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2021年11月の記事一覧
【畑の生活】記憶という香り
つい数週間前まで農園のなかでぽっかり何もなかった空間は、ほんの少しだけ畑らしくなってきた。耕し、土をつくり、種と苗を植え、ビニールハウスを立てると、空間の広がり方がまるで違う。それは「更地」と「何かが植わっている状態」という3次元的な視覚認識の差だけでなく、ここに至るまでの段階と時間、記憶の層が、僕の知覚する畑という空間を膨張させているのかもしれない。
冬の間の水撒きは、2週間に1度くらいでいい
【畑の生活】当たり前の奇跡
玉ねぎの苗を植えてから1週間。気温もぐっと下がり、シャーマンロードはうっすら紅く色づき始めている。彼方と此方をつなぐこの道を僕はこれから何往復もするだろう。でも、一瞬も同じ風景にとどまることはない。風景はつねに変化している。色、温度、風、どれもが少しずつ変わっていく。すべてが息づく永遠の中の一瞬を僕は往復する。
畑に到着し、長靴に履き替える。スニーカーが汚れるから履き替えるのではない。土を踏むた
【畑の生活】土のあたたかさ
土に指で浅く穴を開けて、ぽろぽろと種を入れていく。スナップエンドウの種はひとつの穴に対して3つずつ、正三角形になるように置いてやさしく土をかぶせる。長老の教え通りにやってみる。正直、これだけでいいのかと思うほどシンプルだ。葉物野菜なんて穴どころか、スコップで筋を引いてふりかけのように細かな種をばら撒いていくだけだ。拍子抜けしてしまう。土づくりや畝づくりが、どんなに複雑で骨の折れる作業であったとして
もっとみる【畑の生活】そらいろのたね
2本の畝を寝かせている間に、ホームセンターで野菜の種を買った。これまでホームセンターに行っても、素通りしていた入り口の外にある園芸コーナーの種のラックをじっくりと見る。秋冬でも植えられる野菜の種がずらりと並んでいる。思っていたよりも多い。それぞれ撒ける時期と収穫時期が書かれている。今から種を蒔くにはすこし遅そうなものもあるので、ひとつひとつ確かめながら種を選ぶ。
エンドウマメは秋植えできる越冬野
【畑の生活】藁のある風景
牡蠣殻の次は肥料だ。ペレットと呼ばれる乾燥した犬の餌みたいな粒状の肥料をまたパラパラと撒いていく。これも有機物を発酵させたもので、栄養満点なのだと長老は笑う。撒き終わったら、これらを鍬で畝の土と混ぜ合わせていく。長老は鍬を細かく捌いて土を混ぜる。僕も見よう見まねで鍬を入れる。白く乾いた畝の中の茶色い土があわらになり、黒い堆肥、牡蠣殻、ペレットと混ざり合っていく。中央だけでなく畝の縁からも土をすくい
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