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時空を超えたクリスマス(前編)

 クリスマスが近づく街の中を歩いている仲良し4人組。今いるのはそのうちの3人だ。「もうすぐクリスマスか、俺はまたクリぼっちということやな」不満そうに関西弁でつぶやくのは、最年長で最も背の低い伸三。横で優しく話しかけるのは紅一点で伸三より少し背が高い三美子である。「伸三さん、またひがんで、別にいいじゃないの。ぼっちは、ぼっち同士が集まってクリスマス楽しみましょうよ。ね、明彦くん」

三美子よりも少し背が高い明彦はそばで考え事していたので突然振られて慌てた。
「え!ああ、何の話?」
「お前また三美子の聞いてなかったんか! 俺はな、お前のそういうところが嫌いやいうているやろ!!」
「伸三さん、す・すみません」年長者・伸三に慌てて頭を下げる明彦。

「いいのよ、明彦君。ただクリスマスになったら、カップルで盛り上がる人ばかりだからって、伸三さんがひがんでいるだけなのよ。でも、それだけがクリスマスじゃない。私たち4人も楽しみましょうってことだけなの」
「そういうことか。クリスマスか…… でもあれって、本当は西洋のお祭りだよね。キリスト教の」そう言いながら明彦は腕を組む。

「ハハッハッハ!そうですよ、明彦さん。クリスマスはカップルが楽しむ日じゃありませんよ」
 突然目の前から歩いて声をかけてきたのは、父親がイギリス人で、母親が日本人という最も背の高いジャック。

「ジャック! そういえばあなたサンタクロース似合いそうね。クリスマスの主人公『サンタクロース』になってバイトしたら儲かったのに」
「三美子さん。サンタクロースはクリスマスの主人公じゃありません。主人公は、イエス・キリストです」

「あ、そうだね。そういえばジャックってクリスチャン?」明彦が話に割って入る。「一応そうです。親は教会に毎週行ってます。でも私は嫌いなので、行きません。だって教会にはオトシヨリしかいないからです」
「おい、ジャック、年寄りとか、いうな! 俺もこの中じゃ年寄りやろ。
俺わな!お前が半分外国人らしい、そういうドライな考えが嫌いなんじゃ!!」

「おぅ 伸三さん。相変わらず怖いですね」明彦と違い、ジャックは年上の伸三相手でもひるまない。
「まず無意味なケンカはやめましょう。それ言っちゃ、みなさんキリスト教のイエスキリストの誕生を祝う日である、クリスマスを間違って祝っていませんか?」

 ジャックの一言で、伸三を含めた3人は、しばらく静かになる。数秒後に明彦が口を開いた。
「ジャック、でもなんでキリスト教の教祖の様な人が生まれたという日を、世界中で祝うのだろう」
「それは、よくわかりませんが、それだけ神は偉大という事でしょう。でもみんな解っていませんね。私は一応、嫌々で聖書読まされたから、そのあたりは詳しいですよ!」
「ジャックだからなんやねん。さっきから自慢げに難しい話を! 俺はな、あれ??」
 突然伸三が穴に落ちたように消える。「あ、伸三さん」
「マンホール、あ!」「三美子さんああ……。 え?」
「ジャックも? どうなってるの?? う!」

伸三、三美子、ジャック、明彦は突然目の前に現れた穴の中に落ちてしまい、そのまま記憶を失った。

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「あれ、ここはどこ?」みんなはいったい?三美子が目覚めたのは、見たこともなく、周りに何もない荒野である。どうやら日が沈みかけようとしたのがわかるが、三美子は夢だと思いつつも、感覚がはっきりしている。
「いったいこれってええ、何、え?何でこんな服……。 これ、ダサイを通り越して、汚い布みたい」
 なぜか服装まで今までと着ているものが変わっていた三美子は、状況がわかるにつれ、徐々に不安な気持ちが包み込み始めていた。
「あれ、みんなは? 明彦君! 伸三さん! ジャーック!!」

 三美子は大声でみんなを叫ぶが、反応がない、三美子は、不安から恐怖な気持ちに襲われ、その場でしゃがみこむ。

 涙を出したくても、その気力すら起きない。果たしてどのくらいの時間が経ったのか?突然男の声が聞こえる。「ん?あ、みんな来てくれた??」
 三美子は慌てて目を挙げると、そこには、見知らぬ男が3人いた。「だ・誰?」三美子は思わず身構える。
 3人の大人は、野蛮な雰囲気はなく、むしろ相当な賢者の様な知的なオーラを放っていた。

心配そうな表情で三美子を見ているかと思えば、その中のひとりが声を掛ける。「ご婦人。どうなさいました」
 見た目は異国人だが、言葉が普通に通じる。三美子は、他にアテがない中で、やさしく声を掛ける人がいたので、慌てながら声を出す。
「た、助けてください。わ・わたし突然ここに迷い込んでしまって、よくわからないの」と、半ば鳴きながら訴える。
 別のひとりが声を出す。「よくわかりませんが、何か大変そうですね。実はこのあたりには何もありません。ご婦人ひとりでは心配でしょう。よろしければ町まで同行しませんか?」
「あなたたちは一体?」

「私たちは東方から来ました。実はユダヤ人の王がお生まれになる星をみたので、その王の元に向かう途中なのです」
「......」
 三美子は、彼らの行っていることが全く理解できない。とはいえ、ここで1人になっても途方に暮れるのみ。
「あ、あのう、私よくわからないのですが、取りあえず皆さんについていきます」と答える。
「わかりました。では一緒に行きましょう。私の名前はメルキオールといいます」

 最初に三美子に声をかけた男が自己紹介をすると、2番目に声をかけた男が「私はバルタザール」「私はカスパールです。あなたのお名前は?」三美子は、カスパールと名乗った、最後に声をかけた男に対して、
「わ・私は三美子といいます。よろしくお願いします」といって軽く頭を下げる。
「では、参りましょう。詳しいことは歩きながら」と、バルタザールにうながされ、3人の賢者と三美子はユダヤ人の王を求めて歩きはじめた。

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「いてて、ここは? あれ、みんなはどこだろう」
 別の場所では明彦が三美子同様に、自分の今所や置かれた状況が理解できず周りを見渡す。明彦も見たことない服装に変わっているが、遠くに見える若い娘の服装に近いのがわかる。明彦がしばらく娘を見ていると悲しそうな表情をしているのが見える。


「何人だろう?言葉は通じるかどうかわからないけど手掛かりになる。声をかけてみよう」
 そういうと明彦は娘に声を掛けてみた。娘は振り向き「あなたは?見知らぬ人、また神様の使い??」
「え?いや、あ、ち、違います。突然このよくわからないところに迷い込んで困っているのです」
 明彦は慌てて言い訳じみたいい方で取り繕う。
「では、なぜここに?」
「それは僕もよくわからなくて...」

 明彦は余計な事で、相手に不安感を与えてはいけないと、話題を変える。「それより、あなたはなぜ泣いているのですか? こんな天気が良い晴れた日に」すると娘は悲しそうな表情のまま。
「実は私は、まだ男の人を知らないのに、子供を身ごもったのです」
「ええ?」明彦はまだ子供のようにも見える娘から突飛もないことを聞いて目を大きく見開いた。
「そうですよね。信じてもらえないのは仕方がありません。でも神様の使いからお告げがあり、実際に中に赤ちゃんがいるのがわかるのです」
「......」


 明彦は娘の言っていることが信用できなかった。だが、ここで否定するとかえって警戒されると思って、わざと理解できる振りをする。
「神様のお告げは本当だと思います」
「ホントですか!実は私には婚約者がいるのですが、彼にどう説明しようか困っているのです。
 でもあなたは、私のことを信じてくれました。お願いします。どうしてよいのかわからないので知恵を貸してください。このままでは私は姦淫(かんいん)を犯したといわれて殺されてしまいます」

『殺される』ということを聞いた明彦。良くわからないまま、この娘に何か手助けをするべきだと思った。そうすれば、生き別れになった他の仲間といずれ会えるきっかけができると思ったからだ。
「わ・わかりました。僕で良ければ協力します。ではまず自己紹介を、僕は明彦といいます」
「私はマリアです」
こうしてマリアを名乗る娘に、明彦はことの成り行きで協力することになった。

 一方明彦のいる場所の近くには、残りの2人が息を吹き返した。
「ん?どこやここ!ジャック起きろ!! 三美子と明彦はどこ行ったんや」
「ああ、伸三さん、いい天気ですね」
「アホなこと言うな! そんなこと言ってる場合か! 大体ここどこやねん お前なんやその恰好は?コスプレしとるんか!!」
「さあ、私もわかりません。というより伸三さんもまるでコスプレイヤーですね」
「お前!なめとんか!! 俺はな、真剣に困っているときにそんなことを言う、お前のそういうの嫌いやねん。ええ加減にせえよ」というと、伸三はジャックの胸ぐらをつかむ。瞬時に顔色が変わるジャック。

 すると「君たち喧嘩はやめなさい」と見知らぬ男の声が聞こえた。
2人が振り向くと、「君たちは旅人? 見慣れぬ顔だな」と、男が声をかけてきた。
「あんたは?ここの人か、一体ここどこや?」「伸三さん、もっとわかりやすく」と、ジャックが伸三を制止する。
「改めて、私はジャック、こちらは伸三といいます。実は私たちは気が付いたら、突然ここにいました。4人で行動してたのですが、あと2人が行方不明なのです」
ジャックの説明に頷く男。「よくわかりませんが、困っているようですね。取りあえず私の家に来ませんか? 行方不明の2人は、町のみんなに声をかけて、みんなで探しましょう」
「ホンマか?あんたやさしいなあ。お願いするわ」
「ありがとうございます。お兄さんの名前は?」

 ジャックの質問に、男は胸を張ると「私はヨセフといいます。このナザレの町で大工をしているのですが、間もなく結婚するのです。今はその準備で忙しいのですが、数日前から彼女が何故かこっちに来てくれないのです。
 ちょっとさびしかったので、気が紛れます」


「そりゃ寂しいなぁ。あんたケンカしたんか」「いえ、そういうわけではないのですが、だから訳が分からないのです」「ヨセフさん、詳しくは家で聞きましょう」ジャックに促されるようにして、伸三とふたりヨセフという大工についていった。

 ヨセフの家についた伸三とジャックはそのまま家に泊まった。その際ヨセフからいろいろ話を聞いた。婚約者のマリアが、最近様子が暗いという。
 それだけでなく。あまり会えなくなっていることを延々と話していた。ふたりの仲がそれまで全く悪くもなかっただけに、きっかけがわからい。
彼女に大きな「隠し事」がないか悩んでいるのだとういう。

 あまりその話に興味がなく、早々と眠ってしまった伸三。対してジャックはヨセフの話を興味深く聞いていた。
やがてジャックも横になる。しばらくするとどこかで似たようなことを聞いたことを思い出す。「もしや!」何かを思い出したジャックは起き上がり、ヨセフに質問した。
「ヨセフさん。起きてますか?」「あ、はい」
「すみません、最近不思議な夢とか見ませんか? その子を、うけいれなさいとか」


「!」
 ジャックの話にそれまで横になっていたヨセフが慌てて体を起きだす。
「あなたはなぜそれを? そうです。私は最近夢を見ます。神様の使いというのが来て、そういうことをいいます。
 しかしまだ婚約段階で、マリアとは何の関係もありません。だからいきなり『その子』とか言われて、不思議な夢だと思っていました。まさかマリアが別の男と姦淫(かんいん)をした? それで俺を避けてたのか!」

 ヨセフの語気に怒りが満ちるのわかる。ジャックは立ち上がって、ヨセフをなだめた。
「ヨセフさん、お気持ちわかりまます。でも聞いてください。それはマリアさんが本当に身ごもっています。でも、彼女は本当に男を知りません。それは神の子です。だから彼女も暗くなって悩んでいるんです」
「神の子?」
「そうです。だから男を知らなくても子供ができたのですよ。それは神様の御力です」

「でも、まさかそんなことが!」
「では、あなたたちは、神様を信じていないのですか? その子供はすごい子供です。安心して産ませてあげてください」


 ジャックが自信をもってそのようなことを、言い切るので、ヨセフは驚きから少し安堵の表情に変わる。
「やはり神様は、本当におられるのか。昔からラビ(ユダヤ教の先生)の教えでは、昔の人は神様とのかかわりが深かったと聞いたことがあります。そして私の先祖ダビデもその神様とのやり取りで我々の王となったとか」
「そうですよ、ヨセフさん。今日は遅いからもう寝ましょう。明日マリアの元に私たちも同行します」

 ヨセフは頷いて横になると、ジャックは確信を持ちながら頭の中でつぶやく。「これは聖書の世界そのものだ。ここは2000年前のイスラエルのナザレということか。しかしなぜこんなところに? いや、それより! あのイエス・キリストの生誕に、立ち会えるのかも知れない」



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シリーズ 日々掌編短編小説 336

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