文字ネス ビジネス 漢字ネス 今日の漢字は「海」!字源を紐解くと海のイメージは悪い?
【はじめに】
こんにちは! 三連休はいかがお過ごしですか? 本日7月15日は「海の日」です。平成8年に制定された比較的新しい国民の祝日ですね。「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う日」です。私は海のすぐそばのお寺にいるもののお盆のお経回りの最中で日中海水浴はできないですが、奇しくも本稿は砂浜に座り込んで夜の海に向かって執筆を開始しましたのでちょうどいいテーマであります。よって今日の漢字は「海」です。
お盆の棚経(お経回り)については、より多くの地域がお盆に該当する8月に入ってから改めてまたお話しいたしますね。地域によって農作業や養蚕業(ようさん=かいこを飼育して生糸を作る)の繁忙期の兼ね合いでズレているのです。
※本トピックスでは毎回、漢字の読み方クイズも出しています。太字で斜体文字の正しい読みを考えてみてください! 文末に回答を掲載しています。全問正解になるかな?
※今回は、今日の漢字を使った間違いやすいビジネストーク例を掲載しました。参考にしてみてください!
【お坊さんの管見 ~漢字の連想~】
さて、「海」の字源を調べる前に、海について連想してみましょう。明るく賑やかなビーチ、白い砂浜に透き通る水。沖縄、カリブ、モルディブ、ハワイ…。贅沢なバカンスを思い浮かべる方も多いでしょう。視界を真横に切り取る水平線。広大な海が目の前にある生活では、楽園も空の彼方に望む必要はありません。水平線において海と空は重なり合っています。沖縄・奄美群島の宗教観は、西方浄土を天に求めるのではなく、水平線のその先に楽土”ニライカナイ”※1はあるのです。
鎌倉時代の仏教者・宗祖日蓮は「一天四海皆帰妙法」と主張しました。一天は天下の全て、四海は四方の海で、全世界を表します。世界中の皆が正しい教えに帰依すべきであるという意味です。海は世界そのものです。もちろん海は広いだけでなく深く、深淵です。海に潜れば、空空漠漠(くうくうばくばく)とした三次元世界が広がっています。
視点を変えると海は時間をも包括しています。海は生命のゆりかごとも言えます。地球上の原始生命は海の中で誕生しました。カンブリア時代のさらに前、オーストラリア南部で地層が見つかったエディアカラの海とその時代(約6億年前)が生命の揺籃期と呼べるでしょうか。そして今、私たち人類は未来に向かって「海」を探す旅に出ています。何かというと、宇宙探査です。惑星・衛星において「海の痕跡」を調べること、それはつまり地球外生命の痕跡でもあるからです。地表の氷の下に水が存在している可能性もあるとのことで、将来が楽しみですね。海を見つめることで、過去未来と時間を超越し四次元世界になりました。
さ・ら・に、ここで終わりではありません! 人の記憶を司る脳の一器官の呼び名を知っていますか??※2 人類80億人の記憶が「海」という漢字を通して繋がっているのです。いや、宗教者はこう考えます。川が大海に注ぐように何でも受け入れる「海」だからこそ、既に亡くなっている個々人の記憶まで内包しているに違いないと。最古の人類・アウストラロピテクス、いえ、サヘラントロプス・チャデンシスまで遡って、一体どれほどの数の”人類”が誕生して死んでいったのでしょうか。猿人有史以来、今日までの累積の数の人類の記憶といったら、、、途方も無い数です。五次元世界? 宇宙に行かずとも、クリストファー・ノーラン監督も『三体』作家・劉慈欣(りゅう じきん)氏もびっくりのパラレルワールドが果てしなく広がっているのです。
(注:最後の段落は「海」繋がりで言葉遊びの漫談です。生真面目に受け止めないでくださいね。牽強付会の謗りを免れません…)
前口上(まえこうじょう)が長くなりました。気を取り直して字源を見ていきましょう。漢字を考えた古代中国人は海に対してどんなイメージを持っていたか、興味深いです。
※1 ニライカナイ 沖縄や奄美群島で,遠い海のかなたにあると信じられていた楽土。記紀の神話に登場する常世(とこよ)の国に相当する。つねに現世と往来できる所とされ,火や稲をはじめ島人の祖先もここから渡来したとされていた。
※2 海馬(かいば) 解剖学。主に記憶に関連する脳の部位。形状の類似からタツノオトシゴの英語(Sea hourse、ギリシャ語ではHippokampus)が名前の由来。
※3 クリストファー・ノーラン監督 イギリス系アメリカ人の映画監督。アカデミー監督賞他多数受賞。「インセプション」「インターステラー」「TENET テネット」等。
【加納学説の紹介】 「海」
【結びに】
海は暗い。意外でしたね。読者の多くは、海は明るいという印象をお持ちではないでしょうか。時空を超えて、自然の観察は対照的であり、それがまた面白い点です。現代の中国人の方はどう思われているのか興味深いです。
上段で、海はゆりかごと書きました。私たちも産まれる前、母親の胎内にいる時は羊水という液体に浸っています。海の中で誕生するのと同じことです。加納先生の解説の中に、「每+氵=海」とありました。よく見ると「母」の文字が入っているではありませんか。海は母でした。生命の母でした。次回は、母と毎の漢字について、そして漢字創作者が感じていたという「暗さ」の秘密を解き明かしていきましょう!
【漢字を使ったビジネストーク】
①「3年前、研修終えたばかりで海の物とも山の物ともつかない俺を、課長はよく引き上げてくれたよ」
②「3年前、研修終えたばかりで海千山千の俺を、課長はよく引き上げてくれたよ」
表現は似ていますが、意味はいかがでしょうか? ②の読みも間違いやすいです。
① は、自分を謙遜していて自然な表現ですね。「海の物とも山の物ともつかない」は、物事の本質、正体をつかめず、将来が予測できず見当がつかないことの意味で、裏を返せば、今は成長して課長の期待に応えているぜという自信も垣間見えます。
②は、通じなくもないですが、①の意味と取り違えた可能性がありますね。海千山千は「すべてを知り尽くしており、ずる賢いこと」という意味を持つため、褒め言葉として使うことは誤用です。「部長、最終プレゼンお疲れ様でした!さすが海千山千ですね!」とヨイショしても”経験豊富で尊敬してます!”という意味には伝わらないということです。使うときは、「ずる賢い」という意味に置き換えて、使うかどうか判断した方がよいと『実用日本語表現辞典』の解説がネット上に掲載されていました。
【読み方クイズ 回答】
奇しくも くしくも きしくもは間違い。「不思議にも、偶然にも」。
西方浄土 さいほうじょうど せいほうと読むのは漢音です。仏教用語ですので呉音(呉の王朝時代の読み方)で読みますね。
帰依 きえ
揺籃期 ようらんき 揺籃はゆりかごという意味。揺籃に入っている時期。 幼年時代。 転じて、物事の発展する初期の段階。
司る つかさどる 読めても、送り仮名が間違いやすいですね。
牽強付会 けんきょうふかい 道理に合わないことを、自分に都合のいいように無理にこじつけること。また、そのさま。
謗りを免れない そしりをまぬがれない 非難されて当然であると、自分自身反省しています。
海千山千 うみせんやません 四字熟語だから音読みで「かいせんさんせん」と読みたくなる気持ちは分かりますが、ここは重箱読みが正しい。「海に千年、山に千年…」という故事を省略した形なので。
以上
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