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愛林館メールマガジン タナダからの手紙 10月下旬号

(このメールマガジンは、環境省環境フィールドミュージアム事業の支援を受けています)

香り米をめぐる猪との攻防


香り米「もち万石」を育てていた愛林館の棚田。9月に猪に入られたので、慌てて9/28に電柵を張りました。電柵は、1秒に1回、4000Vの電気を電線に流しています。猪の鼻が電線に触ればビリッと来て、その猪はもう柵に触らなくなります。猪は嗅覚が非常に大事で、鼻の先は敏感な部分です。そこに4000Vの電気が流れるのですから。
4000Vはすごい電圧ですが、電流はほんの僅かなので、猪や人が触っても死ぬことはありません。冬に化学繊維の服を着て静電気が起こり、ドアに触ったらビリッと来ることがありますが、あれと同じくらいの電圧と電流です。

猪対策の場合は、電線の高さが地面から20cmと40cmになるように、なるべく緩く張ります。猪の鼻に効果的に触らせるには、ピンピンに張ってはいけないのです。そうなると、今度は草が電線に触る可能性が出てきますね。なので、電柵を張ったら、電線回りの除草が面倒です。

大豆耕作団の畑の場合は、綿シートで草を抑えていますが、田の場合は電柵を張る場所が田の中だったりあぜだったり道路だったりまちまちなので、まめに草を刈るしかありません。

だから、時々見に行って電柵がちゃんと機能しているか確認する必要があります。今年は油断して数日見に行かず、その間に電柵をくぐり抜けて1家族(多分)に入られてしまいました。原因は、電池と本体の間の電線が外れていたことです。ああ情けない。

1007猪の足跡

1007跳ね上げられた電柵

でも、猪はグルメなので、稲を食われることはありませんでした。猪が暴れて踏み倒しただけで済みました。


愛林館の棚田では、稲刈りを終えました

電線を補修た後は油断なく管理して、10/14に稲刈りとなりました。いつも収穫をお願いしている久木野まるごと農場が、今年はできなくなってしまったために、昔からお世話になっている鶴田等さんにお願いしました。


等さんのコンバインは大きいので、棚田の上り下りが大変です。でも、慎重に操作して、何とか修了しました。動画で通っている通路は、2014/10/31に「みなまた環境大学」の一環として石垣を積んで拡幅したところです。

もち万石の稲わらは硬いのこで、ヒノヒカリとは違ってわらを刻まずに排出します。刈り取りと脱穀を同時に行い、久木野まるごと農場の乾燥機に入れて一安心です。


肥料をやって、普通に育てると私の身長(173cm)くらいになるのですが、肥料は全くなしで、今年は120cmで済んだかもしれません。毎年、低めの株から種を取っている成果もでていたかもしれません。

1014あまり高くならなかった万石

のげもなるべく少ない株の種を取ったので、だいぶ少なくなりました。のげとは、籾の先端に生えた毛です。麦の穂を思い浮かべてもらえば、すべての種の先端に長いのげが生えているのがわかりますよね。動物に食われないよう、植物が身を守る手段の一つです。穂が出た時期に田の中を歩いてみると、大したことはないように思えるのげでも、ずいぶん不快になることがわかると思います。

籾の乾燥機や、籾すり(籾から玄米を作る)の機械にとっても、のげは大敵ですから、できればなくしたいですね。なので、種を取る時になるべくのげの少ない株を選んでいます。少し効果がでてきたようです。

こういうことは、地域の篤農家が昔からやってきたことなのですが、まさか私のようなふゆじ(怠け者)が品種改良の初歩を行うとは思いませんでした。弘前大の石川教授の指導のおかげです。

全体的な収穫量は、水害で苗が流されたり土砂が流れ込んだりしたもので、豊作の半分くらいでした。それだけ採れただけでも感謝しないといけませんが、猪の害は防げたはずなので、そこは来年への課題です。


わらから始まる綱引き

10/18は兵庫県市川町の棚田フェスに参加しました。NPO法人棚田LOVER'Sの永菅君の主催行事です。

ここで、沖縄の西表島出身の音楽家まーちゃんうーぽー(山下正雄)さんの指導で、綱引きの綱を皆で作りました。最初はただのわらですが、それを両手でねじって縄をないます。水俣弁だと縄を「ねる」のですが、手でねじる感じがよく出ていて、共通語よりもわかりやすいかな。

私も、大昔に教室でちょこっと習っただけですが、やっているうちに何とか縄になりました。6mの長さの縄を16本作り、2本の縄で1本の縄を作り、その2本でまた1本の縄を作り、缶ビールくらいの太さの縄が1本できました。

棚田フェスは、食べ物、雑貨が並び、ステージではアマからプロまで、子供から大人まで、いろいろな出し物があって、盛況でした。そのイベントの最後を飾るのが100人綱引きです。とは言っても、6mしかないので100人同時は無理。片方に10人ずつ、一度に20人が綱引きを5回したので延べ100人にはなりました。

西表島では、東西の地区対抗で東が勝てば豊年満作、西が勝てば子孫繁栄ということになるそうです。米の収穫を終えた7月の行事です。

今回、大人の男だけ20人(私も加わった)で本気で引いたのですが、綱は切れませんでした。わらからこれだけのものができる過程は、大変面白かったです。また、棚田フェスの思い出として、音楽(聴覚と視覚)、食べ物(嗅覚と味覚)の他に縄をねる、綱をひっぱるという触覚が加わって、思い出も重層的になりました。

愛林館の行事でも、ぜひやってみたいです。動画は縄をねるところから指導してくれたまーちゃんうーぽーさんの撮影です。前半はまーちゃんバンドの歌、26分ごろから綱引きになります。


竹炭を焼いた

このメールマガジンは環境省の環境フィールドミュージアム事業で発行していますが、その一環として、炭焼きによる炭素固定も行っています。これから竹炭を焼くことにしました。

竹を切って、炭に焼くわけです。竹の体は、光合成で作ったブドウ糖をつなげたセルロース。二酸化炭素と水というありふれた素材から、ブドウ糖という複雑な有機物を常温常圧で作るのは人間にはできない技です。そうやって作ったセルロースの中には炭素がたくさん含まれています。炭に焼くと、一部は燃えて二酸化炭素に戻り灰になり、一部は煙(主成分は酢酸)として空気中に出て、残りの炭素は炭として残ります。

炭を田畑に撒けば、水や養分を捕まえてゆっくり出したり、微生物のすみかになったりして土壌改良になります。そして、炭は生物によっても分解されないので、炭素がいつまでも土に残ることになります。空気中の二酸化炭素の中の炭素が固定されるので、温暖化対策になるのです。

今回の炭焼は、水俣市の二酸化炭素削減目標に影響するくらいの炭焼をするにはどれくらいの労力が必要か検証するための実験です。とりあえず、1回目は久しぶりの炭焼で、濡れていた窯を乾かすためにたくさんの材料を燃やす必要もあって、焼けた炭は60kgくらいです。控えめに見て、炭の7割が炭素とすると、
60kg×0.7=42kg
の炭素が固定できました。二酸化炭素CO2の量としては
42kg×44/12=154kg
になります。1世帯平均の二酸化炭素排出量は
2.80トン/年=7.67kg/日
ですから、
154/7.67=20.1日
で、1世帯が20日に出す二酸化炭素を固定できました。私個人で考えれば、まずまずですが、水俣市に影響を与えるほどの量ではありませんでした。これから、もっと回数を重ねて、計算データの精度を上げて行きますね。

こんにゃく芋掘り

愛林館の玄関横でこんにゃく芋を育てているのですが、茎がだいたい倒れたので掘ってみました。

自分で育てて3年目なので、茎の太さから芋の大きさも大体見当がつくようになりました。材料として使えそうなのはほんの数個で、残りはまた植えて太らせます。

愛林館では久木野の方から買取もしています。良く洗って泥を落とし、芯を残して切り、茹で、皮を剥いて冷凍すると、長く貯蔵することができます。現在、まだ昨年の芋が残っていて、生産の方は安心です。

写真は、一番大きかった芋です。こんにゃくが30個以上できます。左手の下に、子芋ができています。これから始めて親芋のサイズになるには、10年くらいかかるかもしれません。

1025こんにゃく芋


長島の風車

不知火海の西側に長島という島があります。鹿児島県になりますが、水俣のすぐ近くで、釣りが好きな人は良く行く場所です。先日、海峡の川のような流れを眺めながらおいしい魚を食べました。

ここには発電用の風車が21本立っていて、水俣からも見えます。この風車は回転直径が92m、塔の高さは70mです。2008(平成20)年に完成しました。

熊本市周辺の方は、阿蘇外輪山の風車(西原村)を見たことがあるでしょう。あそこは回転直径66m、塔は60mです。

現在、水俣には3カ所で64本の風車を立てる計画が持ち上がっています。いずれも、よその会社が水俣の風を利用しようというものです。回転直径は120m、塔は最高で150mあり、阿蘇外輪山の倍のサイズです。熊本駅前のタワーマンション(熊本市で最高の建物)は123mで、それよりも高い計画です。また、塔1本で4反(4000平方m)の土地を使います。サッカーの正式なピッチの半面よりも広い面積です。(日韓ワールドカップの決勝が行われた横浜スタジアムのピッチは7704平方m。)

風力の有効利用は大切ですが、大きな風車が環境にどう影響するでしょうか。



歌人を102人育てた(2)

熊本保健科学大学で開講した私の講義(ウェブ上に私の書いた文章を載せて、学生は読んで短歌でレポートを送る)は「環境と経済」という巨大な名前なのですが、この回は環境と経済という言葉の意味などを講義しました。


〇経済を回していくの一番に そんな社会をとても変えたい

*今の社会で良いと思っている人、良くはないけどあきらめている人、それぞれ大勢いるのですが、あきらめずに変えていきましょう。すぐには変わりません。


〇エコロジー エコシステムにエコノミー カタカナたくさん こんがらがった

*こんがらがって誰が得をするかを考えましょう。


〇会社では 目先の利益追うけれど 帰ってこないもとの環境

*皆さんは十数年前しか知らないでしょうけれど、私は50年前も知っています。それが失われたのは大変残念ですが、私の作ってきた社会でもあります。皆さんの世代に申し訳ない気持ちです。


〇資料の みんなの短歌をみていたら レベルが高くて書くのに困る

*全部で百数十首の中から優秀作を選んでいます。全部がレベルが高いわけではありませんので、心配はいりません。


〇金儲けしたいがためのバクチ打ち 残ったものは迷惑だけか

*バクチ打ちの中には大儲けした人もいます。というか、大儲けしたいからバクチ場を開いて参加者を募るわけです。


〇いいことに目が行くことで気が付かぬ いつから海が汚くなったか

*「いいこと」は短期的な表面的なことが多いですね。北九州市の洞海湾とか、ものすごく汚かったところがきれいになった例はありますが、ほとんどは昔のような美しさは失われました。浅い海をいじりすぎて、海水・空気・地面の触れ合う場所を減らしたためです。


○経済の 話はとても 難しい 理解できても まだ難しい

世の中に、すぱっと割り切れて簡単なものはありません。難しいことは多々ありますが、「どうせわからないから」「私はバカだから」などと言って諦めてはいけません。皆さんの前途は長く、多くの可能性があるのです。私の前途は皆さんよりは短いですが、まだまだ学びたいことは多いです。


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