066 T-800を観てからボクらは進歩してるの?

少し前に来てくれたドクターの話をします。

少し前って、どれくらい?
その時間軸が曖昧というか、わからなくなってきています。もちろん歳のせいもありますが、あの宣言のせいですね。客足がパッタリ途絶え、あの人が来たのはいつで、みたいな記憶ができないからです。

記憶って、誰かとの会話や交流でできているのかも。

そのドクターは、ある大きな病院に勤めていて、専門は形成外科です。

知りませんでしたが、形成外科って手術のアンカーなんだそうですね。

様々な病気の手術を終えた後、彼らがスタンバっていて、最後に形成を整えるんだそうです。
病気が治っても、外見が酷い状態で残ってしまうと、生きていくのがつらい、、、これって若い人や女性にとっては大問題でしょうね。。。

またまた歳よりじみた性差別的な発言でした、しいません&もうしいません。

話戻って、だから店に来てくれる時は、遅い時間が多くなりがちです。というか、決まって遅い。
やっと手術を終えて、チームみんなで反省会を兼ねての飲食会です。

こういう人たちって、ボクは好きです。
つねに前を向いているって気がしませんか。
なんか、すがすがしい。。。

いつもは若手が電話して来て、「あと30分後くらいには出られるので、あれとあれとあれ、お願いします」みたいな。

うちのラストオーダー時間を気にかけてくれているんですね。
その割には、23時閉店では飲み足らず、ボクの終電まで付き合うことになりがちですが。
(言っておきますが、これはコロナ渦に巻き込まれて、まんぼうやらせんげんやらが出る前の話ですよ)

手術の結果次第で、多少時間が前後することはあるんだけど、みんなでタクシーに乗って駆けつけてくれます。

チーム全員が来るのとは違って、少人数の場合も。一番多く来てるのは若手のほうで、女医グループ。いきおい、組織や管理への不満が口に出されることもあります。
これはごく普通のことですよね。目くじら立てるのはやめましょう。若い人って、認めてほしいし、改善案を持っているものです。結果、時として上司が疎ましくなるものです。ボクも若い時はそうでした。

60過ぎて上に立っている人の見苦しさ。いい加減にしたら、と代わりに肩を叩いてあげたくなる組織が、あちこちにありますものね。政治家なんて、70過ぎやら80過ぎなんて、もういい加減に引退してボランティアでもやったら、と思うのですが。

香港やミャンマーを、、、って話は何度もしていますので、ここではカットします。

多く来てくれるほうに情が移るのは人の習いってやつで、、、
(別に、若い女性だからとか、売上至上主義ってわけじゃありませんよ)
自然と、ボクは若いドクターびいきになっていました。ちょっとした心理的なものですよ。

ところが少し前のある日、彼女たちの上司であるドクターが、突然、別の人と二人で来てくれたのです。

ビックリ&ドギマギ。
いや、別に彼に対して、ボクのほうに何か含むところがあるわけではありません。
でもねぇ。。。

さて、彼ら二人が話していた内容は?

-- という質問を、ここまでの文面と一緒に、毎日文通している郷里の友人にメールで投げかけたのですが、、、

彼の回答は
①もうすぐ法定伝染病がすぐわかるようになる
②戦時の外科手術の手技
③医療保険の話
のどれか、というものでした。

さて、その答えは、、、

という話は組織のプライバシーに関することなので、ここでは割愛します。

ええー?
ここまでの前振りは、いったい何だったの??

という突っ込みは無視して、ボクが今日まずお話ししたいのは、
1984年に公開された『ターミネーター』という映画を観て、あれからボクらは少しは進歩したのか、ってことです。

衝撃でしたよね、あの映画。

一番驚いたのは、
「I will be back」と言ったT-800が、第一作では悪役だったのに、その姿カタチがまったく同じT-800が第二作では、、、

そんな余計な話をしているからボクのNOTEは長くなるのですが、あの映画、また観てみたーい。

それはさておき、、、

そのドクターが一人になった時、ボクに訊いたのです。
「最近あまり来れなくなっていますが、どうですか?」


「いや、ボクたちのことを心配されるより、あなたがた医療関係者のほうでしょう。いくら仕事に就く時に神聖な誓いを立てるといっても、働く環境や社会を整備するのは国、つまり我々国民の仕事ですから。それを、ほとんど素手で24時間働けなんて」

彼は少し笑った後、こんな話をしました。

「前のように予めスケジュールが決められているわけではなく、少ないスタッフで決められた日に集中して手術をしています」
「その日は時間に追われながら次々手術をこなしているけど、時々、思うんです」
「今日、自分が終えた手術は、10年後にも意味のある手技だったと思われているだろうかと」

深い。深すぎる。
毎晩、グラスに注ぐワインやウイスキーの量が微妙に違うボクには、到底思い至らない感慨です。

彼は時間があると最新の文献を読んだり、学会や研究会に出かけて、自分をアップデートしてきたと言います。

でも、と彼は言うんです。
「10年後にボクが担当した患者さんがやってきて、あなたの手技が古いものだったから、私の身体にこんな傷が残ってしまったと抗議される夢を見るんです」

深い。深すぎる。
夢をまったく見ない、ボクの深い眠りの話ではないですよ。

ボクが手術をすることがあったら、彼に頼みたいと思いました。
そんなことがあれば、ですが。だって、小4の時に流行したオタフクかぜで強制的に休ませられて以来、休んだことがないのに。
またまた余計な話を突っ込みました。。。

こんな誠実な悩みを持って、日々手術台の前に立っているドクターがいるなんて。
今日の手技をうまくやれるか、ではないんですよ。10年後にも通用する技術で、患者を守れているのか、なんて。

ボクは10年後もお客さんを守ろうと思って日々店を開けているか。。。

一方で、彼にその日の慰安となるお酒を提供できることに、ボクは大いなる喜びを感じていました。
俺って、もしかしたら、案外いい仕事をしているじゃん、って。

「案外」「もしかしたら」ですよ。でも、この宣言で、お酒はすべて提供できなくなってしまいました。彼の苦労と苦悩はどこで慰安されているのだろう。

彼は、「今日は飲みすぎました。もう帰ります」と出ていきました。
その後ろ姿、なんかカッコよかったなぁ。
男の哀愁、、、って、また性差別的な表現を。。。

AIやIT業界の知人に訊くと、T-800みたいな世界にはならないと言います。
シンギュラリティなんて、信じられてねぇ。。。

でも、10年前、いや20年前を振り返ると、我々はどれだけ遠い世界に来てしまったことか。あの映画を観て感動したアナタ、何か生き方を変えましたか?

ボクは1日1時間でいいから、そうしたお酒を提供できる店に戻りたい。自分の、いまドブに捨てているような、このお客さんのこなくなった時間の中で、ちょっと人生最後の仕事の選択を間違えたかな、と思ったりしています。

日々の慰安を提供できないバルに、存在意義はあるのかと。。。

そうだ、時間はいっぱいあるし、『ターミネーター』の1と2を見直してみようっと。

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