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ひとりひとりのものがたり

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仕事での出会い、出会ってしまった人たちの物語の断片を書き綴ったもの。高齢者のナラティブ。
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2021年2月の記事一覧

熊本のチーター

熊本ご出身の利用者さんがいる。この方を仮に砂田さんとする。 何年か前に退職した同僚から担当を譲って頂き、もう長い付き合いになる。私はこれまでその人の思い出話をたくさん伺ってきた。 とてもお話するのが好きな方だったからだ。 たとえばこんな話。 若かりし頃に素敵な思い人がいて、一緒に同棲したり、楽しい思い出があったが、ご家族の反対に遭い泣く泣くお付き合いをやめたこと。そしてその方とは違う男性である今の旦那さんと結婚しなければいけなかったこと。 「今、思い出してもすごいハンサム

2月の春の音

昨日休みだった私は、少しけだるい気持ちを抱えて今朝、会社に出勤した。 ふと施設の正面口の近くを通ると、一昨日まではなかった淡いピンクの桃の花が、茶色と白のまだら模様の花瓶にひっそりといけてあった。 高さは30cm程度。まっすぐと背筋を伸ばした枝にポップコーンのようにちりばめられた桃色がこちらに語りかけている。 私もそれにならって背筋を少しだけ伸ばす。 とんとんとん 利用者さんと話していた。「お子さん卒業なんだって?」 「そうなんです。3月で卒業で・・・あ、そうか!私