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メイドスキル三番勝負


「メリアさんはいらない子です。捨てましょう」

《地獄》から無事に生還したある日。真顔のクロエが淡々と言い放った。

「彼女がいるせいで、私はマスターの夜伽どころか、キスすらままなりません。完全にいらない子です。サービスシーンブレイカーとして、読者の皆様からも疎まれているに違いありません」

「え、えっちなのはいけないと思いますっ!」

「ほら、そういうところです」

 赤い顔で猛反論するメリアにやれやれと嘆息するクロエ。……メイドたちが不仲なせいで、ご主人様の敗斗は胃がキリキリしていた。

「お、お前ら、もうちょっと仲良く――」

「じゃ、じゃあ! 勝負しましょー!!」

「ふっ……。お子さまが巨乳系美人お姉さんの私に勝てるはずがありません」

 バチバチッ!と火花を散らす二人のメイドたち。……どうでもいいが、ご主人様の発言力が弱いのはおかしくないか。

「まずはお掃除です! メイドのお仕事は、炊事・掃除・洗濯だと思います!」

「いいでしょう。かかってきなさい」

 こうして始まったメイドスキル三番勝負。最初は掃除の能力を競うらしい。

 メリアはいつもの調子でクイックル○イパーを取り出すと、ドライシートを使って床の埃をざっと取り除いた。続いてウェットシートに取り替えると、先ほどのドライシートで残った細かな埃・汚れを落とし、畳を磨き上げていく。

「どうですか! いつもやっているので、楽勝ですっ!」

 見事な手際で掃除を進めるメリアに対し、クロエは不敵な笑みを浮かべた。

「ふっ……甘いですね。私の本気を見なさい!」

 クロエの背後にある空間が歪み、そこから金属製の円形物質が現れる。
 それは床に置かれると自走し、どんどん埃を吸引していった。

「クロエさん……っ! まさか、それは……っ!?」

「……そう。ル○バです」

 ル○バとは、とあるメーカーが製造・販売するお掃除ロボットである。値段は少々高いが、適切な設定さえしておけば自動で清掃してくれる、手間要らずのお掃除兵器である。

「ううっ。ロボットなのに、ちゃんとお掃除してくれるんですね……」

「そうでしょう。この勝負は引き分けですね」

 いや、それクロエの能力じゃなくないか?とか、そもそも、そのリース料は誰が払うの……?とか、敗斗はたくさんツッコみたいところがあったが、沈黙を守った。

 二番目。洗濯対決。

「知ってますか、クロエさん? 洗濯物は干す時に勝負が決まるんです! こうして、しっかりシワを伸ばしておけば、アイロンがけが楽になります! 難しいワイシャツのアイロンは、まず襟元からかけて――」

 見事な手際で敗斗の服にアイロンをかけていくメリア。実は、男性用のワイシャツにアイロンをかけるのはかなり面倒で難しいのだが……メリアのそれは完璧だった。

「むぅ……。なかなかやりますね、メリアさん」

 そう言いながら、クロエは背後の空間から全自動洗濯乾燥機を取り出した。……ちょっと待て。だから、そのリース料は誰が――と敗斗がツッコむより先に、どんどん洗濯物を放り込んでいく。

「乾燥機能もついているので、一度入れればワンタッチです。アイロンが必要なワイシャツはクリーニングに出します。……ああ。マスターの下着だけは私が手洗いで――」

「それはやめてっ!!」

 敗斗が慌てて下着を取り上げた。

 最後は、料理対決。

「ふんふん、ふーん♪」

 鼻歌を歌いながらお鍋をかき回すメリアさん。中身は敗斗の大好物、ビーフシチューだ。

 ……ところで、とても今更なのだが。

『究極の資産』として完璧なメイドスキルを習得し、敗斗の好みまで知り尽くしているメリアは、この勝負においてチート的存在だった気がする。勝負内容が有利すぎた。

 それに対抗するクロエは、どこかへ電話をかけていた。

「……ええ。そうです。三ツ星シェフをこちらへ。代金は言い値で払います」

「あー……クロエ。その……」

「なんでしょう、マスター? もうすぐ、三ツ星シェフの美味しい料理を――」

「俺、お前の手料理を食べてみたいんだが」

「なん……ですって……!?」

 驚愕を露にするクロエ。

 その後、自前でボロボロの目玉焼きを作り、敗斗に「美味しいから引き分けな」と言ってもらったクロエは、恥ずかしそうに「……お料理を教えてください」とメリアにお願いするのだった。


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