自身の不甲斐なさについて

扉を開けた途端絶対逃さないぞと笑顔満載のパキスタン人から無言で必死の圧力を受け諸々の事情を把握した後、パキスタン料理食べ放題980円では生活が回るはずのないことを悟り渇望したわけではなくとも勧められたドリンクも追加料金で頼むくらいの決断は倫理や正義や善を持ち出すまでもなく可能であるのに、しかもそれがさり気ないお洒落で充満した世田谷区下北沢で起こり得るというのに、
星空ほどありふれた彼女の言葉に対して咄嗟に投げ返す機転がどこにも見つからなくて、しくじった鉛の魂だけが胃に溜まり桜が咲く頃まで消化されもしない。小田急線の灰色の手すりだけが重みを分かち合う。ただ、悔しかった。僕が電車ならとっくに衝突事故で砕けている、それほど運転が下手だった。

#エッセイ

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