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房総半島民にとって今回のダイヤ改正が死活問題なワケ


はじめに

 来年の3月に行われる京葉線のダイヤ改正の内容が炎上している。京葉線の快速の多くが減便、そして通勤快速が廃止されるなど大きな変化を伴うダイヤ改正で、その内容に千葉県知事や千葉市長ほか沿線自治体の首長も反応し、ニュースや新聞で取り上げられるなど大きな波紋を呼んでいる。
 が、どうも一連の反応を見ると、実際に利用している人から見ればズレていると言わざるを得ない内容が多くある。そこで、実際に京葉線・内房線・外房線を利用している人間からの視点で少し書いてみようと思う
 なお同時に房総特急の再編がなされ、それについても触れるが、総武本線・成田線系統の事情には詳しくないためこの記事で触れるのはさざなみ号・わかしお号のみで、成田エクスプレス・しおさい号については触れないことを予めご了承いただきたい。

普通列車に関して

京葉線について

 京葉線のダイヤ改正について、ネットやテレビでは主に京葉線沿線の千葉市民からの反応が多いように思われる。確かに「京葉線」についての大きなダイヤ改正であるから、京葉線の沿線でインタビューや取材をすること、沿線の住民から声が多く上がることは至極当然だ。
 じじつ、千葉市内の京葉線各駅、蘇我・千葉みなと・稲毛海岸・検見川浜・海浜幕張は快速列車が廃止されることで東京への到着時間が5~10分程度増加する。
 このことは大きいし、現在の快速通過駅にわざわざ快速を止めるほどの需要もない。これは、全17駅中で乗降客数を利用者の多い駅から並べると、快速停車駅が上位11駅で、残りの下位6駅が快速通過駅であること、快速通過駅の乗降客数をすべて合わせても約10万人で、快速通過駅を含めた全駅の乗降客数約120万人のうちの8%しか占めていないこと等からも裏付けられる。(すべて令和4年度の数字。下記サイトより)
 しかし、それよりさらに大きな不便を被っているのは実は内房線・外房線の沿線民だ。実はすでに京葉線の平日朝ラッシュ時の快速の運転は、ラッシュの一段落する9時ごろまで内房線・外房線からの直通列車を除けばなくなっている。また全ての通勤快速は内房線・外房線からの/への直通列車だ。日中の快速も以前は1時間に4本走っていたが、現在は1時間に2本(うち1本は外房線直通)に減らされている。
 ラッシュ時の快速・すべての通勤快速の廃止、というフレーズのインパクトは強いが、実は以前から少しずつなされていたことであり、京葉線の沿線の人々には比較的影響が少ないように思える。
 が、今回のダイヤ改正では内房線や外房線の沿線の住民からすれば、日中を除く京葉線への直通列車が通勤快速を含めて全列車・全区間各駅停車化されることは非常に非常に影響が大きい。

内房線・外房線について

 例えば内房線上り上総湊発の通勤快速は、全区間各駅停車されることで東京駅への到着時間が15分遅くなり、下りの君津行は所要時間が17分増える。
 
また外房線直通の列車は京葉線内のみならず、外房線内も普通列車化されるので(すなわち、八積・新茂原・本納・永田の4駅にも停車するようになるので)より影響は大きく、いわゆる「なるかつ」通勤快速は(始発・終着ともに勝浦から上総一ノ宮へ短縮されるので「なるかず」となるが)、上りの上総一ノ宮発で東京までの所要時間が19分増、成東発で12分増加する。同様に下りの上総一ノ宮行で23分増、成東行で10分増加し、下り「なるかず」前後の上総一ノ宮行快速列車も同じく所要時間が20分増加する。
 
先に述べたように外房線への直通列車は京葉線内の各駅停車化に加えて、八積・新茂原・本納・永田の4駅に停車することで所要時間が大幅に増える。この4駅の乗降客数を合わせても平成30年度で4600人、令和3年度で3800人に過ぎない。所要時間を5~10分増加させてまでこの4駅に停車させるだけの価値があるだろうか。
 これらの変更によって、内房線・外房線から東京方面への利用者にとっては往復で通勤時間が20~40分増加することの重みをJRはわかっているのだろうか。

ダイヤ改正の影響は沿線利用者に留まらないということ

 また、総武快速線のバイパス路線としての性格を持っていた京葉線が鈍足化することで、総武快速線回りで東京方面へ向かう乗客が増え、かえって総武快速線の混雑が増すという本末転倒な事案まで起こりうるだろう。
 のみならず、マンションや分譲の広告でよく見るように、東京まで快速列車で直通〇〇分!というような、広告に書かれる所要時間も当然増加するので、不動産価値や路線価、ひいては地域や都市としてのポテンシャルにまで影響する。千葉県知事や千葉市長が懸念を表明しているのはこのような理由もあるのだろう。

房総特急について

 房総特急わかしお号とさざなみ号について今回の改正の内容で目につくのは朝ラッシュ時・夕ラッシュ時に10両編成・9両編成で運転していたわかしお号が、全列車5両編成に統一される点だ。また、さざなみ号はすでに9両で走る朝の6号を除けば5両編成に統一されていたが、朝の6号も5両化され、同様に全列車5両編成に統一される。そしてわかしお号・さざなみ号ともに全車指定席化され、料金体系が変わる。ここからは特に変更の大きいわかしお号を中心にみていく。

「わかしお」という列車の性格

 わかしお号は需要が減少した房総特急の中で、唯一高い需要を維持してきた。さざなみ号とは異なり、並行する高速道路がないことや、土気や鎌取駅の近辺にあるあすみが丘ニュータウン・おゆみ野ニュータウンの開発が進んでおり、外房線全体の乗客が増えていることなどが要因としてあげられるだろう。
 ここからわかしお号には2つの性格を持っていると分析できる。蘇我・土気・大網・茂原の各駅から/へは、東京への着席有料速達列車としての性格、すなわち私鉄のライナー列車的な性格と、上総一ノ宮・大原・御宿・勝浦・安房鴨川などへの観光特急としての性格である。
 そしてこの2つの性格はわかしお号が茂原以北の需要がその多くを占めていることからもわかるように前者の性格が強い。
 また実乗車してみれば分かるように自由席に飛び乗りで乗る乗客が多いことからも、前者のライナー的な・気軽に乗車できる列車としての性格が強いことがわかるだろう。実際、自由席にあらかじめ特急券を買って乗車する乗客を筆者はほとんど見たことがない。

減車について

 さて、今回の改正では全列車が5両編成に短縮される。おそらくは255系の引退の分の穴埋めと、一部のE257系を波動用に捻出させるために房総特急を減車させて波動用の車両を確保するため、という2つの思惑が重なった結果だろう。
 確かに日中や、ラッシュから逆方向で9両・10両編成で運転される列車では空席が目立ち、確かに5両編成での運行が適正であると思われる。しかしラッシュ時のわかしお号は数年前まで10両全車自由席の列車が設定されていたことからも分かるように非常に需要が大きかった。コロナ化を経た今でもラッシュ時には5両編成にはとうてい押し込められない数の乗客がいることは変わりない。
 しかし朝ラッシュ時間帯の上りわかしお号の総両数をみれば、9両・10両・10両の計29両から5両・5両・5両・5両の計20両へと3割減少する。通勤快速の時間帯に合わせて1本列車が新たに設定されたが、それでも総両数は大きく減る。
 また、先述の通り内房線・外房線から京葉線への直通列車が総じて鈍足化され特急列車への乗客の移行も見込まれるなか、編成の短縮を進めるのは矛盾した施策であると言わざるを得ない。
 
JRは数年前から指定席を増やし、検札に割く人員を減らそうとコストダウンに努めてきた。その延長線上に今回の全車指定席化はある。JRは今回の全車指定席化によって特急の乗客が減少すると見ているのだろう。ダイヤ改正後に立ち客が生じ、乗り切れない乗客が出るようなざまにならなければいいが。

房総特急に関する他の変更点

 全車指定席化についてはそれほど異論はない。料金の値上がり幅も少なく、えきねっとトクだ値を使えば現行の自由席料金よりも安く乗車できる区間まである。
 しいていえば現在車内での発券の需要・飛び乗りの需要が非常に多いことから、直前まで特急券を買えるようにホームやコンコースに指定席券売機を置くことは全席指定席化の最低条件だと思われるが、どうだろう。
 また、他にも減便や区間短縮、土休日運休化などの変更があるが、前後の列車との発車間隔の調整や、通勤需要の多い列車を中心に土休日運休化がされているなどの理由からそこまで乗客への影響は大きくないだろう。

JR側の言い分をみる

曖昧な根拠

 ここからはJR側の言い分をみていこう。上の記事より引用すれば、「ダイヤ改正の主な目的に(1)混雑のばらつきを標準化(2)快速通過駅の乗車チャンス拡大(3)各駅停車の所要時間短縮―の3点を挙げた」とあるが、「(1)混雑のばらつきを標準化」については快速や通勤快速を維持したままでもダイヤの工夫でどうにかなる問題であるし、房総方面からの列車を主に通勤快速・快速として隔離する遠近分離がなくなることで、かえって房総方面から直通の各駅停車に過度に混雑が集中しかねない。「(2)快速通過駅の乗車チャンス拡大」については、先述の通り、通過する各駅に快速・通勤快速を格下げして止めるほどの需要は見られない。「(3)各駅停車の所要時間短縮」にいたっては最大で7分、平均で2分と非常にわずかな時間しか短縮できていない。果たして乗客の側になんのメリットがあるのだろうか。確かに通勤時間帯の並行ダイヤ化は田園都市線を筆頭にみられるが、それによる増発が見られない以上大した意味はない。
 加えて、「現行のダイヤでは、上り通勤快速電車は乗客が各駅停車に比べて7割程度にとどまる。」とあるが、そもそも需要が少ないのであれば、需要を喚起するべきであって全く手を入れずに廃止するというのはちゃんちゃらおかしな話だ。
 例えば上りの京葉線の乗客の動向をみるに私は①房総方面・蘇我方面から海浜幕張(幕張新都心)への通勤・通学需要②房総方面から東京方面への通しの需要③海浜幕張以北から東京方面への通勤需要と大きく3類型に分類できると考えている(正確には市川塩浜から武蔵野線直通列車が入ってくるが)。この3類型から分かるように海浜幕張で大きな乗客の入れ替わりがある。
 そこで例えば、通勤快速を海浜幕張に停車させることで、通勤快速に①房総方面・蘇我から海浜幕張(幕張新都心)への需要と②海浜幕張から東京方面への需要を取り込むことができ、海浜幕張で緩急接続をすることで③千葉みなと~海浜幕張の乗客を通勤快速へ回し、④逆に房総方面からの乗客を海浜幕張で各駅停車へ乗り換えさせ幕張豊砂以北への利便性を上げることもできる。或いは通勤快速・快速廃止と引き換えに特急を海浜幕張や新木場に停車させることで一定数特急へ遠距離の乗客を分離させる。等が思いつく。もちろんこれらは鉄道会社側の事情を加味しないただの妄想に過ぎないけれども。
 「逆に夜の下りは通勤快速に集中しており、各駅停車への乗換駅となる新木場で混雑が発生している」とあるが、これは全く理由になっていない。なぜならば通勤快速から各駅停車へと新木場で乗り換える乗客などいるわけがないから、だ。東京方面から蘇我方面へ向かうときに最初に追い越しができる駅は葛西臨海公園で、新木場時点で追い越しはできない。東京から各駅停車に乗っていても、通勤快速に乗って新木場で乗り換えても結局同じ各駅停車にしか乗り換えできない。これが、後続の各駅停車を待つ乗客で混雑が発生している、というのであれば筋は通るが、前者なのであれば単に駅での案内や周知の不足である。また後者であったとしても各駅停車を先行させるなどのダイヤ上の工夫で対応できるように思える。

終わりに

 もちろん、将来的な沿線人口の減少や、コロナ禍以降の乗客の減少を踏まえれば、ダイヤ改正において減便・減車がされるのは理解できることだ。しかし今回のダイヤ改正はそれを踏まえてもなお性急すぎるし、乗客には総じてメリットのない「改悪」と言っていいだろう。
 自治体への根回しもせず、ダイヤの工夫もせず、ただ杓子定規に、結論ありきのようにダイヤの「改悪」をするJR東日本は、公共交通を担う事業者として疑問符をつけざるを得ない。
 
沿線自治体の首長には大いに頑張っていただき、少しでもダイヤの改善がなされればと思う。

参考文献

2024年3月ダイヤ改正について 千葉支社

https://www.jreast.co.jp/press/2023/chiba/20231215_c01.pdf

統計情報リサーチ JR京葉線の駅別乗降客数ランキング

京葉線ダイヤ改正は実施の考え JR千葉支社長「丁寧に説明したい」 通勤快速廃止などで批判受け【追記あり】 千葉日報

(全て12月25日閲覧)

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