ファンアートに公式タグをつけるのは悪いことなのか?

2024/07/25 追記
この記事は2022年の記事でして、当時はこう思っていたのですが、原作者とコンテンツ提供側の希望が食い違うことがままある、という事例を立て続けに見た現在、若干私の意見は変わっています。ここに書いたことは間違ってはいないと思いますが、あくまで、コンテンツ提供側(出版社やアニメ、ドラマ製作者など)と原作者の意見が一致している場合の話です。
よろしければ、新しい記事の方もご覧ください。

https://note.com/kuloe_akikawa/n/n7cc3257191de

以下、2022年の記事に続きます。
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…という議論がTLで少し流れてきて、納得するところは多々あるものの、コンテンツ提供側としては微妙に感じた部分もあったので、こういう例もあるよ、ということで記録に残すことにします。

簡潔にまとめられれば一番なんですが、これは簡単には結論が出ない話なので、私自身のバックグラウンドをある程度提供した上で、こういう意見もある、ということでご理解いただければと思います。

追記:「ファンアート」の定義が曖昧でしたので、ここで議論している「ファンアート」を以下の範囲に限定します。

このページで言及する「ファンアート」は、漫画や小説、アニメなどの原作にインスピレーションを受けた、ファンによる自作のイラストや漫画、小説など(つまり二次創作)を想定しています。
(具体的にいうと、著作権法の「翻訳権」が問題になる部分です)
原作の図画、写真を用いるものは、複製権にひっかかりますので、権利者の許可がない限りほぼ100%不可です。また、現存の実在人物をモデルにしたものは肖像権の問題もありますので、ここでは対象外とします。


まず、私自身は30年以上二次創作をやっている古いオタクです。
私が同人に参入した当時は、とにかく二次創作はひたすら隠れてコッソリやるものであって、公式に見つかればお取り潰しの危険アリ、ジャンルに多大な迷惑をかけるので裏切り者扱いされるのが当たり前でした。
現実に、作者にエロを含む二次創作を送りつけて作者の気分を大変に害し、作者が公的な場所で、やるなとは言わないがせめて作者に見せないだけの良識を持て、とアナウンスしたり、ということもありました。
また、ジャンルによってはコンテンツ提供側から明確に二次創作が非推奨になっていたジャンルもあります。
「J禁」マーク(詳細はここでは書きませんが、要するに公式の目に触れさせるな、という意味)を目にしたことがある方もいらっしゃるのではないかと思います。

このような経緯があるため、私自身は、何十年もの間、二次創作およびファンアートの類は隠れてこっそりやるものだと思い込んでいました。
しかし、数年前に某音楽コンテンツ制作会社の運営に参加するようになり、その過程で企業の著作権に対する考え方を叩き込まれて、今までの自分の考え方の大半が間違っていたことを知りました。

1)まず、著作権は、財産権であること。
2)そして、財産権であるがゆえに、その財産をどうしたいか、どうすべきなのかについては、著作権を保持・管理する人間にしか云々できず、権利者がOKと言えばそれがたとえ世間一般的にNGでもなんの問題もないこと。
3)そして、なにか事が起きた場合には、基本的に協議によって解決するのが一般的で、訴訟・裁判となるのは折り合いがつかなかった場合のみである、ということ。
この3つの大原則が、そもそもわかっていなかったのです。

で、この原則に立ちかえると、そもそも、公式が二次創作やファンアートに公式タグをつける件について良いとも悪いとも言っていないのに、第三者がその良し悪しについて議論するのも越権行為、となってしまうのですね。

だって、公式は、それについて、内心では「いいぞ、もっとやれ!」と思っているかもしれないし、「本当はやめてほしいんだけど…」と思っているかもしれないわけですから。
要するに、「一般にはこうだよね」という議論が当てはまらないのが、財産権の特徴、でもあるわけです。
そして、これはあまり認識されていないことですが、第三者が勝手にそれを予想して、SNSなどでそういう空気を作ってしまうのは、企業や作家にとって不利益につながる可能性があります。

たとえばもし、自分の持っている車を知人に激安で売ろうとしたとして、まったく関係がない第三者が「あんな安値で売るなんておかしい、ずるい」とか言い出したら「関係ない人間が何言ってんの?」って思いますよね?
それで炎上して、結局売買が成立しなかったら、全く関係のない第三者に利益を得る機会を潰されたことになります。
「なにしてくれんだよ、ふざけんな!」と思いませんか?(笑)

基本的に、財産に関する権利というのはそういうもので、ある事象に対して「良い」も「悪い」も権利者にしか決められない、第三者が一般論を論じることはできない性質のものだ、ということです。

でも、「この例では車の所持者本人が売ってるんだからいいじゃん、今話してるのは、権利者も知らないところで勝手に車使ってる奴がいるとか、そういう話でしょ?」と思うかもしれません。

実は、まさしく、その通りです(笑)。
じゃあ、だからダメなのか?
そうとは限らないのが、財産権の面白いところなわけです。

財産権というのは、金銭的な権利を守るのが目的なんですね。
勝手に使われて気分を害したとか、作品の価値を損なわれたとか、そういう部分は基本的に守ってもらえません。
(作品の価値がひどく損なわれた場合、それを守る権利は著作者人格権という全く別の権利になります。こちらは、お金は関係なく、とにかく自分の作品を毀損された、ということが問題になりますが、これが裁判所で認められるケースは非常に少ないと聞いています)

だから、勝手に使われたら何をするかというと、ライセンス料を請求します。
同時に、勝手に使われることも差し止めます。
まあ、勝手に使われたら気分が悪いので、その相手とはもう契約しないかもしれませんが、そういう感情的なしこりがなく、下請けとの合意がとれていれば、今後もライセンス料を払えば使い続けてもいいヨ、という合意に至ることもあります。むしろ、それができる企業の方が優良企業だと思います。結果的に、作家の収入が増えるわけですから。

つまり、企業の側からすると、むしろラッキー、と思っているケースも少なくない。
(勿論全部とは言わないし、悪質でオリジナルの作家の利益を食い荒らすようなケースでは勿論訴訟になるでしょうが)
何故なら、企業は、売上を上げて、それを作家に還元してナンボ、だからです。
本来なら、自分達でPR動画とか作って、一生懸命SNSで宣伝しても、なかなか効果が出ない。
そのための費用もばかにならないのに、効果が出るまでには時間がかかるし、そもそも効果が出る保証もない。
でも、第三者が、勝手にPRしてくれて、その結果オリジナルの知名度も上がるなら、その分の経費も時間も節約できるわけです。
当然、その利益をとって、最初に使用許可をとらなかった事実には目をつぶる、という判断は、企業として十分にあり得ます。

このことは、現実に漫画やアニメの世界でも、1990年代には公然の事実になっていたと思います。あれほどの巨大イベントに成長した一大二次創作市場のコミックマーケットが、コンテンツ提供側に潰されずに、むしろコンテンツ提供側が利用するイベントになったということが、その流れを証明しています。
驚くべきことに、この間、企業は同人作家にコンテンツ使用料を要求していない。
つまり、それを得られなくても、宣伝効果だけでプラスになる、と企業が判断したからにほかなりません。
著作権の法律自体は長い間あまり変わっていませんけど、人々の著作権に対する考え方は、時代に応じて変わりますし、作品を提供する新たなプラットフォームの出現が、その考え方をがらりと変えるケースもあります。

それの最たるものが、YouTubeです。
YouTubeに著作隣接権つきの音源を使った動画を上げてはいけないのは皆様ご存知と思いますが、現実を見ると、腐るほど上がってます。
(スミマセン当初著作権つき、とウッカリ書いてましたがそれは間違いです。YouTubeはJASRACと包括契約を結んでいるので、JASRAC管理曲であれば著作権つきの動画を上げるのは問題ありません。問題になるのは演奏者、レコード会社の権利で著作隣接権に分類されます。)
まさに、「第三者が勝手に」人の権利物を使っている状態です。
この状況で叩かれまくったYouTubeは、コンテンツIDシステムを生み出し、自動で動画に使われている音源を特定して、その音源の会社に再生回数に応じた広告利益を分配する、という手段に出ました。
現在は、これを殆どの音楽レーベルが受け入れています。
許可なく勝手に使われているのにもかかわらず、です。
(本来は、映像と録音された音楽を合わせるには、シンクロ権に絡む膨大な額の使用料を払わなければならない)
楽曲の著作権で言えば、その収入のもとになった動画の中には、素人のヒドイ演奏もあるかもしれないし、作者の意図が伝わらなくなるような極端なカット(演奏の短縮)を行われている音源もあるかもしれない。
でも、その数字は、それだけ作品が愛されて、演奏された、という証です。だから、すくなくとも私の知る作曲家の方々は、みなさん喜んでいます。
(もちろんそうでない方がいらっしゃるかもしれないことは否定しませんが。)


なんか話がずれてきてるんじゃないの? と思うかもしれませんが。
私が言いたいのは、まさに、この企業のドライな感覚と、我々古の同人屋との感覚の差、なんです……。


著作権侵害の問題については、SNS上ではずるいとか作家に失礼とか、道義的な観点が問題になるケースが多いのですが、実は企業サイドではあまりそこは重要視していません。
大事なのは、その結果企業や作家の利益が食われたかどうか、です。
(あるいは今後食われる可能性があるかどうか、も入るかも。グッズとかだと)

公式タグの他に、ファンアートであることを明記したタグがついている、何よりも大事なのは、ちゃんとファンアートの中に自分のサインが入っている、という条件が満たされていれば、それを見たファンが公式のものだと誤解することはないでしょう。
そして、それが二次創作であることが第三者の目から見て明白にわかる対策がとられている限り、ぶっちゃけ、企業にとって、その行為がずるいか、二次創作者の売名行為であるか、あるいは作家に失礼かどうか、というところはどうでもいいのです……。
だって、その部分は利益にまったく関係ないところですから。

であれば、逆に、ファンアートに公式のタグつけてもしバズったら、それは、その作品の宣伝に一部貢献したと言えるわけです。
感情的に、そいつは本物じゃないとか、色々あるかもしれませんけど、これはコミケットという場をコンテンツ提供企業が受け入れてきた過去の歴史を照らし合わせば、憶測ではなく金銭の動きに裏打ちされた事実です。
売上というのは、まず何をおいてもどれだけ多くの人に、どれだけ多くの機会見てもらえたか、という数に直結します。
(私みたいに二次創作から入って原作買った人間もいますしね!<それまではただのアニメのファンだった😅)
ということは、逆にいえば、むしろ、「二次創作に公式タグつけるのはよくない、やめよう」という空気を醸成すること自体が、企業、ひいては作家の利益を損ねている、ということにもなり得るわけです。
FAN心理で作家の気持ちを尊重してやっているつもりのことが、企業や作家の不利益になることがある。
企業の立場で見ればそういうこともあり得ます。

勿論、最初にも書いたとおり、著作権に「一般に」は存在しませんから、これが絶対とは言いません。企業の方が「売上伸びるからいいじゃん」と思っていても、作家が感情的になって、企業に厳しい対応を迫ることもあるかもしれませんし。
しかし、私個人としては、今現在二次創作やファンアートを禁じていないのであれば、それを将来的に禁じる可能性は少ないし、それを恐れてファンアートを自粛したり、公式の目に触れないように配慮しなければならない理由はないと思っています(個人個人がどうしたいかはともかく。それと勿論、18禁コンテンツはまた著作権とは別の問題があるので、仲間内だけの範囲で自粛すべきですが)。

企業や作家には、権利者として、どのように自分たちの権利を守るのかを明確にする責任もあります。
財産権というのは、ただ何もしなくても守られるものではなく、自分の財産を守る意思を示して初めて守られる性質のものだからです(著作権侵害がほとんどのケースに於いて親告罪であることの所以)。
その意思を敢えて示していないのに(どの企業も原作者の絵を使ったグッズの販売については再三警告を発しているので、二次創作について何も言わないのは敢えて言わないのだと理解する)、抜き打ちのように後出しでそれを一律に禁じるのは、ファンアートを制作したり、原作やグッズなどを買ってその企業や作家を応援してきたファンの心を裏切ることになります。
そういう企業が存在してはいけないとはいいませんが、ファンに支えられて初めて活動が可能になる企業や作家の態度として、そりゃ不誠実だろう、と、私は思います。

このへんの考え方について、最初の頃は本当に馴染めなくて、何度も上司に「違う!」って注意されました(笑)
なので、なかなか作品のファンの皆様にはご理解いただけない話かもなあ、と思うのですが、実際に自分が作品のPRをする立場になって、宣伝、広報がどれだけ大変なものかを思い知ったときに、なんか色々と腑におちました(笑)。
まあ、腰掛けなんで、そんなに大したことはできませんでしたけど、だからこそ、こっちが何もしなくても勝手に盛り上がってくれるファンの方々の活動は本当に有難いんですよ…😭

というわけで、ファンアートに公式タグをつけることとつけないことの差は、たった2つだけ、だと私は思います。

1)公式のコンテンツだけを見たい人に「ちっ、違うじゃねえかよ!」と思われる可能性がある。

2)公式や原作者が、覗きにくる可能性がある。

もう一つ、行きすぎたファンに粘着されるかも、って恐れもありますが、こっちはむしろそういうことする輩が原作者の著作権侵害と他人へのいわれのない罵倒ということで色々侵害しまくっているので、さくっとブロックして終わりにすれば良いかと。
まあ、そういうのも面倒くさい、という方はその可能性を避ける、でも良いと思いますが。

これらを受け入れられて、作品にサインが入ってる、ファンアートタグがついてる、を満たしてあれば、ファンアートに公式タグをつけるのは問題ないんじゃないか、と、私は思います。
公式がやめろ、と言ってきたら、そのときに止めればいい話なんじゃないかな、と。




といいつつ、、、。
ここまで散々書いといて、私自身はゼッタイ公式タグはつけない派なんですが😅
それは、私自身が、公式様の目に自分の作品が晒される可能性に耐えられないから、です(笑)
そんだけヒドイことやらかしてるんで…😅

あと、まあ、やっぱ、万が一、、、というか、企業はともかく、作家先生の目に入ったらどう思われるだろう、というのは、いちファンとして気になってしまうところではあるんですよね。
自分は愛情を込めたつもりだけど、「ちがーう‼️」って思われたら申し訳ないなあ、とか。
だから、「二次創作に公式タグはダメ!!」とおっしゃる方々の気持ちも、すごくよくわかるんですよ……😅

ただ、自分の身近なクリエイターの皆様を見ていて、ファンのそういう活動が嫌だとおっしゃる方にはこれまでただの一度もお目にかかったことがなくて、むしろ喜んで見ておられる方が多いので……
過度な自粛はむしろ作家の皆様を悲しませる結果になるんじゃないか、という予感というか、これまでの経験からの実感もあります。
なので、上の記事はわりと意図的に、そういう感情的なファクターを廃して書きました。


だからもう、ホント、公式様が何がよくて何がダメなのか明言してくれるのが一番いいんだけどな〜😭
うちの身近な芸術家なんか、しょっちゅう「自分はこれこれは全然気にしないから!」みたいなことを口走ってますよ……
原作者というのは、存在するだけでその作品の可能性を縛ってしまう力があるから、そういうことを積極的に発信するのって、結構大事だと思うんだけどなあ。


企業サイドとしても、どうせ黙ってても勝手に使われるのだから、公式から「著作者人格権に触れる内容でなければいいよ」とアナウンスしてしまって、ファンが気兼ねなく楽しめる環境を提供するか、「このレベルの二次創作まではOKだけどこれ以上はやめて」「原作の利益を食いかねないような荒稼ぎや大量部数発行はやめて」みたいな条件を提示して二次創作の範囲をコントロールするかした方が、より建設的なんじゃないかと思うんですよね…。

今のままグレーゾーンで放っておくと、著作者がロイヤルティを得る機会の開発も進まないというか…。
ぶっちゃけ、有償の同人誌や二次創作絵のグッズは原作者に使用料を払うべきだと思うんですよ。ネットに上がってるファンアートとかは、無償のもののボリュームが圧倒的に多いと思うんですけど、まずは金銭の享受が発生するところからでも、多少使用料収入が入れば作家さんも喜ぶと思うんだけどなあ。
まあ、そのためには、漫画や小説の作家によるJASRACみたいな組織が必要になるんで、難しいかもだけど、でもそれは今後ますます必要になってくる組織だと思うので……。

著作権に関する話(トレパク、二次創作について)は以前にもまとめているので、よかったらそっちも見てやってください。

著作権の話
https://note.com/kuloe_akikawa/n/nae7d1615c93b


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