くまのぬくぬく日記⑨
2月16日と17日の日記
【はじらい】
ある高齢の女性の利用者さんとお話をする。
彼女は表情をあまり変えずに淡々とお話されるタイプなので、一見クールな印象を人に与えるが、実際は繊細でユーモアな一面を持つ。
この日は、先日起きた事件を少し興奮しながら話された。
友人が訪ねて来て、こたつでお話をしていたそうだ。しばらくすると友人が「頭が痛い!」と苦しみだし、嘔吐した。
あまりにおかしい状況だし、意識も曖昧になってきたので、救急車を呼んだ。
搬送後にくも膜下出血であったことが判明。発症から迅速に搬送されたため、ご友人は大きな後遺症は今の所ないとのこと。
私は「それは〇〇さん(利用者さんのお名前)がそばにいて、すぐ発見してくれて、病院に繋がったのだから、あなたは命の恩人だと思います」と伝えた。
彼女は「救急車がうちに来たから『〇〇さんまた何かやらかしたな(彼女は転倒して骨折した時に救急車を呼んでいるのでそのことを示している)』と、ご近所さんに思われてんだろうなと思ったけど」
とくすくすと笑いながら自虐的な話をしたあとに
「いやね、考えちゃって」
と真剣な顔をした。
瞳はここではない遠くを見つめている。
私は彼女が何を考えてしまったのか想像がついた。
それは自分の今後のこと。
「今後私の体が動かなくなってしまった時にね、私はどうなっていくんだろうって」
病や死は近しい人に訪れると、そこから跳ね返ってくる思考は
「じゃあ、私はどうなのだろう」
「どうなってしまうのだろう」
という冷たくヒヤッとした感触である。
私はただ彼女のことばを聞いていた。
話すうちに介護の話になる。
「私は施設とかには行きたくないんだよね、男性の職員さんがいるでしょ。そういう方におトイレとかお風呂に入る時にお世話になりたくないの。やっぱりこんなおばばでも、嫌なんですよ。別に何かされるとかそういうことを考えてるわけでもなくて....お仕事でっていうのはわかるけども。でも嫌なの」
今回の方のように望まれている方は多い。
今まで何度も同じようなご意見を伺うことがあった。
当然のことだ。
嫌だと思う。
はじらい。
私はそれをできる限り尊重したいと思う。
このご意見はACP(アドバンス・ケア・プランニング 人生会議)の一つでもあると思っている。
ACPはどのように死にむかっていくのかを考えたものではなくて
あなたが生きているうちにどのように在りたいのか。何を尊重して欲しいのかを聞くものだと思っている。
しかしながら、私は施設を運営してないし、介護士でもない。
できることは、このことばを胸に刻んでおいて
しかるべき時に「〇〇さんはこのように望んでいました」と本人が言えなかったら本人の代わりに私が彼女の意見を伝えることかな、と思う。
しかし、なかなか望んだ通りにはいかないのが現実であったりする。
できる限りは「はじらい」を尊重したいと思う。
【女の子とねこを描いた】
「何しようか、ねこの絵でも描く?」
という提案に
「いいね」
と乗り気になってもらえたので
ねこを描きました。
なんのこっちゃですが。
仕事ですよ。
仕事中の話。
若い子のところへも行くんです。今、主治医からのリハオーダーは「あそびを提供してください」とのことなので、今日はお絵描きを提案してみた。
この子のうちは野良猫ちゃんが住み着いてしまって、この絵のねこがいつもいます。
この子はこのねこが友達のようになっていて、カメラロールもねこばかりでお絵描きも好きなことを私は知っていたので、提案してくれたら今まで以上に集中して取り組んでくれました。
一応「勝負しようぜ!」という感じで。
何が勝ちなのかわからないままですすみましたが。
「描けた!」
といった時の笑顔がいいなと思って。
私も「じゃあこれで!」
と出してお互い笑えたからよかった。
しかしですね、普通の鉛筆で書くのは大変でございます。美大で使っているデッサン用の硬さが違うやつと違って、この芯先が丸まっているちっちゃくなってしまった普通の鉛筆で30分くらいで描いたやつなので。
下手ないいわけはここまでにして....。
彼女は私の絵が気に入ったようで何度もスマホで撮影してました。
【感嘆】
寝入りに夫が娘の卒業文集に載せる予定の文章を見せてくれた。
「すごいよ」
と一言言われて渡された紙に書かれた文章を読んで、私はことばを失う。
なぜだか、不意に泣きたくなった。
次に、これは中3の子が書くような内容なのかな...と思った。
私は自分の文章が恥ずかしくなってしまうくらい、この文章が好きだ。
彼女が過ごしてきた中学3年間の集大成が、ここにつまっているなと思った。
私は自分がうけた衝撃や感動をそばにいる夫に伝えようと思ったが、夫はすでにいびきをかいていた。
なので、少し迷って...
かすみさんにLINEする。
かすみさんは「あなたが育てたということがひしひしと伝わってくる文章」と言ってくれた。
LINEを打ちながら泣いてしまう。
いい歳して、あいかわらず、私は泣き虫がなおらない。
昨日もスプラトゥーンのことで、自分が情けなくて泣いたり、手助けしてくれたみいちゃろ組やなーすけさんのやさしさに泣きそうになったり
この涙は悲しい涙だけではない。
感極まって泣くことが多い。
ありがたいなと思う。
娘の文章をもっと読みたいなと思う。
もっともっと
彼女の抱えている孤独や
きらめきや
美しい世界を
私にもいつか
見せてもらえたら
そういうことが楽しみになっている。
春はもう少し。
変化はすぐそこに迫っている。
何かが終わったりはじまったり
私はちゃんとそこに向き合いたいと思っている。
今日のぬくぬくはここまで。
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