くま子

小説を書いています。

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【短編小説】しらふな夜

   ウーロン茶が入ったグラスを掴むと、指先が冷たく濡れた。テーブルの上に水滴の輪っかができているのを、近くのおしぼりで何気なく拭く。 「でねー、そんでそのとき、みうらさんがねえ?」  横に座る有芽が、聞いて聞いて、と子供のように私のセーターを引っ張る。 「みうらさんが、こうやって肩抱いてきてー、こうやって!」  がばっと勢いよく肩を引き寄せられて、「うわっ」と体勢を崩した。ふわふわした状態の有芽がそんな私を支えられるわけもなく、二人してぐだぐだと倒れこむ。掘りごた

    • 【短編小説】放課後

       新校舎の三階から階段を駆け下り、一階の渡り廊下を抜けて旧校舎の四階へ。放課後の学校は自由な感じがする。四角い教室とチャイムで区切られた均整が緩むから。静かな校舎とざわめく校庭。合唱部の声出しが聞こえる。ランニングをしているのはサッカー部か野球部か。それらが窓一枚向こう側にあり、私はその内側で、掃除したばかりの廊下をつま先で弾く。  なんとも愚かしいことに教室のロッカーに台本を忘れてきてしまった。取ってくるわ、と部長に声をかけて練習場所の多目的室を飛び出したものの、旧校舎遠す

      • 【短編小説】踏切

         行く先では踏切の遮断機が降りる音がする。  夜十時過ぎの住宅街を歩く。一軒一軒の建物の間隔が広いこの道は、両脇に街灯がポツポツと並んではいるものの、その明かりはなんとなく頼りない。一本道。周りは小さな畑や一軒家がほとんどで、少し先のコンビニの明かりがやたら目立つ。後方には、私たちがさっきまで働いていたカフェがある。振り向くと、暗くて全体のようすはよく分からないけれど、窓から明かりが漏れているのが見えた。社員さんたちはまだ店に残っているらしい。  今日、ラストまで残ってい

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