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『夏』文字ネス・ビジネス・漢字ネス 〜時空を旅する形成と語源〜
【はじめに】
本日6月21日は夏至ですね。北半球において1年で最も昼の時間が長くなる日で、夏の象徴のはずですが、日本では梅雨の最中であることから真夏という認識はほとんどありません。かつ、春・秋のお彼岸の中日は国民の祝日であるのに、夏至・冬至は旗日ではない… そんなことからも就中日本では夏至は認知度が低いのかもしれません。しかし!夏という漢字にはパワーが秘められていますので、是非紹介させてください。
※本トピックスでは毎回、漢字の読み方のクイズも出しています。太字で斜体文字の正しい読みを考えてみてください! 文末に回答を掲載しています。全問正解になるかな?
【和尚の管見】
和尚の管見:夏という文字記号には、季節の「なつ」という意味だけでなく、「大きい」という意味があります。中国を表す中華は、古代には「中夏」と書き記していたそうです。「自分たちが中心で最も大きな国だ」という意味になりますでしょうか。そう、夏は「大きい」です! 色々悩みは尽きませんが、自分を励まし、夏にはどどーんと大きく行きましょう! 夏の海の空のように。夜空を埋め尽くす花火のように。
時には、超楽観主義者で良いのです。時にはスーパー野心家で良いのです。
「一年の計は元旦にあり」と言いますが、ほぼほぼ半年が経つ夏至の前後に計画を見直すのはいかがですか? 前期での達成・未達はあるでしょう。でもここで下方修正してしまうのは勿体ない。反省すべき部分はきちんと反省し、仕切り直して自分を大きく見せて、強気の修正計画です。夏が背中を押してくれますよ。私の辞書には「年計の訂(てい)は夏至にあり」と書き込んでいます(笑)
次に、この道の泰斗による語源・字源の解説を覗いてみる前に、留意点を記しました。
【両論併記のお断り】
本トピックは主に、漢文学者である故 白川 静(しらかわ しずか)立命館大学名誉教授の学説と、東京大学で博士号を取られた言語学者の加納 喜光(かのう よしみつ)茨城大学名誉教授の学説を並列に紹介するものです。お二方の学説、つまり漢字の解釈、字源の説明等は相違することが多いです。よって時には読者諸賢を煙に巻く、「一体どっちが正しいんだ」と混乱に陥れる危険性も孕んでいます。しかしながら、私は賢明なる読者の皆様にご了承頂いた上で敢えて両論併記を進めて行きたいのです。なぜなら、第三者によるお二方の学説の同時掲載なんてこれまでにない未曾有の記事で、両方をまとめて知れることで断然に面白いからです。
私の印象は白川静の漢字学は【ナラティブ・アプローチ】と言えます。白川先生は卓越したストーリーテラーで、漢字の裏側に広がる壮大な物語を見せてくれます。漢字を眺めるだけで三千年前の人類の息遣い(習俗・信仰・争い)が聞こえてくるようです。驚きあり感嘆あり、ワクワクが止まりません。
他方の加納先生の学説は、どちらかと言えば【エビデンス・ベースド】で解き明かしてくれます。古典資料を忠実に読み込み「言葉」が持つ意味からつまり証拠を集めて漢字の形成を推理していく。類似のイメージを持つ漢字をグルーピングして体系的に字源を紐解いていく、まさしくサイエンスです。腹にストンと落ちる納得感があります。
私が本トピックの裏メッセージとして伝えたいことは、ナラティブもエビデンスも決して二律相反ではなく、現代のビジネスシーンでは両刀使いが望まれます。ナラティブは相手型の視点に立つという側面もあります。TPOでナラティブとエビデンスを上手に使い分け、上司・同僚・部下・顧客とのコミュニケーションを図っていくことが要諦であると信じています💪
【学説の紹介】 「 夏 」
白川 静 『常用字解』 平凡社(P44)
象形。舞楽用の冠をつけ、両袖を振り、足を前にあげて舞う人の形。古い楽曲の名には九夏・三夏のようにいうものが多い。夏に大きいという意味があるのは、その舞楽する人たちの顔が大きく、体が大柄であったからであろう。(・・・) 季節の“なつ”の意味に使うことは、春秋期(紀元前770年〜前403年)の金文に至って初めて見えるものであるから、古い使用法ではない
白川 静 『常用字解』 平凡社(P44)
加納 喜光 『分かるようで分からない漢字の成り立ち−白川漢字学説の検証−』Amazon Kindle版 (P256-257)
「夏」は『詩経』では三つの意味で使われている。季節の「なつ」の意味、「大きい」の意味。また、中国の意味、特に殷の前にあったという王朝の名。これらを古典漢語でともにɦăg(呉音はゲ、漢音はカ)という。これらの意味を統括するコアイメージは何であろうか。<中略>「下の物をカバーする」という基本義があるという。(『漢字語源辞典』)「⌒の形に上から覆いかぶさる」というコアイメージと言い換えよう。覆われた下の空間は隙間なく広がる。面積が大きくなる。だから「覆いかぶさる」というイメージは「大きい」というイメージに転化する。古代の中国人は「大きい」というイメージを用いてɦăgを自分や自国の美称とした。これが中夏であり、後の中華につながる。また四季のうち、植物が最も繁茂して地上を覆いかぶさる季節の名とした。これが「なつ」である。このようにɦăgという語の深層には「覆いかぶさる」というコアイメージがあり、これが三つの意味を実現させるのである。ɦăgという聴覚記号を代替する視覚記号として「夏」が考案された。
加納 喜光 『分かるようで分からない漢字の成り立ち−白川漢字学説の検証−』Amazon Kindle版 (P256-257)
【和尚 本日の総括】
季節の「夏」は、「四季のうち植物が最も繁茂して地上を覆いかぶさる季節」という観察・イメージから現在の漢字が当てられたということです。古代中国人の自然への眼差し、それを季節に表す感性が素敵だと感じます。この話を受けて夏のイメージが変わってきますね。
また加納先生は、白川先生の「舞楽用の冠をつけ、両袖を振り、足を前にあげて舞う人の形」という「夏」の字源解説を反論していません。冠と両袖とあります。舞台用に大きな帽子や大き過ぎる衣装を、被せられたのかもしれません。すると覆いかぶせるというコアイメージと夏の字形が合致しますね。
さあ、今年の夏休みは植物の生命力を感じに、里山にでもお出かけしてみませんか?
【漢字の読み方 回答】
就中 なかんずく その中でも。とりわけ。
和尚 おしょう 一般的にはおしょうと読みます。僧侶のことです。
管見 かんけん《細い管を通して見る意》自分の知識・見解・意見をへりくだっていう語。
泰斗 たいと 泰山北斗の略。《「唐書」韓愈伝賛から》泰山と北斗星。転じて、その道の大家として最も高く尊ばれる人。
煙に巻く けむにまく 大げさなことや相手の知らないようなことばかりを言い立てて、相手を圧倒したり、ごまかしたりする。 ※この意味では けむりにまくの読みは誤り
陥れる おとしいれる おちい(る) という読みもあるが、送り仮名が違うので区別する。
孕んで はらんで
未曾有 みぞう 現代はネガティブな事象を形容するが、語源的には奇跡や珍事に使われる。仏教用語。
要諦 ようてい ようたいでも間違いでない。物事の最も大切なところ。肝心かなめの点。仏教用語。
出典 コトバンク 小学館デジタル大辞泉
以上
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