美しい景色

家から中学校までの道のりは、比喩なく登山だった。

30分ほど、車にすれ違うことなく、坂を登り続ける通学路。

中学校の周辺は、本当に何もない。

最寄りのコンビニまで1時間。
非行だってままならない。
不良たちは、部活をサボって山登りをする。

家に帰ることを、南下と呼んでいた。
事実そのままに。

当たり前のように、景色が美しい。

僕がこれまでに見た景色で、いつまでも色褪せずに心に残る名作が3つある。

ひとつは、父親が息を引き取った時に、病室の四角い窓から見えた夕景色。

残りの2つは、共に中学校から見た景色だ。

誰もいない廊下を照らす、黄金のような西陽。

陽が沈む直前、虹色に染まる空。
特に、山と空の境界の紫色が美しかった。

いつも見られるものではない。
アベレージは高いけれど、あれほどの景色は、3年間通って、たったの2回だけだった。

季節はどちらも3月だった。

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