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尋ね人の時間、共喰い、ひとり日和:芥川賞ぜんぶ


男性は、雄は、どうして、こうも性欲のことで昇天したり凹んだりするのか。真ん中におちんちんが生えてるせいなのか。十代のセックスに興味津々の頃ならいざ知らず、40代になっても枯れてしまっても、性欲から離れられない。そのことがまず悲しいし、私は女性だからどうも理解しがたい。
そんな三冊の小説の感想をまとめてみた。


尋ね人の時間

4歳で父を亡くし、その数年後に妹も亡くしてしまった神谷の心の底に、生きることのはかなさが、しまいこまれている。
いまはそこにいない、けれど、以前はそばにいた気配を、乗りそこねたバスをくやむように、神谷はただぼんやりと思い出している。自分の尋ね人はどこにいるのか。

もうできないんだよ

容姿端麗、ナイスバディの駆け出しのモデル兼女子大生に、『私を抱いてください』と言われ歓喜するどころか、肩を落とす男。まるで人生の終末期のような、あきらめの境地に、共感できないが同情はする。
そして、私の気に入ったシーンは元妻が一人娘の行く末を案ずるところ。絶望のとらえ方、たしかにその通りである。

「たった五歳で、もう大人みたい。いいえ、それ以上だわ。あの子、ときどき老人みたいな表情をするときがあるわ」
「ほう」
「何ていうかな....、たった一人で、静かに絶望しているとでもいうのかしら」
子供は未来がありすぎて静かに絶望する。老人は過去があり過ぎて静かに絶望する。ちゃんとバランスは取れている」

星の子供

#尋ね人の時間 #新井満
45/113冊
第99回 1988年 芥川賞

共喰い

こちらの主人公・遠馬はまさに青春真っただ中の17歳男子。
母は父の暴力に耐えかねて家から離れ、遠馬は父とその情婦とともに暮らすなかで父がセックスの時に女を殴るところを盗み見てしまった。遠馬自身は一歳年上の千種とのセックスに明け暮れる毎日であり、欲望のはけ口なのか、千種に心底ほれているのか、それすらもあいまいで、ただ自分は父とは違う、女を殴ったりはしない、と律する一方で暴力への誘惑と血の濃さに抗えずに苦しんでいた。
土砂降りの祭りの夜、神社で千草は遠馬を待っていたところ...

あとがきに著者と瀬戸内寂聴さんの対談を掲載

#共喰い #田中慎弥
46/113冊
第146回 2011年 芥川賞

ひとり日和

吟子さん(70代)家に居候することになった20歳の知寿。今風にいうなら『ホームシェア』をする世代間ギャップ二人の春夏秋冬を、知寿の成長をとおして描いた小説。
どこかジブリの『千と千尋の神隠し』に似ている、と思った。もちろん知寿は小学生ではないのだから、夜バイトもするしボーイフレンドもできるし、セックスだって登場する。しかし、自分のことだけでそれ以外は薄い感情しかなかった20歳が、吟子さんに温かい気持ちがわき、相手から頼られるほどの存在になっていく。ちょっとええ話だった。

#ひとり日和 #青山七恵
47/113冊
第136回 芥川賞 2006年

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