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哀れなるものたち 俺らは何に縛られてるの?


“欧州のはじまりゆうたら ギリシャどすえ。
神話やら 医術やら 芸術やら
哲学みたいなもんは 
何千年も前からウチらの暮らしに 
根づいてきました よってに 
こないな画風と物語になったんどす。
もしも 鼻についたら堪忍しておくれやす”

    ..我が妄想.. (なぜか京都弁)

そんな監督のつぶやきが聞こえてきそうな一大絵巻だった。
博物館をぐるりと一周し、はぁぁもうお腹いっぱい 満足至福の帰り道にも似た感覚だ。もう少し詳しく読み解くと…

気持ち悪い、セックスシーンがエグイ、グロテスク、の感想ではなく、
人間の本質とはなにか。無償の愛ってあるのだろうか。
フェミニズムあるいは男らしさってなんだろう。
あなたを縛るものは何?何の制約もなく自由に生きられたなら、魂は解放されるの?
と、考えさせられる内容だった。

※ここから先はネタバレを含みます。未見の方はご注意ください


人間は産まれた時から欲だらけ


まず食欲排泄欲睡眠欲、次に学習欲、そして性欲
赤ちゃんは空腹でぎゃん泣きし、眠れなくともわぁわぁ泣く。物心がつくと「なんで?どうして?」の応酬で世界のすべてを知りたい要求で体あたりでぶつかってくる。思春期にはホルモンバランスにより、性が目覚める。
その成長過程が一斉に、同時進行で、ベラの身体におこるのだからコントロールできないのは当然だろう。
ベラが、保護された屋敷から殻を破って社会に出る時、まだ知能はローティーン位だろうか。「⚫︎⚫︎したい。好き」「イヤ!嫌い」の二者択一しか、ベラのオツムにはない。
やがて、白黒の中間がわかり、大人のウソと本音を知り、絶頂の快感を知り、音楽を知り、それでも限度と節度がないため、エスコート役のダンカンは大いに振り回される。しかも、ダンカンはベラを自分一人のものにしたいため、いろいろ手を尽くすのだが見事に裏目となり、彼の独占欲は打ち砕かれてしまう。
そのうえ、最後に登場する(元)夫の支配欲。これはもう許せないレベルだった。

哀れなるもの とは誰か?


poor:貧しい、可哀そう なのはベラか?

No!いいえ。
私は、身分やプライドや世間体に縛られた中世の男たち・女たち、
しいては人間たちが ”poor” だ と読みとった。
「どうして女が男を選んではいけないの?」
娼館に並び、男たちの指名を待つベラの言葉とおり、何にも縛られないベラの心や肉体はなんとも大胆で自由だ。既成概念を破り、倫理や制度からの解放、気持ちいいほど突き抜けている!

まるで絵画、中世芸術が百花繚乱



撮影と美術がすばらしい

  1. 魚眼レンズのいびつな左右、円形窓からのぞき、陰影深いモノクローム。様々な撮り方で、過去か近未来か惑わせられる

  2. ポルトガルが最先端だったころの街の風景、飛行船やパステルカラーの色調が幻想的で美しい

  3. ゴッドウィル屋敷の壁面装飾や美術品、階段踊り場、豪華客船にうっとり

  4. ベラのドレス!!!これでもかと膨らませた両袖のパフ、すごいデコラティブな上半身に反し、下半身はノーパンティというのも可笑しかった

    もちろん俳優陣も良かった。ノーメイク・ノーブラで挑んだエマ・ストーンの演技を筆頭に、保護者役のウィリアム・デフォーも素晴らしい。さらに、社会の仕組みを諭し、ベラに読書をすすめる黒い肌の男性と老婦人ハンナ・シグラが良かった。この女優さん、しっかり全体を引き締めて好き。


    「哀れなるものたち」

    気持ち悪い、セックスシーンがエグイ、グロテスク、の感想ではなく、
    人間の本質とはなにか、フェミニズムや男らしさってなんだろう
    無償の愛ってあるのだろうか、
    と考えさせられる内容だった。

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演: エマ・ストーン、マーク・ラファエロ、ウィリアム・デフォー

2023年 イギリス

サーチライトのパンフレットがいいので、
買いたかったが、完売だった(涙;;


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