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三島駅南口駅前広場整備計画案について

 先日、用事があり三島の市役所を訪れた際に、三島駅前広場の計画資料や模型が展示されていました。それを見て市民であり、ランドスケープアーキテクトとして、思うところがあったので、せっかくの機会に記載しておきます。(計画に対する意見を書いてしまうと設計界隈の方に怒られそうだけど、今回は市民、つまり当事者ということでお許しを。)
 それに、少し考えたことを整理できたので、自分のランドスケープ観や公共空間の設計の考え方を理解してもらうのにちょうどいいかと思いまして。

最初に模型を見て気になったこと
・屋根が多く、雨天時利用が最優先になっていること。
・「駅前広場整備計画」としながら、車利用の交通空間の改修に重点が置かれていること。現状窮屈な歩行者空間がさらに窮屈になりそうなこと。
・同じタイミングで始まる(敷地としては隣の)東地区開発とのつながり。

展示されていた模型

 このあたりがパッと見て気になったことですが、その後、公開されている計画資料で詳細も確認した上で、どうあるとよいか、自分だったらどう計画するかなど考えてみました。
 そして思うところなど下記のように整理してみました。



整備の方針に対して

空間構成やつくる施設に関して、上に書いたような気になるところがあるが、そもそも公共の屋外空間のあり方について思う部分をはじめに。

 計画の方針として、「玄関口としての顔と親しみやすい空間の創出」とあるとおり、本計画では地域の玄関口として、地域資源を活かす三島ならではの改修整備・修景を目指してほしいと思う。
 また、この駅前広場整備に限らず、周辺の開発も都市部の同じような駅前開発にならないことを望む。(再開発が三島に不似合いな複数の高層ビル計画なこともあり)
 駅前再開発全体において、イメージや景観を考慮して、方針からデザインまで開発エリア全体で揃えるべきと考えている。それを踏まえて以下。

 「玄関口としての顔と親しみやすい空間の創出」という方針に対し、計画で主に取り組むことは、バスとタクシーのロータリー転換と利用者の要望に合わせ、動線に屋根を架けること。機能を補填し、利用しやすくなるのはありがたいが、「玄関口としての顔」づくりと言えるだろうか?
 タクシーとバス利用のための改修と屋根をつけることに対し、人の滞在場所は現状よりさらに小さくなっており、方針と整備項目に差異を感じるところ。
 三島駅は、地形を見ても三島の重要地点に建設され、利用状況など見てもまさに地域の中心施設。(よくこんなとこに建てたなという議論にもなりそうなくらいの立地)
 市民以外にも多くの利用がある施設で、三島のシンボルのリニューアルを大事にしてほしいと感じる。

富士山から恩恵をリアルに受けるこの界隈

-静岡県東部地方の公共空間として・伊豆の入口の駅の一つとして-
 三島など静岡県東部の人たちにとって富士山が見えるのは当たり前であり、どこか心の拠り所にしている人が多いと思える。そんな気質がある一方で、三島駅の周りでは、ここ20年間ほどでホテルや教育施設など高層の建物が複数建ち、これまで気持ちよく見えていた富士山が徐々に見づらくなっている状況だったりもする。
 本計画で屋根が多くかかるのは、高層ビルが建つのと同様に視界が塞がれ、その状況にさらに拍車がかかると予想される。雨天利用の配慮は必要かもしれないが、晴れる日はなるべく富士山の視界を遮らないような計画・設計を地域からは望みたい。

この20年ほどで建った駅周辺の高層建築

-三島の中心の公共空間として-
 三島というエリアでくくると、やはり水(富士の湧水)というのはこの地域の大事な要素。
 20年ほど前の前回整備では、泉や水路が整備され、駅の前で湧き上がる泉と、三島の街に導くように流れている水路とがほどよい居心地の良さをつくっているような気がするし、ランドスケープデザインという観点で見ても、地域の資源を的確に捉えた景観要素と思えるところ。
 自分だけに限らず、ほか様々な利用者の話を聞いても、今ある泉や流れが「三島に来た実感をくれる」という評価があり、批判も聞いたことがない。利用者に愛でられている良い要素を、20年前の整備の良かった痕跡としても(少しでも)残せる改修にできるとよいと感じる。失われてしまうのは残念。
 こういった背景は、他地域の設計者ではなかなか認識できず、気づくに至るのも時間がかかるので、周りにいる地元関係者が要望を出しているとよい(が、 ランニングコストがかかるために水をやめたいというのが一番の理由と思うと、地元側から不要としている可能性は高い。)

現状の泉:主動線の通路幅が狭いのはかねてから気になるところ。雰囲気の良さでカバーしてる?

 ただ1つの敷地改修として特徴的な意匠を施すのでなく、地域性との調和や周囲の町並み景観と馴染ませることを大切にし、自然や歴史などこの場所が積み上げてきた時間を感じられる改修になってほしいものである。


整備計画に対して

設計に対して気になる箇所も記しておこうかと。
現計画案では下記の点が、駅前広場整備の機能や意匠上大きなポイントとなると思い、慎重な検証をお願いしたいところ。

現計画平面図

歩行空間の「連続する屋根」

1. 屋根を動線および乗車エリア全面に架ける必要があるか?
 屋根面積がロータリー部分を除く敷地面積の50%程というのは大きすぎないか。日常的な利用の他、富士山や楽寿園の森への眺望、夏祭り利用など考慮し、晴れている日の利用しやすさや心地よさも大事にしてもらいたいと考える。
 優先度を設けて、必要な箇所・不要な箇所を整理してはどうか。※下記、現状案に対する提案に記載

2. モチーフは適正か? 
 計画書本文に屋根の曲面形状についての記載があり、「周辺施設に馴染むよう「雲」がモチーフ」とあるが、周囲にない要素が馴染むといえるか。
 馴染むということは、形状や色彩の相性がよいということだと思うと、町並みのレベル・人の視点レベルにない、「雲」という要素が周囲の建物と馴染む要素とは考えにくいと思う。
 不特定多数の利用者がある公共空間の、屋根という交通の円滑化を図るの機能主体の施設にこの施設単独のモチーフ設定が必要かは検討する必要があると考える。(駅舎含めた整備範囲全体であったり、この場所を象徴する駅舎においてならまだしも。)

 地域のみなさんの想いが集まる公共空間のデザインでモチーフを活用する場合は、その地域の象徴になるものがよいと考えるところ。三島のイメージで雲を連想する人は、そう多くないような気がする。モチーフで着想するなら三島の共通イメージである水や緑にするなど整理があると良さそうな気がする。
 三島駅を富士山に見立てると雲がつなぐと捉えることもできなくはないが、このデザインは駅前広場だけで完結してしまい、これから広がる再開発エリアまでには展開できない可能性が高いように思える。(そもそも周りの再開発エリア全体に広げるには形状が特徴的すぎて、仮に広げたとしてもやり過ぎ感がでると思う)
 場所がら、今後の三島のイメージにも繋がってくるため、様々な視点やシークエンス・周囲の建物景観との調和など検証と、今後の駅南口周辺開発へのデザイン展開・景観の繋がりなど総合的に考慮しての慎重な判断をお願いしたい。

その他、計画プランの気になる箇所

・交通の機能が駅前広場の大部分を占めている。町の中心の場として様々な活用のための自由度高い場でなくてよいか?そういったスペースは必要でないか?※現在、祭りのイベントがロータリー中央で行われていることなど踏まえ。

・屋根をかけることによって、現状よりも人の滞在場所が小さくなっている。さらに泉はなくなる(?)も植栽帯に変わるだけで動線はそのままなので、二重の主動線がさらに窮屈になる。

・憩いの場が屋根に追いやられて窮屈に感じられる。車両交通と歩行者空間の優先バランスが偏っているように感じる。

・既設水路が光の道に変わるような説明があるが、自然の水と電気の光では(特に三島においては)重みが異なると思うと、水を活用できないか。
細かいことだが、足下の連続照明は見た目にはよいかもしれないが、まぶしく感じられることが予想され、日常利用を考えると向かないような気がする。(地方の駅はギラギラ明るくなくてよいという考えもあり)

・三島駅と共にあった樹木を突然切る判断とするのではなく、野鳥追い払い対策など試せないか?(鷹匠による追い払いなど)

・屋根が多くかかるため、今までより影が多く落ち、今と比べ全体的に暗くなる。(透過する材を使用するとしても)
雨をしのげる、夏の日射を遮るというメリットこそあるものの、天気のいい日に気持ちよくこの場所を使うことに配慮して、全面に屋根を架ける必要はないのでは?地域への入り口としてできる限り明るい空間とすべきでは。

・通行帯の幅とベンチなど休憩施設に離隔(余裕)がなく、通行・滞在しづらくないか?
など


現状案に対する提案

(さまざまな議論がなされて計画案が発表されただろう経緯を考慮して)現状プランに対する自分なりの提案

1.屋根を掛ける範囲を最小限にしてはどうか
 主動線と車両乗降箇所全てに屋根を架ける必要はないと思う。
(「富士山への視界」や「晴天時の活用」の他、高さの異なる屋根では通常より多くなる雨の吹き込みにより、雨天時に全く濡れずに通行することは難しい側面もあると考えて。)
 バス・タクシー・一般車両・外からの歩行者といった交通手段ごとに優先順位を設け、屋根の配置を整理してはどうか?
 例えば、三島駅と伊豆箱根鉄道の行き来+公共交通であるバスの乗車場に関わる動線部は全面架けるものとし、タクシー・一般車両部は30%程度にするとして、屋根の面積を抑える 等
 こうすることで、屋根の面積を現計画案の50%程度に抑えることができ、雨天時の円滑利用と地域が大事にしたい富士山や楽寿園の森の眺望や晴天時利用もある程度確保できる両立案が形成できると考えます。
 また、ここでは屋根が一番に目立つ意味がないと思える。存在感を抑えたシンプルな形状にしてもいいのではないか。

2.人の滞在できる範囲を拡幅してはどうか
 三島や伊豆の玄関口と考えると、人が滞在できる部分を今よりも大きく取れた方が良いのではないか?
 例えば、屋根を少なくするのに加えて、タクシーの待機場を車両1台分ほど小さくし、ロータリー車線1車線分ほど内側にセットバックして交流・憩いの場を大きく取る 等
 こうすることで、駅入口から交差点にかけての歩く人・腰掛ける人が多い範囲や緑地をいくらか広く取れると思う。※この範囲を広く取ることで、水利用のスペースなど検討可能となる。
 歩行者も心地よく利用・滞在できる駅前広場空間になればと思う。

屋根を主要動線のみに架ける場合のイメージ図

 再開発で大きく変わる三島駅周辺の第1事業なので、今後の開発との調和も見据えて、施設配置や意匠をじっくり検証した上で進めてほしい。
 設計側に立つこともある自分自身でも感じているところだが、事業者・設計者の一方通行の整備ではなかなか地域に好かれる場所をつくれなくなってきていたりもしていて、事業者には市民の意見を聞き取れる集会やワークショップなどの機会を設け、地域の思いを反映できるような取り組みを実施してつくりあげてってもらいたいもの。まだまだ計画途中であると思うので、各箇所よりよく変えていってほしいものである。


おわりに

 この計画以前から三島駅については思うことがあって、駅前広場に水辺や緑が整備されていることはいいポイントだけど、それらの象徴の場である楽寿園の広大な森が感じられないことは残念に思っていたりもしてます。
(駅前の建物で塞がれていて全く森を感じられなくなっている)
 小学校の遠足なんかで訪れて幼い頃から親しみ感じる楽寿園の森。地元民は見えなくても森があることはわかるが、初めて訪れた人もそれがわかるようにできらたいいのにと、いつも思っていたり。

 空間演出としては、あえて見せずに近づいたらわかるという方法を取ることも考えられなくはないが、やはり「地域を伝える」という意味ではわかりやすくシンプルに見せていくことが必要かと思うところ。
(銀行やお土産物屋の建物で完全に隠されているので、演出とは到底思えなく、ただただもったいない。)
 事業者には申し訳ないけど、建物の寿命が来たら減築するなりして、楽寿園の森が三島駅を出たところから見えるようになると、より豊かになってよいなと思うところ。駅を降りて、手始めに自然を感じられるいい雰囲気を醸し出してくれそうな気がしてます。

 20年前は白滝公園も建物の裏に位置し、開けるまで桜川があることも知らなかった自分ですが、いつの間にか白滝公園が開かれていて、「こんな公園があるなら地元に戻るのも悪くないか」と思い戻ってきたことから、余計にそう感じてしまっているのかも。

現状
三島駅から楽寿園の森が見えるイメージ ※余裕あったらそのうち描き直そうかと笑


 と、長くなりましたが、こんな風に三島駅前整備に関して考えています。再開発などいろいろ話聞いてく内に自分の考えも少しは変わるかもですが。※なので付け足しや補足は今後もしていくかもしれません。
 ここに限らずこのようなランドスケープ観で計画・設計をしているので、よかったらお見知りおきください。

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