見出し画像

【企画参加】編み物師匠のことりさんと私

こちらの企画に参加します。

私の、編み物に関する思い出話を今日はさせて下さい。

あれはまだ……私が前の職場に勤めていた時のお話です。

そこは、介護保険を利用できる方が入所できる高齢者向けの施設でした。

私は作業療法士という名前の……いわゆるリハビリテーション職として働いておりました。ある日のこと、私は一人のかわいらしい小さなおばあちゃんの担当になりました。

そのおばあちゃんは自宅で転倒してしまい、足の付け根の骨を骨折してしまったので、同じ法人の病院で手術を受けて、その後私たちの施設に入所するはこびとなりました。

名前を仮に「ことりさん」とします。

ことりさんは病院で懸命にリハビリテーションに励んでいましたが、以前のように歩くことはできませんでした。
それどころか一人で立つ事もままならず、車椅子を使用して施設内を過ごされていました。

私はことりさんと一緒に、平行棒という手すりが二本並んだ練習器具で、彼女が一人で立てるように練習を日々重ねていました。

彼女は100歳近い年齢でしたが、頭はしっかりとされており笑顔が素敵な女性でした。

彼女自身の意欲はあったのですが、血圧が低いことや、足の痛みがあること、心臓が丈夫ではないため疲れやすいこと、足の変形が強いことなどの悪条件が重なり、なかなか思うようにリハビリテーションが進みませんでした。

そんな中で、ことりさんは次第にリハビリテーションをお休みされることが増えてきました。

毎日熱心に面会に通う娘さん(この時はまだ感染症のかの字もないくらいの時の話です)は、そんなお母さんを大変心配しておりました。

私の顔をみるたびに声をかけて下さり、自分に何ができるのか、母親が元気を取り戻すためにはどうしたらよいのかを相談して下さいました。

私はリハを拒否することりさんに対してどのようにアプローチをはかるか非常に悩んでおりました。

けれども…..彼女に断られたからといって、そこで引き下がってしまうのは違うと思いました。
私はことりさんのお部屋に通い続けて、たとえリハを断られたとしても彼女と何でもいいからお話をすることとしました。

ことりさんは、最初はリハを断ったひけめもあり、私と話すことに対してやや申し訳なさをにじませていましたが、私が運動に対してそれほど強制的に進めてこない様子を見ると、少しずついろいろなお話をして下さるようになりました。

若い頃、苦労した事。働いた事。お金がなかった事。着る物がなくて全部手編みで服を編んだ事…..。


「編み物やりませんか?」


私は自分が思うよりも早く、口からこんなことばが出てきました。


ことりさんは大変驚いた顔をしていました。「そんな事、ここでできるんかい?」

「おうちに道具があるんですよね?」「私、編み物って恥ずかしいことに今まで一度もやったことなくて……」

「ことりさんに教えてもらいたいんです。」

ことりさんは私の勢いに圧倒されていましたが、「もしできるならおたくに教えてあげましょう。」「さっそく娘に話して持ってきてもらわないと」と久しく見られなかった笑顔が見られました。

私もさっそく娘さんにお話をして、自宅からことりさん愛用の編み物グッズを持参して頂く手配をしました。娘さんは自分のやるべきことができたことに対して大変喜びを見せながら、たくさんの毛糸と編み針をベッドサイドに持ってきて下さいました。


色とりどりのあふれんばかりの毛糸たち。


娘さんがはりきってたくさん持ってきてくださったので、ベッドの上はまるで毛糸の海のようでした。

私たちは毛糸に囲まれながら、編み物をすることになりました。
ことりさんは、熱心にかぎ針の編み物の方法を教えてくれました。教え方はとてもやさしくて、ていねいで、わからない時は何度も根気よく繰り返し伝え続けてくれました。

私は毎週ことりさんのお部屋に出向くことが楽しくなりました。
それまではリハを断られることについて、気持ち的に心苦しいものがありましたが、そんな気持ちはどこかへ過ぎ去ってしまいました。

ことりさんも私が来るのを待っていてくれて「良く来たね、この前の続きだね。」と待ち望んでくれている様子がみてとれました。

そしてことりさんは私との時間外も熱心に編み物を続けました。

彼女はたくさんのエコたわしを作り、介護職員や他の利用者さんに配るようになりました。

介護職員の中でも話題になり「私はこの色をもらったよ」「私はこんな大きさのやつ」とみんなことりさんの作品を1人1個は持っているような状態になりました。それだけの数を彼女は熱心に作るようになったのです。以前のぼんやりとしていた彼女からは想像もつかない光景でした。

私はロッカールームなどでそんな話題を微笑ましく聞いておりました。

そして、ことりさんはまた少しずつ立つ練習を再開して下さるようになりました。

以前のように毎日はできなかったのですが(入所後の集中リハの期限がすぎていたのもあります)それでもまた少しながらでも前向きに取り組まれていることりさんを見て、私は彼女から逆にたくさんの元気をもらえました。

編み物

というのは、今の高齢者の方たちの中では、女性では嗜まれている方が多く、それぞれの歴史につながります。それは家族をつなぐものであったり、苦労の象徴であったり、寒さをしのぐものでもあります。

私は初めての編み物師匠のことりさんからは、初歩的な技術しか学ぶことができませんでしたが、昨年、noterさんのぼたんさんと出会い、彼女の作品とも出会い、再びかぎ針を持って、編み物を教わる機会をもらいました。

(zoomを使用して編み物教室をぼたんさんが開催してくれたのです)

教わったのはケア帽子。

私は教わったことを活かして、その時担当していた精神科の利用者さんとケア帽子を作ることにしました。

わからないところはぼたんさんがあげてくれたyoutubeの編み物の動画を見ながら、2人でわいわいと彼女の自宅のこたつに潜り込みながら週1回のリハをお互い楽しんでいました。

彼女が帽子を完成させる前に、リハは卒業となりました。彼女の精神状態や生活はかなり上向きに安定し、めでたく終了のはこびとなったのです。


つい先日。彼女のご家族からご連絡を頂きました。それは写真付きのメールでした。

「母は元気に過ごしております。くまさんと作り途中だった帽子も、あれからコツコツと作り上げて無事完成しました。」

写真にはご家族と栗拾いに出かけている元気な彼女の姿と、頭の上の黄色いケア帽子が写されていました。

想いは繋がる。

想いは編み込まれる。

一つの想いは編み物を経て、たくさんの広がりを見せます。

プレゼントする人

プレゼントされる人

みんながあたたかくなるのは体だけではありません。想いが心をあたためます。

私も先日ぼたんさんから三角形のきれいなショールを頂きました。

色がとても綺麗なんです。虹みたいですね。


いそいそと地元のお祭りにでかける私(撮影は夫)


秋の終わりのやわらかい日差しの中で、私はショールのあたたかさや、手触りを楽しませてもらいました。

編み物は日常に溶け込んでいて、特に手編みのものは誰かの想いが込められています。

今日はたくさんの方が編み物に関する投稿をしてくださると思います。

気づいたものは順次マガジンに収めるので、ぜひ他の方の編み物にまつわる物語も楽しんで下さい。


参加者や希望者の中から、SMILE SWITCHからの素敵なプレゼントが当たるかもしれません。

これだよー。コンパクトな膝掛けです。


投稿は本日中なら受け付けております。気が向いた方、興味が湧いた方はぜひ今からでも遅くはないので投稿してみて下さい。皆様の参加をお待ちしております。


※追記です:記事投稿をせずにプレゼントの抽選だけご希望される方は、11/27(日)までに企画募集記事のコメント欄や、私のこの記事のコメント欄に「プレゼント希望」の旨を書いてください。よろしくお願いしまーす!



サポートは読んでくれただけで充分です。あなたの資源はぜひ他のことにお使い下さい。それでもいただけるのであれば、私も他の方に渡していきたいです。