昨日からお前のこと!」
「でも、伸三さん、といってもここは現代の日本とか、その外国とも違って、凄い昔の童話の世界みたいですよ。電気もないし、生活自体がどうも原始的で」

「うーん、明彦そうやったとしても、これから俺らはどうなるんや? まだ三美子は行方不明やし」
「三美子さんだけは、現代の日本に残っているのかもしれません。でもマリアさんの子供は神の子イエスです。だから生まれたら奇跡で、僕たちが元の時代に戻れるかもしれません。それまで我慢しましょう。今の僕たちではどうすることもできません」
 ジャックのこの一言で、3人は沈黙した。

 こうして3人は訳も分からず、ヨセフの家で居候をしながら、ときおりお腹が大きくなるマリアの様子を見ていた。

ーーーー

 そんなある日のこと。はるか遠くにあるローマという都市にいるという、帝国の皇帝からの命令がくだされた。それは全国民が自らの先祖に関する戸籍を確認せよとの通達である。
 そのためヨセフはナザレという町から、先祖が住んでいたベツレヘムという町に行く必要があった。
 マリアは今にも生まれそうな雰囲気があったが、皇帝の命令は絶対。とりあえずふたりでベツレヘムに行くことになった。
「ヨセフさん、大丈夫です。ぼくたちもついていきますから」代表して明彦がふたりに伝える。
「本当ですか?皆さん何から何まで」「うれしいわ。この子がこの旅の途中で生まれても安心」マリアは笑顔で、大きなおなかを優しくなでた。

 こうしてヨセフとマリア、そしてジャック、伸三、明彦の3人がベツレヘムに向かう。

ーーーー

 その頃、ひとり別行動となっていた三美子は、3人の賢者とも仲良くなっている。そしてベツレヘムの近くにある都エルサレムに到着していた。
 ここでは、この地域を治める大王ヘロデに謁見していた。
「キャー!みんなとはバラバラになったけど、王様に合えたし、ご飯まで御馳走になっちゃったわ」最初は不安で仕方がなかったが、三美子の適応力が高いのか?今ではこの設定を楽しんでいた。

「さて婦人、私たちはこのまま星の先にいる、新しい王の元に向かいますがあなたはどうされますか?」メルキオールが声をかける。
「もう!その婦人というのはやめて!!  私は三美子です」
「あ、三美子さんは、この後どうしますか? 」「どうって、ここにいても仕方ないし」
「では私たちと」「バルタザールさん、お願いします。私の仲間がみんないなくなったから、私が今頼れるのは、あなたたちだけなので」
こうして、三美子は3人の賢者と共に星が見える方向、つまりベツレヘムに向かった。

ーーーー

「ベツレヘムの町についたようだ」夕暮れになったときにヨセフがつぶやいた。「なんや寂しい町やなあ」
「伸三さん仕方ないですよ。僕らそんなこと言える状況じゃないし」明彦が励ましにもならない言葉で励ます。
「おふたりとも、もうすぐですよ。凄い瞬間が見えます」とひとり嬉しそうなのはジャック。
「何がすごい瞬間や! こんなわけ解らんとこ、ジャック!! いい加減にせえや。俺わな、こんな!」伸三の怒りを遮ったのは明彦の大声。
「ヨセフさん!どうされました」「あ、マリアが産気づいたみたいです」
「ええ!病院とか」
「明彦さんそんなのありませんよ。ヨセフさんマリアさんを横に出来るところを探しましょう」
「一体どうなっとんのや! せめて三美子がおったらやけど、男ばっかやで。ほんまこれ、どうすんのや」
「伸三さん、手伝ってください!」「あ、あああ」

 突然産気づいたマリアを4人の男は、大切に抱きながら、横になれるようなところを探す。「あそこに洞窟があります」
「洞窟?でもあそこには馬がいるのでは」ジャックの一言。
「すみません、急に妻が生まれそうになったので」ヨセフがちょうどそこにいた馬の主に声をかけると状況を把握してくれたよう。「わかった。だがもう夜になるので、そこで赤ちゃんを産むしかないな。馬は別の所に連れて行く」
 そういって馬の主は馬を洞窟から出してくれる。

「ありがとうございます」「設定は聖書と同じ!ばっちりだ」
「ジャックさん何がばっちりですか?」ヨセフが不思議そうに質問。「ヨセフさんジャックは、僕たちも言っているる意味がよくわからないので、ほっときましょう」
「明彦の言うとうりや。そんなことより、はよう奥さんをここに」

 気が付けば、一番テキパキと動いた伸三により、マリアは馬小屋として使われていた洞窟内に無事に寝かされる。
ヨセフはマリアの腕を握るが、マリアの表情は苦しそうなままであった。
後の3人はどうしてよいかわからず、戸惑っている。

「見てください頭が出てきました」
「何やて、明彦取り出せるか?」「ええ?そんな僕、赤ちゃんなんて取り出したこと」「何言うとるんや、ヨセフさんは奥さんの横におらなあかんし、ジャックはあてにならん」「なら、伸三さんが!」
「アホ!俺もしたことないわ。そんなこと言わんと体動かせ。俺はな!おまえのそういうところ」
「2人とも手伝って、もう目の近くまで出かかってます」気が付けばジャックが赤ちゃんを取り出そうとしている。
「お前なんで、そんなんできるねん」「やったことないけど、見た事があるので」
「あ、小さな鼻がみえます」「明彦さんゆっくりと」3人が下から赤ちゃんを取り出そうしている。マリアの顔は苦しそうな表情のまま、ヨセフはただ「マリアもう少しだ」と手をしっかりとつかんで横で励ます。

 それから数分後、赤ちゃんの大声が洞窟に響き渡った。

「生まれた!」
「おお!」
「はじめてやで、すごいな」
「素晴らしい! その瞬間が見られました」「マリア、やったぞ生れたよ」
 ふたりは関係を持つことなく生まれた子供。
 だが、すでに父親の表情をしながら赤ちゃんを早速抱きかかえるヨセフは、さっそくマリアに見せる。マリアも安どの表情を浮かべた。

 しばらくすると、数名の大人が洞窟に来る。「あ、羊飼いの人が来ました」ひとりジャックは何かを知り尽くしているように語る。
「ジャック!なんかお前が、だんだん神のように見えてきたな」
「本当ですね伸三さん」明彦も同様にジャックの見る目が変わった。

「いえいえ、違いますって。全部書かれている通りです。この後あと3人がプレゼントを持って来ますから」羊飼いという男たちはヨセフとマリアに抱かれた赤子を見ると嬉しそうに頭を下げて一緒に喜んでいた。

 しばらくすると馬に乗った人が、こちらに向かった。「でもジャックさん、4人のようですよ。最後の人の後ろに女性が乗っているようで」
「ええ?そんなバカな! ここでは東方からの賢者が3人来るはずなのに」
「ふん、神と思ってたが、でたらめやったな。今まで全部ハッタリと違うんか? え、ジャック! 俺はな、お前が」
「ああ、伸三さん!!」
馬の後ろに乗った女性からの大声が聞こえる。
「まさか三美子!」明彦は慌てて女性の方に向かうと確かに三美子が馬の上に載っていた。
「良かった、三美子さん無事だったんだ」
「明彦君!良かった。ジャックもいるのね」
 伸三とジャックも三美子の所に向かった。「良かったみんな無事で」
気が付けば4人とも涙が流れていた。

「あ、洞窟を観ましょう」ジャックは慌てて洞窟を見ると、3人の賢者がマリアが抱く赤子の前に、ひとりひとりがプレゼントを手渡している。
「あれが本当のクリスマス。イエス・キリストが生まれたときですよ」
「本当はサンタクロースとかじゃないのね」
「うん、凄い瞬間だ」
「ま、オレは信じへんけど、無事にヨセフとマリアの夫婦が子供産んだからなそれはええことや」
 4人はそういいながら、事の一部始終を眺めていた。

 最後の賢者が、プレゼントを手渡すのを見ると突然突風が吹く。あ、「前が見えないわ」「何でしょう、うぁあー」

 この後ヨセフとマリアが、ジャックたちを神のみ使いと信じて疑わなかったという。そのことは突然姿をくらました4人が知る由もなく。

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「あれ、ここは」明彦が目を覚ますと、元の世界? に戻っていた。
目の前には教会の礼拝堂になっている。
 ジャック、三美子、伸三の3人にも並んで前にうつ伏せになっていた。
「みなさん、無事に戻れたみたいですよ」と、明彦は3人を起こすと3人も顔を上げる。「あ、戻れました、これは神の御子の奇跡です」
「あれはいったいなんやったんや。服も元に戻ってるし」
「キャー戻れてる! よかった!」
「ここは礼拝堂です。静かにしてください」元の時代に戻って喜ぶ4人を注意したのは教会の牧師らしき人物。

「す・すみません」
「みなさん、私が礼拝堂に入ったときには、すでにうつ伏せになって真剣に神にお祈りをしておられましたね。素晴らしいことです」「え、あ。はあ」明彦が首をかしげながら返事をする。
 今夜はクリスマスのミサがあります。よろしければ、御一緒に神を賛美しながら御子の生誕をお祝いしませんか?」
「はい、お願いします」明彦が答えると、他の三人も何の抵抗もなく、うなづいた。

(おわり)


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シリーズ 日々掌編短編小説 337

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