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【11/9の日記】人生で初めて我妻俊樹先生にお会いしたよ

 恐ろしい事が起こった。歌人にして怪談作家の我妻俊樹先生がトークイベントをやるというのである。同じく歌人の平岡直子先生と我妻先生が対談形式の短歌入門書を出版し、その記念イベントらしい。我妻先生と言えば写真もない、イベントにも出ない、ツイートや日記も難解という謎だらけの人物である。それがトークライブをやるというのだ。行かぬ理由がどこにもない。
 入場無料で、オープンスペースで行われるイベントだったので予約はしてもしなくても、という感じだったが、念の為予約したところこれが大正解。あっという間に立ち見の予約まで埋まってしまった。即日だったように記憶している。対談相手である平岡直子先生の人気もあろうが、やはり「我妻先生がついに表舞台に?!」という衝撃が大きかったのではないか。
 しかし、心配事もあった。普段からnoteやX(旧Twitter)で投稿される我妻先生の短歌論が難解で(しかし恰好つけて難しい言い回しをしているだけの連中とは違い、中身が有って、かつ我妻先生なりの基準に沿って理由のある言葉遣いをしているのだと思う)、いつもアホ面下げて「ほえー、頭よさそう……かっけー」と呟くばかりの自分には、イベント中の我妻先生の発言が一言も理解できない可能性があるのだ。参加しても無駄かもしれないと思ったが、それでもやはり行くことにした。当たって砕けろ精神である。

 イベントに参加してまず驚いたのは、我妻先生がオシャレだったことである。どれくらいオシャレかというと、柄シャツを着ているのにスマートなのである。我妻先生はご自身が貧乏であると公言しておられるが、金がない事なんぞはセンスでカバーすれば良い、という見本みたいなものであった。
 そしてトークが始まって更に驚いた事には、隙が無いのである。喋るべきテーマを素早く確認して必要なトークを展開し、ぽわぽわとした平岡先生のトークを取りまとめる姿は実にテキパキと手際良く、隙がなさすぎて近寄りがたい程である。我妻先生に対して天然な印象を抱いていた自分にはかなりの衝撃であった。

 なお、トークの内容は短歌論というより「どのような経緯でこの本が企画されたか」といったような事だったので、自分の知能レベルでも理解することができた。一安心である。微笑ましいくすくす笑いが起きるような場面もあり、警戒していた程堅苦しいトークではなかった。平岡直子先生のぽわぽわしたお人柄のせいもあったかと思う。とても楽しいトークイベントだった。

 悔やまれるのは、書籍にサインをいただいた際、緊張しすぎて全く言葉が出て来なかった事である。かろうじて、以前我妻先生の短歌と小説で朗読動画を作らせて戴いた事へのお礼は言えた。後はもう頭が真っ白になって何を言えば良いのかもわからなくなり、「大好きです」とだけ叫んで逃げ帰った。平岡先生は実に話しやすい雰囲気で、人見知りの自分も随分と気楽に話しかける事が出来た。自慢ではないが自分の人見知り度合いは相当なものなので、これはもう坂本龍馬級のコミュ力である。終始にこにこと笑顔で対応してくださり、「これはモテるな……」と密かに思った。

 なお、調子に乗って意気揚々と新刊を読み始めたが、我妻先生の短歌論はやはり難解であった。理解できるかどうかはわからないが、自分なりに読んでみようと思う。短歌は作らなくても、日本語で文章を書く者ならば絶対に必要な内容のはずだから。

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