エキノコックス報道について①
2021年10月12日の夕方に福井新聞からセンセーショナルな報道がなされました。
「愛知県の知多半島で捕獲された野犬で、寄生虫の「エキノコックス」の感染確認が相次ぎ、国立感染症研究所が「半島内で定着した」との見解を示した。」と言うことです。一見すると寄生虫が広まっただけと言う認識ですが、「エキノコックス」の危険性を知っている身としては恐怖を覚えます。
エキノコックスって何?
そもそもエキノコックスって何ってことからはお話します。エキノコックスは条虫と呼ばれる寄生虫です。このうち問題になるのは「単包条虫」と「多包条虫」の2種類がヒトに害をなしていて、今回の騒動の原因となっています。
日本ではどれくらい報告されている?
エキノコックスは4類感染症のため全例報告の義務があります。
1999年から2018年の20年の間に425例が報告がありました。
多包虫症は400例(94%)、その95%以上の382例が北海道からの届出でした。北海道からの届出年齢分布は年齢中央値は65歳(男64歳, 女67歳)で、 高齢者にピークを認めています。北海道以外でも 東京、青森、神奈川、愛知、山形、埼玉、千葉、福井、三重、大阪、山口でも少数例報告があります。
単包虫症は25例(全体の6%)で、そのうち60%(15例)は在日外国人または日系人と推定されています。推定感染地として、中国、ペルー、アフガニスタン、ネパール、 パキスタン、イラン、ウズベキスタン、シリアなどでした。
北海道、多包虫症、高齢者がキーワードになると考えています。発症が高齢者となる要因として後述しますが、5〜20年の長い潜伏期間があります。仮に20歳で感染しても、無症状のまま時限爆弾のように体に抱え込んでいて、ずっとずっと後になって発症するのです。この潜伏期間の長さが曲者なのです。
エキノコックスの症状や治療法は?
潜伏期間が長い要素として、嚢胞の成長は非常にゆっくりなことにあります。 主に肝臓に嚢胞を作りますが、ある程度の大きさになるまでは無症状に経過し、腹部超音波やCTなどの検査を受けないと気付きにくいのが現状です。肝機能障害、肝腫大、腹痛などの症状はありますが、中高年の患者が多いため、他の疾患によるものと見逃されることもあります。治療法は手術による嚢胞の摘出とアルベンダゾール投与です。しかし、手術で摘出できない場合の死亡率は5年で70%、10年で94%と言われています。
何が問題?
ここまでの記事だと、これくらいの発症数で何を慌てているんだと言われそうですが、封じ込めができていないのが問題なのです。年間2桁の患者しか(今までは)出ておらず、これまでは北海道が中心であったため、国も優先度は低く、予算はほとんど出ていません。北海道と本州は海を渡る必要がありますが、本州で感染定着となると、一気に広がる可能性があります。そして、それが顕在化するのは5〜20年と長時間経ってからです。日本の臨床医はエキノコックスを診察したことがある人は少なく、仮に肝嚢胞に出会ってもスルーしてしまう可能性があります。万が一穿刺でもしてしまったら大変なことになります。感染者が出てからその時に対策を始めても遅いのです。
時間の都合で本日はここまでです。随時upしていきます。
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