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Today`s songs 「Soldiers/BONNIE PINK」

急いで階段を駆け下りる。

普段走らないので、息がきれる。

ふと「あまり走ってはいけないのではないか」と自分の体のことが頭によぎる。

スピードを落として、目的地を探す。

階段を駆け下りた先の、帰宅時間のピークで混雑しているサラリーマンの人ごみをかき分けて、タクシーに飛び乗る。

「すみません・・武道館までお願いします。」


私がBONNIE PINKの武道館LIVEに行ったのは、第1子の妊娠が発覚した頃だった。

私はその日、仕事だった。

夫はその頃、東京に勤めていたので、武道館へは現地集合となっていた。

私を乗せたタクシーは夕焼けに染められた東京の街並みを抜けていく。

私はあせる気持ちを落ち着かせながら、窓の外の光に反射したビルや車を眺めていた。

案の定、LIVEの定刻の時間には遅れてしまった。

武道館に入り、席に着くと、隣に夫がいた。

「まだ始まったばかりだよ」というが、始まったばかりではなかった。

夫なりのやさしさなのかもしれない。暗がりではっきりとわからないが、私が到着して安心した顔をしていた。

こどもが生まれるとはどういうことなんだろう。

私はLIVEに集中したかったが、なぜか集中できなかった。

生まれたらどうなるんだろう。

夫は子どもを望んでいた。妊娠が発覚した時には戸惑いと喜びと驚きと様々な感情が入り乱れて不思議な表情をしていた。

私もそれを見て嬉しかった。

これからの日々は今までと違ったものになることは明白な事実であった。

私はそれを頭で理解していても、事実としてうまく受け止めることができていなかった。

私がこれから起こることに対しての気持ちを表現するならば「真っ白」だった。そこには何もなかった。

今、あるのはBONNIE PINKのやさしい歌声に包まれたこの空間だけだ。

私はおなかにいる子と夫の3人で、そのやさしい空間にいた事だけは忘れないようにしようと思いながら、LIVEを聴いていた。


この歌は久々に聴いて、今の自分のでこぼこにうまく寄り添ってくれている気がした。音楽はカタチがないはずなのに、フィットする感覚があらわれるというのは、大変不可思議だなと思う。

僕はまた旅立って行くよ
君が見ていてくれる限りずっと
戦い続けてゆくのだろう
例え帰り道が閉ざされても
生まれた僕らは
生まれたas a soldier
泣いて泣いて
勝って敗れて
もっと自分を抱きしめて
独り独り
立って立ち上がって
風に向かって
We're soldiers
さぁついておいで僕の後を
信じるものが無くなったのなら
強くなるしかないじゃないか
寒い夜も燃やしてしまうほど
Now 進めイバラの道を進めよ
as a soldiers


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