マガジンのカバー画像

わたしやかぞくのはなし

212
わたしやわたしをとりまく家族たちの話です。
運営しているクリエイター

2022年4月の記事一覧

つづれおりとアスパラガスの天ぷらがくれたものは

「あれ、誰の母ちゃんだ?」 後方から男子たちの声がひそひそと聞こえて来る。 私は、決して私に向けられていないであろうことばたちが するりとどこかへはねて飛んでってしまわないように 何とかぎこちなくキャッチして その後、じんわりと耳のほてりを感じていた。 絶対に振り返ってはだめだと思った。 俯いた視線は机の小さな凹みを捉える。 穴があったら入りたい。 でもこんなちっちゃな凹みは、大きな私を隠してくれないだろう。 『その母ちゃんは私の母ちゃんだよ』 と私は心の中

少しの熱と夜の海

思いは届かず 思いは途切れて 思いなんてそもそもなかったのかもしれないと 幻だったのかもしれないと 「僕らは半分夢の中」なんて どこかの天才が歌っていた事を最近知ったけど 確かな物なんて何もない そんなことを思いながら夜の海をよく散歩した クッションの上で体を丸めて休んでいる愛犬は それこそ半分夢の中だったのか 重力に負けそうな重いまぶたを抱えていたが ふと私の姿に気がつくと ビー玉のような黒目が光にきらりと反応して 控えめな大きさの白い尾を大胆にふる。 グリ

若い人の「ひのきのぼう」の扱い方に憧れる私はとりあえず「おなべのふた」から始めてみる

今日はいきなり唐突なのですが 若い人の表現力ってなかなか楽しいものですよね。 若い人は私では考えつかないようなことばを使って、自分の気持ちを伝えてきてくれます。それが私にとっては新鮮なのです。聞いていて、耳に残るし、しばらくひっかかっています。「そうか、そうきたか〜」としばらく頭の中でコロコロと転がしてみます。使える語彙が大人より少ないのもあるのでしょうね。 少ない道具(ことば)の中で、ふだん意識せずに使っている何でもないようなものを取り出して、そこに色をつけたり新しいニ

不和不和からふわふわへ

娘のことについて今日は書いてみようと思う。 娘はこの春で中学二年生に進級する。 娘が三学期に入って不登校になってから、わたしたち家族は、わたしたちなりに葛藤し、話し合い、励まし合い、守り合い、あまり平坦ではない道のりを歩んできたような気もする。 けれどもその道が決して断崖絶壁の崖っぷちだったとか、ぽっかりと落とし穴が開いていたとか、途中で橋が切れていたとか、そんな大それたものではなかったようにも思う。 映画のようにわかりやすいピンチという訳でもなく、映画のようにわかりや