010 ヨは何故に日曜も店を開けることになったのか

365日、年中無休で店を開けていますが、1年半前までは日曜が定休日でした。

その日はイベントがあったので、たまたま店を開けていたのです。いや、ボクの中ではもう店仕舞いをしたつもりでいました。イベントはとっくに終わって、後片付けをしていたのです。

そこに、一人、変な男が現れました。変な、というのは外見のことではありません。言っていることがおかしいっていうか、理屈になっていません。だって、そうでしょう?

「開いていないと思ったから下まで来たのに、開いていたから入ってきた」

確かに、話の後半部分は理屈が通っています。でも、前半はめちゃくちゃ。大の大人が口にする論理じゃないですね。意味わかんなーい。

それもそのはず。彼は酔っ払いで、画家になろうと頑張っている最中だそうです。ボクが最も理解のできない人種−−アーティストってやつです。しかも、酔っ払い。店に上がって来た時から、相当酔っ払っていました。

「インスタでフォローしてもらっている○○です」

「おおー」

ボクは店のインスタに「いいね」してくれた人のインスタは出来る限り覗いて、何かコメントをつけてフォローすることにしています。彼はそのうちの一人だというのです。

わざわざ店に来てくれたんだ。好感度100点満点ですね。SNSで繋がったからって、人は簡単に店にまで来てくれません。

「いえ、そばの画廊で個展をやっていて、そのついでに」

ついでに・・・いきなり好感度80点に下降中。

聞けば、今日が最終日で、打ち上げが終わった後、どんな店か外から見るだけでもと、駅の反対側からわざわざやって来てくれたそうです。好感度はまたまた100点満点に上がりました。

「嬉しいよ。じゃあ、一杯サービスするよ」

「日曜は定休日と書いてあったのに、やっているじゃないですか。休業日だったら大丈夫だと思って来たのに…」

ますます訳の分からないことを言っています。メンド臭い奴選手権があったら百点満点取れそう。好感度40点くらいに駄々下がり。

いったい、何が大丈夫なのでしょうか。休みの日にやってきて、何を確認しようとしていたのか。玄関前とかでうっかり顔を合わせると困るから、誰もいないであろう定休日に偵察に来たということでしょうか。超メンドくせぇー奴だよ。単なる人見知りの域を超えています。

「いやー、参ったなぁ。休業日のはずの日曜なのに、開いているなんて。ビックリするよなぁ。まさか、マスターと実際に会うことになるなんて」

それはねぇ、こっちのセリフだよ。既に相当飲んできた様子なのに、彼のピッチがどんどん速まっていきます。

「でも、どうして日曜が定休日なんですか?」

「そりゃ、週に1日くらい休んだっていいだろう。別に、日曜に何があるって訳でもないんだけど」

「それじゃあ、日曜は開けてください。僕は日曜以外、休みがないんです。それ以外は、毎日遅くまで仕事してますから、来れないんです」

わかったわかった、ってわけで、九条Tokyoは日曜も営業日となりました。以来、原則365日毎日営業って、地方の安売スーパーみたいな状態になっています。

肝心の彼は日曜に来てるかって?

律儀に何度か来てくれました。日曜はシェフが休みなので、食べ物のオーダーを受けた後、ボクが厨房に入って料理をしようとすると、止めるのです。

「話ができなくなります。困ります。それに、ほかのお客さんが来たら困るし。料理を注文しない分だけ余計に飲みますから、ここにいてください」

いい歳の男が二人、カウンター越しに向き合っていてもねぇ。それに、こっちは素面なんだから。ええい、こっちも飲んじゃえ。

以来、彼は来ていません。仲違いしたのかって? 今も、ボクがアップするインスタに時折「いいね」してきてくれます。だから、仲違いってほどのことはないでしょう。それに、その日のことを彼は何も覚えていないでしょう。あれだけへべれけに飲んでいたのだから。女性客が来て、次に出す本の挿絵のことで、二人がアドレス交換までしたことも覚えていないでしょう。

単に忙しくなったのか、少しは酒を控えるようになったらのならいいのですが。。。休みの日くらいは休肝日を、とすると、ボクが日曜に店を開けている必要はないのですが。

コロナ騒動もあり、週一くらい店を休みにしてもいいかと思う時もあります。わざわざ水道光熱費分の余計なコストを払いに来ているようなものだから。でも、そんな日曜に限って、店を開けていてよかったぁと思えるお客さんと新たに出会えたりします。えっ、彼のことは…まぁ、出会ってよかったと思っています。ほんと、ですよ。50過ぎて画家になろうと発心するって素晴らしいチャレンジじゃないですか。ボクには絶対マネできない。

昨年の4月30日、この国は天皇制一色に染まっていました。朝日新聞までもが、どのページを開いても、平成が終わる、天皇が変わるって話ばっかり。一体、この国はどうなっちゃったんだろうと思いました。ボクが日本国憲法で唯一違和感を覚えるのは、第一条。制度ではなくその存在自体が国の象徴であり、国民の総意に基づくって誰が調べたんだろう。二条だって厳しいよね。その皇位は世襲だって。生まれた途端(現時点では男性の第一子)、皇位を継ぐことを決められているって、憲法に流れている思想に最もそぐわなくね~。職業や誰と結婚するかは本人の自由意思で決められるはずなのに。

でも、ボクは護憲派です。訳の分からないことを言う酔っ払いの言葉だって、迷惑でない限り、悪意がない限り、尊重して聞こうと思っています。憲法が拠って立つ(酔ってじゃないよ!)民主主義の基本は、話し・聞くことから始まると思っているからです。そういう点では、コロナ騒動にあって国会を開かない、記者会見をしないってのは民主主義を認めてないってことですね。ロシアや中国より酷い。

さて、4月30日の朝日新聞に、一つだけ真っ当な記事がありました。談話をまとめているのですが、その話し手は「えらい店長さん」というそうです。通常なら読もうとは思わないようなふざけた名前です。でも、素晴らしいコメントでした。

No.1だけじゃなくて、only 1 も目指さなくていいというのです。例えば、365日ずっと店を開けているだけで、何も特別なところのない店でも、それだけで特別だって。今日は行けなくても、あそこには灯りが点いていると思えるだけで、その店は特別なんだって。

まるで、ボクのためにあるような言葉でしょう?

ボクは原則365日、店を開け続けています。といっても、ランチは金土日月だけで、毎日開けているのは夜(ヨ)だけですよ。といっても、こんな状況ですから、誰も来ない日もあります。でも、そういう日は、こうしてnoteやSNSを更新できます。これまでに出会った奇跡のような人たちとの交流を記録に残し、ボクだけの体験にしてしまわないこともできます。記憶の共有。

結局、何が言いたいかっていうと、日曜も開けてくれと言った彼に感謝しているってこと。あれ、たったそれだけの感謝を伝えるために、面と向かって言わず、こんな長い文章を書いているボクも、ちょっと面倒くせぇ奴かなぁ。。。

*気まぐれなボクにしては珍しく10回も続いたので、それを記念して、【010】と投稿No.をつけてみました。

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