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1954年W杯ドイツ優勝の影で何が起こっていたのか:映画「マリア・ブラウンの結婚」

あなたは引力をもっていますか? なにかに夢中になっているとき、偶然その”なにか”が自分に近寄ってくる、みたいな、ある現象が別のある現象と共鳴する感じ、自分の気になるものを磁石で引き寄せてくるイメージなのだ。

その引き寄せエナジーを先日発揮してしまった。

アディダスvsプーマ もうひとつの代理戦争


前日から読み始めた文庫本に、敗戦国として打ち砕かれたドイツ人が、第二次世界大戦後初めて全国民が高揚した決勝戦が紹介されていた。
優勝候補ハンガリー2得点、善戦したドイツ2得点、
雨上がりのぬかるんだピッチで、試合終了まであと6分のタイミング、

そこでボールはヘルムート・ラーン(独)の足元に。
「深いシュートになります。ラーン、シュート。
 ゴール、ゴール、ゴール!!」
「ドイツが三対二でリード、終了まであと五分?
 どうなってるんだ、正気じゃいられないよ」

第三章 訣別

ルドルフ・ダスラーvsアドルフ・ダスラー、スポーツシューズ工場の兄弟がたもとを分かつ、大きなきっかけとなったのが前述のワールドカップ決勝だった。かたやプーマを興した兄は社交的で営業向きだった一方、アディダスを興した弟は技術畑で、雨に強いスパイクシューズをドイツのサッカー選手に提供し、みごと優勝に導いたのだった。

スポーツはプロの時代。オリンピックはスポンサーの時代へ

近代スポーツはただのスポーツではなくなった。
スター選手発掘と札束の入った封筒、スポンサー契約とオリジナルシューズ、広告代理店がオリンピックのチケットで手数料を儲ける時代、スポーツはアスリートのものではなく、投資家と実業家が暗躍するビジネスになってしまった。
ダスラー家の親世代・子世代どおしの軋轢、海外展開とくに互いに牙をむきあった隣国フランスとは、いい関係をつなぐのは困難だっただろう。2000年代になっても延々と続く、シューズやウェアをめぐっての攻防が面白かった。


ライナー・ヴェルナー、ファスビンダー傑作選

オゾン監督の「苦い涙」を観て以来、気になっていたドイツの映画監督。
その上、今年2月「きっとうまくいきますように」にもハンナ・シグラが助演しており、傑作選三作品なら迷わずハンナ・シグラの代表作「マリア・ブラウンの結婚」しかない。

「マリア・ブラウンの結婚」時代背景


20世紀の半ばは依然として、女性は女性らしくあるべき、の制約があった。
戦争未亡人となったマリアは生きるため、食いつなぐため、米軍黒人兵士と関係を持つが、それは夫との愛とは違うという。好きだから寝る、関係を密にするために寝る、だが愛とはちがう。では、愛とは何か。
敵国だった男にも物おじせず、美しく機転が利き逞しく生きる姿に惚れ惚れする。

1954年7月ワールドカップ スイス大会 決勝戦
前述のサッカー ハンガリーvsドイツ決勝戦残り6分、とラジオ放送が流れる。アナウンサーの声は小説の引用と一字一句違わない。映画を見ている観客は、鳥肌がたった私も含め、このあとドイツが優勝する歴史を全員が知っている。
マリアの勝ち誇った微笑み。すべての幸福を手に入れたはずだった。
ラストは筆致しがたい。ぜひひとりの女性の喜怒哀楽を堪能ください。

マリア・ブラウンの結婚
ドイツ 1978年
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
出演:ハンナ・シグラ、クラウス・レーヴィッチュ、ギゼラ・ウーレン
字幕:渋谷哲也

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