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辛酸を浴びる

《農家はつらいよ 寺坂祐一 著》
思わぬ不作に「いやー、まいったなぁ。農家はつらいよぉ。でも、なんとかするしかねぇべ」と後頭部をぽりぽりかきながら、畑に向かっていく著者。
そんな牧歌的な内容かと思いきや、僕の想像をはるかに超えてきた。

ツライ、つらすぎる。
辛酸を舐めるなんてもんじゃない。
もはや全身で浴びるレベル。

農家である著者に次から次へと降りかかる災難の原因は、異常気象でもなく市場価格の暴落でもなく、人間。

前例踏襲・現状維持万歳の地域住民や、アル中で機能不全の両親・祖父母・親戚、そして罵詈雑言が主食の顔の見えないネット住民。
アルコールが、同調圧力が、人の善意を押しつぶし、人が悪魔になる。
18才で借金だらけの農家を継ぎ、メロン農家として七転八倒しながら年商1億まで押し上げた著者に対し、理不尽に次ぐ理不尽を浴びせ続ける彼ら。

読んでいて、著者がかわいそうで本当に泣けてくる。
拳を握りながら、歯を食いしばって読み進めた本はこれが初めてかも。

ただ、そんな著者を助けてくれたのも、人間。
奥さんや親友、心理カウンセラーといった仲間たち。
陥れる人間の闇が濃いほど、助けてくれる仲間たちの光が際立って、感動せずにはいられなかった。

「生き延び続けてきて、よかった」
と、本書を締めくくった著者の言葉に、どんなにつらくとも人生は捨てたもんじゃないと、最後の最後に希望をもらえた。

500ページとボリュームのある本作。
だが、読了せずには眠れない内容に、貫徹読書となった一冊。


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