英国旅行記2016年9月 Chatsworth Houseへ
2016年9月に英国を旅行した記録の3日目です。3日目は宿泊したSheffieldのホテルを出て、バスでChatsworthへ向かいます。だいたいバスで1時間ぐらいです。
Chatsworthはカントリーハウス研究の第一人者・田中亮三先生の著書『英国貴族の城館』『英国貴族の館』の表紙を飾った、デヴォンシャー公爵家の屋敷で、同書を参考にしたと思える人気作品『Fate/stay night』の背景画として使われた場所であるため、知っている人も意外と多いかもしれません(12年前にブログで言及)。
というところがありつつも、カントリーハウス研究者としては絶対に行きたい場所でした。(1)田中亮三先生と直接お話しする機会があった際に一番としてあげられていたこと、(2)家事使用人研究をしていた時に取り上げた、この公爵家で働いたヘッド・ガーデナーのパクストン(クリスタルパレスを設計)のデザインした庭園があること、(3)デヴォンシャー公爵夫人(当時)の話を『ミットフォード家の娘たち』(六姉妹の六女)で読んでいたこと、(4)岩倉遣欧使節団が訪問していることなどがあげられます。
特に興味があったのが、デヴォンシャー公爵家のビジネスでした。公爵家は度重なる相続税で劇的なダメージを受けたにも関わらず、再建しました。以前、BBCが製作した『Aristocracy』という番組(VHS)で公爵夫妻へのインタビューを見て、そこから公爵家が出している屋敷に関する本を購入しました。彼らは農産物加工品を販売している実業家でもあるのです。
さらに、公爵未亡人(出版当時)が屋敷内を案内する写真集があり、それを購入した身としてはいつかは行ってみたい場所でした。さらに私の同人誌『英国メイドの世界』で、作中のモデルとする屋敷の地図は、Chatsworthをモデルにしています。
というところで、この度のメインでした。
1. バスの旅で見る英国らしい風景
Chatsworthまではバスで行きます。このバス旅が、英国らしい風景を満喫するものでした(類似するのは2018年に旅行したグラストンベリーへの道)。最初は鉄道が通る平地の街からスタートして、段々と坂道を登り、丘をいくつも超えていくことになります。その過程で小さな街をいくつか通り抜け、いくつもの丘を登りきると、田園風景が広がる風景を見下ろすことになります。
1. 屋敷へのアプローチ
そしてそこから丘を降りていき、ようやく屋敷へと到達します。実はバスで到着すると屋敷のすぐそばで、遠くから屋敷を見ることができません。入場時間まで間があるので、まずはアプローチから。
撮影は橋の上からです。
そして少しずつ近づいていきます。
2. 先に庭園めぐり
屋敷の中があくまで時間があったので、先に入場可能な庭園を巡ります。ここがパクストンがデザインした庭園です。かつては、クリスタルパレスの原点とも言える巨大な温室があり、その温室の燃料たる石炭を運び込むために鉄道も引かれたと言われていますが、維持できないために破棄されています。それでも、パクストンの痕跡は見いだすことができます。
壁際に据えられた階段状の温室で、ほとんど見ないデザインです。
中はこんな感じに。
上から見た場合。
大きな普通の温室もあります。
Chatsworthは屋敷の奥に丘があり、そこから屋敷を見下ろす形となっています。残念なことに外装工事中(英国の屋敷訪問ではよくあります)で、覆いがかかっています。
そしてこの撮影場所を振り返り、丘を見上げると、丘を流れる「THE CASCADE」という噴水からの水路を見ることができます。下から見上げる水路。
上から見る水路。
この「水」を使った見せ方は、建築当時は世界一高かった(はず)という噴水にも通じています。噴き上げる噴水と屋敷。
噴水がある池は巨大です。
この噴水の側に、日本人にはおなじみの建築家ザハの謎オブジェがありました。
3. 屋敷Chatsworthへ入場
時間が来たので、いよいよ屋敷の中に入ります。
実は最も有名な写真のホールは玄関ホールではなく、玄関はこんな感じになっています。屋敷が正方形となっているので、この玄関を入り、廊下を左に曲がり、右に曲がったところがあのホールになります。
廊下。床の装飾も美しい。
そして廊下を右に曲がると、息をするのを忘れるような美しい光景が出現します。
比較用に、プロの写真家の増田彰久氏が撮影した、田中亮三先生の『英国貴族の館』の表紙写真も掲載しておきます。重厚感が違いますね。
というところで、階段愛好家として様々な階段の角度で迫ります。実は階段の奥にさらに階段があります。
ややピンボケ。階段の両脇には通路。
窓を写す構図で。
そして人が増え始めていきます。これが真正面?
左から。
ここからすぐに階段を登れるわけではなく、左脇の廊下を抜けて、ぐるっと回ってこないといけません。
外はこんな感じに。正方形の建物の真ん中は中庭になっています。
これが廊下の先にあった部屋に飾られていた、屋敷の模型です。手前が今いる正方形の建物で、これに長方形の建物、そしてさらに奥に別の建物が連結しています。全部を見学できるわけではありません。
そして礼拝堂を抜けて、ようやく階段です。
階段の上から見る景色はこんな感じです。
そしてさらに階段。階段マニア歓喜です。
さらにそこの階段を上がってから下を見ると。
というところで、テンションが通常営業に戻ります。撮影対象が多すぎるので、適当にいくつか掲載します。
廊下も大好き。
陶磁器や銀器を飾る廊下に遭遇。
さっきの噴水が見える場所に来られました。
そして、また階段です。ありがとうございます。
肖像画も数多く。
さらにここは天井も美しい。
洗面用のポットと洗面器セット。ベッドルームをいくつも通過していきます。
お風呂が戸棚の中に。初めて見るタイプ。
執事が磨いたであろう銀器。
業務で使う裏階段的なもの。装飾はなく、左側はエレベーター。
さっき見下ろした階段に到達。ここから、最初のホールを見下ろせます。
手ブレがひどくなってきていますが、この辺でピアノ演奏をしてくれている紳士がいます。なので、音楽の中、見学できます。
図書室。
ダイニングルーム。
あとは公爵夫人についての写真展示があり、最後に大理石像の展示室があります。
階下は見ることができません。以前見た映像では現役でもあり。ただ代わりに、かつてのキッチンを描いた絵の展示があります。
4. 庭園散策再び
パクストンより前に、ここでも造園家の"ケイパビリティ"ブラウンが景観を手がけていました。Harewood Houseに続き、彼のデザインを味わうことができるのです。
屋敷のある側から、丘に広がる形式は造園家が手を入れて作った景観です。自然に見えて自然ではない、英国庭園です。手前が先ほどの噴水がある池で、そこからそうとうに凹んでいて、川が流れていて、その向こうに丘があります。しかし、ここからはそうは見えません。木の配置も、人為のなせる技です。
これはただの並木道ですが、こういうのも大好きです。
あとは、フランス的な整形庭園ですね。木を刈り込んだ直線的なもので、迷路があります。
そうかと思いきや、自然に見えるようなデザインの池もあります。
そしてパクストンがボイラーのために作成した石炭用のトンネルも残っていました。しかも、通れます。
階段を降りて左側の穴を抜けていくと、下の写真のところに出ます。こちらから見ると洞窟(グロットー)ですね。
石積み大好きですね。
パクストンの作成した巨大な温室の写真展示もあったので、ご紹介を。この一番上の写真の建造物が、温室です。
適当に歩いていると、自然と融和したようなデザインの庭園に遭遇していきます。
洞窟の休憩所も。
外を見るとこんな感じに。
こういう水路もあります。素敵。
池です。全て人の手が入っているものにて。
丘の上から。もうすぐ最初に紹介した「THE CASCADE」に近づきます。
この木々の隙間から迷路が見えますが、その向こうに広がる丘の上の木々もまた、造園家のデザインによるものです。
特にその意匠がわかるのが、以下の画像です。この中央にある森の真ん中に綺麗に間が空いているのがわかると思います。これが、造園家の仕事です。
5. そしてキッチンガーデンへ
普通に考えるとお腹いっぱいかもしれません。しかし、階下の散策がない分、まだまだ余裕があります。今回、屋敷で到達していない場所、それはキッチンガーデンです。
ここは高い石壁に囲まれたキッチンガーデンではありません。いつのまにか、キッチンガーデンに入り込んでいる形になります。
露地的な畑を通り抜けていくと、温室やガラスの覆いで植物を管理する場所へとたどり着きます。
ガラスの覆いで即席の温室に。
玉ねぎ祭り。
かつての作業部屋?
椅子にストーブに。
リンゴの木。
ネギ。
花もいろいろ(詳しくないのですが)。
そして山積みの丸太。薪に使う?
整形庭園。
そしてぶどうの温室。
というところで、だいたい一周できました。
他の設備では、厩舎はレストランになっています。
6. ゲーム(猟鳥)保管庫
最後に、バス停へ向かう途中にGame Larderがあることに気づきました。
中はこんな感じで、ぶら下げるためのフックがあります。
部屋の説明は以下に。
終わりに
見る場所が多すぎるChatsworthですが、庭園があまりにも広すぎるので、体力がいります。唯一残念なことは階下の展示がほとんどないことです。
『Fate/stay night』の聖地巡礼で日本からの来訪者が増えるかもしれませんが、私が訪問した時は日本人はほとんどいませんでした。ただ、英国のカントリーハウスではトップクラスの歴史と豪華さ、美しさを体現する場所ですので、1日をかけての訪問をオススメします。
この次のは、ロンドンに滞在してナショナルギャラリーと、ロンドン漱石記念館に行きました。明日メドに、続きを更新します。
いただいたサポートは、英国メイド研究や、そのイメージを広げる創作の支援情報の発信、同一領域の方への依頼などに使っていきます。