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男の子の夢を叶える資産


 失井敗斗は視力がいい。

 頭脳派の人間は専ら目を悪くして視力を失ってしまうが、命懸けの《取引》をする敗斗にとって、視力は大きな命綱である。

 よって、敗斗は目が悪くなる行為を全力で避け、視力低下に最新の注意を払ってきた。なので、当然ながら、これまでの人生で一度もメガネというものをかけたことがなかった。

 しかし……彼の目元には現在、黒縁のメガネがあった。
 クロエが真顔で「プレゼントです」と差し出してきたのだ。

 それはいい。

 目が悪くなるのはごめんだが、知的な雰囲気のメガネに憧れがなかったと言えば嘘になる。最近はファッションで伊達メガネをかける人も増えてきたし、敗斗もその波に乗って、気分転換するのも悪くない。

 問題は、そのメガネをかけた途端、女の子の衣服が透けて見えるようになってしまったことだ。

「……クロエ。説明を求めてもいいか」

「良かれと思ってやりました」

 半裸のクロエはいつも通りの澄まし顔だ。

 どうやら下着は透けないらしく、艶めかしい黒いレースの下着だけを身につけたクロエが、自然体で敗斗の隣に立っていた。

「申し訳ありません。本来であれば全ての衣服を透視できるようにすべきだったのですが、予算の都合上、今の状態が限界でした」

「いや、いい。むしろ、全ての衣服を透視できてたら大問題だ。とにかく、好意だけは受け取っておく。これに懲りたら――」

 敗斗がメガネに手をかけて外そうとするが、びくともしない。

 妙な感触がしてメガネのツルの部分をなぞっていくと……なんと後頭部まで一周し、敗斗の頭をガッチリとホールドしている。これでは、メガネを外すことができない。

「…………おい、クロエ」

「良かれと思ってやりました」 

 なにを言っても無駄だと悟った敗斗は、ため息を吐きつつ椅子に座り直した。

 こんな無茶苦茶な能力の《資産》だ。どうせ、時間制限はあるだろう。このままここで時間を潰しておけば、下手なアクシデントは起こるまい。

 敗斗は冷静に、そう判断したのだが――

「ますたー。なにかご用ですかー?」

「ぶふぉっ!!?」

 敗斗が噴き出した。不意をついて、メリアが姿を現したからだ。

 幸い、すぐに顔を逸らしたため、大事な部分は見えなかったが……下半身に布切れが一枚見えただけで、上半身は完全に裸だった。

 メリアさん……あなた、未だにブラをしてなかったんですか……。

「良かれと思って、皆さんを呼んでおきました」

「お前、絶対それ『良かれ』と思ってねぇだろっ!!」

 敗斗が全力でツッコむ。「ますたー?」と不思議そうに首を傾げるメリアを、手だけで必死に追い払った。しかし、少女たちの追撃は終わらない。

「敗斗ー? なんか、すっごいスタイルいい女の子があんたの部屋に来てって――」

「カナミぃー! お前はちゃんと『ある』んだから、ブラつけろよぉ!!」

 敗斗が必死に顔を逸らしながら叫ぶ。

 カナミ様は「えっ……。なんでわかったの……?」と不思議そうな顔をしながら胸を隠し、部屋を出て行った。

「あとは、遊部さんだけですね」

 ぜぇ……ぜぇ……と荒い呼吸を整えながら、敗斗がクロエを睨む。

「いくらなんでも、女子小学生に劣情を催すほど、俺は飢えてな――」

「クロエお姉さまがパンツくれるってマジっスか!?」

「お前がパンツを穿けーーーーーーーーーっ!!!」

 後日、そのメガネは早急に売却した。


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