絵を描く
峡谷の町に生まれた。
山と山に挟まれた、谷間の集落で生まれ育った。
小さな山が連続し、薄い山脈をつくる。山脈と山脈の間にの谷には、急流の川が流れている。町の底に、川が流れているわけだ。
川に降りて、集落を見ると、まず、川の近くの貴重な平地に田んぼが集まっている。
少し先、平地の終わりに、駅や、スーパーマーケットがある。
そこから先は坂道。少し上がると、祖母の家がある。
もう少し上がると、小学校。そして、僕の家。
中学校は、そこからさらに30分ほど坂を登った先にある。
こんな状況のため、家の裏は山だし、家の窓から見える景色も山。
両親が共働きだったので、祖母の家で過ごす時間が多かった。
山の斜面に建てられているため、祖母の家の小さな庭と、隣の家との境界は、崖のようになっていた。
庭から遠くを見ると、榛名山。そして、その周囲の名もな山々が見える。
その向こうに、都市や、外国が広がっていると教えられても、にわかに信じられなかった。
御伽話の世界と、山の向こうの現実世界は、どちらも遠く、霞を掴むようなものだった。
これが僕の原風景。
小さな頃、あの庭から見えた山と、山に隔てられて見ることのできない向こう側。
その感覚を、絵に描いてみたいと思っている。
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